埋葬

彼らはこのまま棺が燃え尽きるまで、ずっとこの姿勢のままかと思われたが、三、四回「ありがたや~」を唱えるとすくっと立ち上がったので、慶喜と英二も戸惑いながらそれに倣って立った。


前を見ると、宗教家らしき老人もまた炎の方を向き立っている。誰一人、言葉を発する者はいない。皆、虚ろな目を炎に向けてじっと立っている。明々と燃える炎に照らされた顔色の悪い面々の姿が、不気味に感じられた。


結局、棺が燃え尽きて火が消えるまでその状況は続いた。辺りはすっかり暗くなっている。

ずっと一ヶ所に立ち続けていた慶喜の足は棒のようだった。

火の玉を思わせるものが前方に現れたのだが、よく見ると雪洞である。喪服を着た二、三人が雪洞を手に、その灯りを頼りに焼け跡から骨を取り出しているようだった。

骨拾いというのは通常身内によって行われるものだが、その中に弘子や昭三郎の姿は無い。

彼らは拾い集めた骨を盆に載せると、用意されていた大穴にザザザッと放り込んだ。まるでゴミでも投棄するように、である。

これなら穴はもっと小さくても良かったのではないか、と慶喜は不思議に思った。


骨が放り込まれた大穴に、スコップで土が投げ入れられ真っ平になった。

遠くから車の音がして、徐々にその音が近くなり、軽トラックが現れる。荷台には立派な墓石が乗っていた。


この墓石を骨を埋めた場所に置くのだろうが、ここからどうするのかと思って見ていると、小型のクレーンを載せたトラックが到着し、それを使って器用に地面にのせていた。

置かれた墓石の前に、弘子と昭三郎が立ち一同に頭を下げると、盛大な拍手が上がる。一分程その状態が続くと拍手の音が鳴りやみ、皆ぞろぞろと立ち去っていった。

葬儀はお開きらしい。皆、てんでばらばらに帰って行く。


慶喜と英二は、しばらくそこに佇んでいた。自分達も宿泊している屋敷に帰り、早くあのCDに聴き浸りたかったのだが、道が真っ暗で迷いそうな気がして臆していたのだ。他の村人たちに付いて行けば、住宅街に出る事は可能だったろうがそうこうしているうちに、気付けば村の人は誰一人見当たらない状態である。


どうしたものかとただ立っていると、ポンと二人の肩に手が置かれた。

振り向くと、昭三郎である。灯りの無い中でも、月明かりに照らされ人の判別くらいはついた。


「帰りましょう。」と昭三郎はにこやかにそう言った。

弘子の姿は無い。


「あの、お母様は…?」


慶喜は思わず、そう聞いた。弘子の事が心配だったのではない。彼女のような者が道に迷わず帰宅できるとは思えず、歳の割にしっかりしていそうな昭三郎が放っているのは妙に感じられたのだ。


しかし昭三郎は「ああ、先に帰ったようですね。」と、何でもない風に答えた。


「大丈夫ですよ、母はこの村の道には慣れていますから。慣れた土地なら、迷わずどこにでも行けるんです、母は。」


そう言うと昭三郎は、二人を促すように歩き出したので、慶喜たちもつられたように歩き始めた。足が少し痺れていた。



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