開始
死体が持ち去られた後には、砂地に赤黒い血が沁み込んでいる。
既に死体となった男のペアだった参加者は、真っ青な顔で凍り付いていた。
そいつだけではない。ここにいる参加者皆が、先ほどの光景を目にして蒼白になり固まっている。
逃げ場が完全に塞がれたのだ。
血だまりを前に凍り付く参加者に、西丕日野はポンと肩に手を置き言った。
「おめでとうございます、あなたは不戦勝ですね。」
そう言われ、その参加者は真っ青に凍り付いていた表情を緩め、安堵のため体の力が抜けたのか、ガクリと宙を見上げる形で両手を地に着けた。おそらく今、こいつは神にでも感謝しているのだろう。
「ささ、こちらへ」と言われ、ゆるゆるとその参加者は立ち上がり、誘導されどこかへ立ち去った。
慶喜たち他の参加者は皆、それを妬ましく眺めていた。
西丕日野は元の場所に戻ると「では、始め!」と言い手を叩いた。
隣にいるペアが、その声と同時にじゃんけんを始めた。チョキとパー。
パーを出した方は既に死人のような顔になり、勝った側に手を合わせて命乞いしている。
勝った方はそれには構わず、自分の道具——バールを振り上げ、鬼の形相で下ろした。
「ぎゃああああああ」という叫び声を上げながら、負けた側はそれを脳天にくらい、しばらく首を上下左右ユラユラさせた後、バタリと仰向けに倒れ、砂地に描かれた枠からはみ出てしまった。
さっそく西丕日野がやってきて、そいつの道具である金槌を手に取り、そいつの頭に何度も振り下ろした。
場内に、悲鳴と何かが潰れたり、折れたりする音が響き渡る。
こうなればもう、勝つしかない。まずはじゃんけんからだ。
改めて前を向くと、目の前には覚悟を決めた顔の男が厳めしい目付きで座っている。
「じゃあ…始めましょう。」
慶喜がそう言うと、男は「ああ」と言って頷いた。
「じゃんけん…」二人で斉唱し、片手を出す。結果は慶喜がグーで、男はパー。
一気に地獄へ突き落された気分になった。
――もうお終いだ…これまでだ…
目の前の男は、ホッとした顔で金槌を掴むと勢いよく振り上げ、脳天めがけてそれを降ろした。
思わず慶喜は、金槌を持つ男の手を掴み、自分の脳天に当たるのを防いでしまった。
二人の側にいる審判がピーと笛を吹く。
――ああ…失格だ…この後、西丕日野にレンチで撲殺されるのか…
相手の失格を理由に生き残れると思った男は、早くも勝ち誇った顔をしている。
しかし審判は「攻撃できるのは、じゃんけんで一度勝った場合につき一度だけですよ。下がってください。」
「えっ?」
金槌を挟んで睨み合っていた慶喜と男は、思わず審判の方を向いた。
男は審判に促され、何が何だか分からないという風な顔で引き下がった。
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