ルール
「えっ?…は??」
思わず裏返った声を出したのは、慶喜だけではなかった。皆、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
わらわらと、数名の藪根家の使用人らしき作務衣姿の男女が現れ、対になったそれぞれに一人ずつ付いた。
彼らはペアを組んで向き合って座る慶喜たちを囲むように、木の棒でガリガリと円を描く。だいたい慶喜の体から五十センチ程の距離だった。
円を描くと、作務衣の中年男はその円の外に立った。
「彼らは審判です。皆様はその円の外からはみ出ないように気を付けてください。はみ出たら、その時点で失格です。
西丕日野は言った。
「ルールは簡単。じゃんけんをして、勝った人はペアを組んだお相手を攻撃する事ができます。
使える道具は、自分が選んだ物のみ。ご自分の体、例えば腕や足なんかはご自由にお使いください。」
――いや、簡単って…
嫌な予感が当たった。そして、もう少し早く予期していればと慶喜は悔やんだ。
自分はレンチ、目の前の男は金槌。相手を攻撃する事を考えれば、金槌の方が有利に見える。
目の前の男もそう思ったのか、ほくそ笑んでいる。
金槌で脳天を砕かれる事を想像し、慶喜は今にもこの場から逃げ出したくなった。
「描かれた円の外に出ない、使える道具は自分の体と自分が選んだ道具、攻撃できる者はじゃんけんで勝った者のみ。そして攻撃できるのは、じゃんけんで一度勝った場合につき一度だけです。
ルールはこの四つだけです。後はご自由に。
ルールを破った方は、その時点で失格。退場していただきます。」
西丕日野の話を聞きながら慶喜は――これもう、ルールをわざと破って退場した方が良いな…と諦めていた。
「では、始め!」と西丕日野が手を叩いてすぐ、ピーと笛の鳴る音が聞こえた。
見ると、あるペアの前に立つ審判が笛を鳴らし、片手を上げている。
ペアのうち一人は、描かれた円から上半身をはみ出させていた。体をはみ出させたその男の顔に悔やんでいる様子は無く、慶喜がやろうとしていた様に、計画的にルールを破ったと思われる。
「失格です。退場していただきましょう。」
目の前に立つ西丕日野にそう言われ、男はやれやれという風に立ち上がりかけた。
西丕日野は、その男が選んで脇に置いていたインパクトを手に取ると、まだ膝を地に着け下を向いている男の後頭部にインパクトの先を付け、スイッチを押した。
「ぐがああああああ?!」
ガガガガガという機械音と男の叫び声、骨と肉の削れる音が交じり合い、空き地に鳴り響いた。
インパクトが男の後頭部に限界まで刺さり切ると、西丕日野はスポっと抜き取り、男はうつ伏せに頽れた。まだ生きているその男は、ピクピクと手足を痙攣させている。
西丕日野は後頭部の別の場所に、いくつもインパクトを突き刺した。やがて男が何も叫ばなくなり、動かなくなると西丕日野は使用人たちに顎をしゃくって指示し、死体をどこかへ持って行かせた。
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