道具

「まず、二人一組になっていただきます。あらかじめ、こちらであみだで決めておきました。」


西丕日野に指示された通りに、皆二人一組となった。どうやらこのゲームは、あみだで決定した相棒と共に動く内容らしい。

しかしそうなると、勝ち残る者は結果、二名となる。昭三郎と二分した遺産をまた、二人で分ける事になるのだろうか。


慶喜の相棒となったのは、英二ではなく昭三郎の親族の一人で、これまた始終何かを睨みつけているような、目付きの悪いいかつい顔の中年、もしくは老年に入っているかもしれない男だった。

土気色の荒れた、毛穴の目立つ肌はこの村の人々と同じである。この村の住民といい、藪根家の関係者は皆、生活が荒れているのだろうか。

オールバックで短く切りそろえた髪の毛だけは黒くツヤツヤとしているのだが、明らかに整髪料のつけ過ぎである。そして香水もつけ過ぎだった。


男は慶喜を見るなり、「何でこんな奴と…」とでも思っていそうな態度を隠そうともしなかった。

慶喜もまた、こんな感じの悪い奴と協力していく事や、勝ち残った際この男と揉める事を考え、げんなりしていた。


しかし昭三郎の親族は皆、この男と変わらない。英二を除いて、誰と組む事になっていても同じ事であった。

英二には友情など感じていないし、頼れる相手とも思っていないが、彼らよりは意思疎通を取り易いだろうし、また勝ち残った際に金で揉める心配が無い。


「では次に、道具を選んでいただきます。各々気に入った物をお取りください。」


西丕日野はそう言って、いつの間に用意したのか、ずらりと並んだ道具を掌で指示した。

金槌、バール、レンチ、インパクト…何か工作でもさせる気だろうか。

慶喜は考えた末、レンチを手に取った。金槌やインパクトとして使えない事も無いし、またバールや金槌、インパクトでは、レンチの役割を果たせない。


しかしバールや金槌に付属している釘抜きの機能は、レンチには無い。そこで相方の男に金槌とバールのいずれかを選んでもらう事にした。


男は慶喜の話を聞いて納得し、金槌を選んだ。


さて道具を選んだ皆に、西丕日野は相方と向かい合って座るよう指示した。

慶喜の目の前には、相方となった人相の悪い男が座っており、右側には金槌が置かれてある。


嫌な予感がした。ひょっとしたら自分は、ものすごい勘違いをしていたのかもしれない、と慶喜は背筋が寒くなり、急に胃がきゅっと縮こまった。


「では、ルールを説明致します。」


西丕日野が声を張り上げて言った。


「これから皆様には、じゃんけんをしていただきます。」




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