栄光の架橋
慶喜は立ち上がり、あと少しで手の届くゴールに足を向けた。大木の先が輝いて見える。
――長かった。ようやく栄光のゴールに辿り着ける。
生き残っているのは、自分だけだろう。つまり、ゲームはこれで終わりだ。
もし、この先まだゲームがあったとしても、虫の息の参加者たちに負ける気がしない。
頭の中で、ゆずの歌う「栄光の架橋」が鳴り響く。あのCDから流れる曲以外を思い出すのは久しぶりだった。
「いくつも~の~日々を超えて~…」
思わず口ずさんでしまった。それくらい、慶喜は気分が高揚している。
オリンピックの表彰台に登るような心地で、右足を前に出す。気分は金メダリストだった。
周囲には、自分を祝福し拍手する天使たちが見える。その中には、あの夜巨漢の老爺を倒した時に現れた女神もいて優しく微笑んでいた。
自然と、感動の涙が流れる。
ゴールの先には「ゆず」がいて、ギターを手に慶喜と共に歌っている。
「たどり着いた~今がある~だからもう迷わずに進めばいい~」
慶喜の口ずさむ声は、涙声になりながらも徐々に大きくなっていく。
「栄光の、架け橋へとぉ~おっ?!」
歌いながら両手を広げた時、左足を誰かに掴まれ、突然の事に対応できず、慶喜はうつ伏せに勢いよく倒れてしまった。
誰かも何も、英二しか思い当たらない。したたかに地面に叩きつけられた顔を歪ませ、呻き声を発しながら足元を見ると、英二らしき人物が這いながら慶喜の足にしがみついている。
天使たちや女神の姿は、消えていた。見えるのは、言われなければその人と気付かぬ程、顔立ちの変わった英二の姿だ。
所々腫れて、赤や青の痣や傷だらけ。肉がえぐれている所もある。両目は大きく腫れて、異常な程の糸目になっている。腫れてえぐれたタラコ唇からは、血が流れていた。歯は元々無い。
慶喜が攻撃したのは顔だけだったが、それまでの戦闘や大木にしがみつき地面に叩きつけられた衝撃で、他の場所にもダメージを受けているだろう。
実際、英二が飛び掛かってきた時の戦闘では英二の動きの鈍さや力の無さは顕著だった。
ここまでしぶといとは、とうんざりするが、この状態の英二と戦う事は赤子の手をひねるようなものだ。
「うおおおあああああああ!」
英二は糸目でもはっきり分かる程、目を血走らせて這いながら慶喜に飛び掛かってきた。
その形相に怯んだ慶喜は、次の瞬間前頭部に強い衝撃を受けた。痛さに呻く間も無く、何度も何度も、続けざまに。前頭部だけでなく、顔面にも。
そのうち痛みを感じなくなり、ふわふわとどこかを浮遊している感覚になりつつ、意識が深く沈んでいくのを感じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます