帰り路

慶喜たちは、雪洞を手に歩く昭三郎について歩いた。

埋葬の時に雪洞を見た時、パフォーマンスの一つとして古風な道具を使用しているのかと思っていたが、日常的にも使用しているらしい。


近代的な邸宅、トラックにクレーン、舗装された道路、霊柩車を使用しない葬儀、原始的な火葬…この村は極端に古風なところが、近代化された場所に残っている。


「明日は親戚が勢ぞろいするんですよ。」


帰り道、昭三郎は楽しそうにそう言った。

実は慶喜は、今晩にでも家探しして金目の物を持って家を出ようかと考えていたのだ。しかし、親戚が勢ぞろいする前の日の晩ともなれば、屋敷内は慌ただしいかもしれない。今晩のうちに来て泊まる者もいるだろう。

家探しは、もっと落ち着いてからした方が良いと判断した。


英二の方を見ると彼も同じことを考えていたようで、こっそりとしかめ顔で口を動かし「今晩は止めだ」と伝えてきた。


それにしても妙だった。普通、親戚は葬儀の場に来るものではないのか。では、明日は一体何が執り行われるのだろうかと。


それにしても昭三郎は、ウキウキとして楽しそうである。訪れる親族の中に仲の良い、歳の近い親戚でもいるのだろうか。


「仲の良いいとこがおられるのですか?随分と嬉しそうだ。」


慶喜がそう尋ねると、昭三郎は少々寂しそうな顔を作った。つまり本当に寂しいというよりも、そんなふりをしている風である。


「いとこは沢山いるんですけどね…皆、体が弱くて。今回は来られないと思います。

僕がなぜ嬉しそうなのか、それは明日になれば分かりますよ。」


「えっ?」


思わず素っ頓狂な声が出た。親族の集まる席に、慶喜たち見ず知らずの者に出席しろと言っているのか、この少年は?


「それ、俺たちも出席するんですか?悪いですよ、親族水入らずの席に、そんな…」


英二が引き攣った作り笑いを浮かべながらそう言った。もちろん本当に「悪い」と思って言ったわけではなく、そんなものに顔を出したくはないというのが本音であろうが。


「いいえ、せっかくこのようなタイミングで来られた客人なのですから。出席していただかなくては、藪根家の威厳に関わります。」


昭三郎の口調は穏やかだったが、有無を言わせない言い方だった。

慶喜も英二も、こういう資産家の家のやり方には詳しくない。しかしそれでも、藪根家はかなり変わっていると思う。

そもそも、見ず知らずの迷い込んだ人間を進んで逗留させる時点でかなり風変りな一家である。田舎である事を考えれば、尚更だった。偏見かもしれないが、田舎の住人は警戒心が人一倍強いはずである。


そう考えると、親族の集まる席に見ず知らずの逗留者を出席させる事ぐらいは普通である気もした。


「席は昼過ぎ頃から始まります。それまでご自由にお過ごしください。時間になれば、お嶋を迎えに寄越させますから。」


二人の困惑をよそに、昭三郎は歌うように言った。







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