憂鬱
――やはりそうか、言われたルールさえ守れば後は何をやっても許されるんだ。
慶喜たち二人は再び元の定位置に戻され、試合が再開された。
言われたルール以外は、何をやっても構わない。当然目の前の男も、これまでの一部始終でそれを察しただろう。
「じゃんけん…」と二人は再び斉唱したが、振り上げた片手を互いにピタと止める。
何をやっても構わない、つまり後出しじゃんけんも可能。二人共、同じ事を考え企んだのだった。
これでは試合をスタートする事すら、できない。
「…後出しじゃんけんだけは、やらない事にしないか?このままでは、先に進めない。」
男がボソッと囁いた。慶喜は同意する他無い。
こんな事を提案した側が、いざ試合になればルールを破る可能性は非常に高かった。
しかしこの男の言う通りで、このままでは先へ進めないのだ。
――腹をくくるしかない…
慶喜は覚悟を決め、「じゃんけん…」と互いに斉唱した後チョキを出した。相手の男は遅れてグーを出す。即座に、慶喜はチョキにしていた手をパーに変えた。
「…は?」
男は、何やってるんだとでも言いたげな顔になる。慶喜はパーを出した後、間を置かずにレンチを掴み、男の顎を下から思い切り砕き飛ばした。
「ぐえ」とカエルのような呻き声と共に、男ははじけ飛び、仰向けになって地面に倒れた。
地面に頭を強く打ったらしく、「うう…」と唸りながら大の字で横たわっており、体が枠からはみ出ている事にも頓着している様子が無い。
西丕日野がやってきて、男の道具である金槌を手にした。
「えっ、あっ…」
男はようやく事態に気付き、真っ青な顔で起き上がろうとするが、西丕日野は何も言わずその顔に金槌を叩きつけた。
男に断末魔の悲鳴をあげる間も与えず、西丕日野は三、四回振り下ろし、肉が潰れ骨の砕ける音だけが響いていた。
事が済むと、西丕日野は慶喜の所に来て肩に手を置き
「おめでとうございます、あなたは勝ち残りました。」
祝福するように言った。
西丕日野の背後には、顔のパーツが見当たらず、血塗れの肉塊と化した男が息絶え、横たわっている。
慶喜は脱力し、へたり込んだ。しかし心臓は、激しい運動をした後のように脈打ち、息も上がっている。
心に余裕ができたため、周囲を落ち着いて見る事ができた。まだ何組かが試合の途中である。
何某かで殴られたが、それでも倒れず持ち堪え試合を続けている者もいる。頭からダラダラと血を流し、目を執念に燃やす姿を見て慶喜は再び不安になった。
ゲームはこれで終わりではない。最後の一人になるまで、次々と新たなゲームに参加させられるはずだ。
鈍器で頭部を殴られ、それでも心折れる事無く立ち向かう、そんな連中とこれからやり合う事を考えると憂鬱だった。
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