ジャングル
おかしな儀式が終わり、棺が出棺される。体格の良い喪服姿の四人程がやってきて棺を担ぎ上げ、退出していった。
そして座していた人々も皆、棺を追うようにしてぞろぞろと部屋を出始める。慶喜たちもつられて立ち上がり、後を追った。
棺を担いだ一同を先頭に、玄関を抜けて屋敷の外に出る。
慶喜たちはここで初めて、屋敷の外を見た。まず屋敷の玄関は広く、高価そうな壺やら皿やらが飾って置いてある。
そしてこれだけの客がいるというのに、靴が見当たらない。どうするのかと思って見ていたら、使用人が二人程木箱を持って出て来て、その木箱から客から預かっていたらしい靴を取り出し玄関の三和土に並べ始めた。
どれも似たような靴ばかりであるのに、よく間違えずにいられると慶喜は感心した。
自分達の靴はどうすれば良いのだろう、と思っているとそれもしっかり用意されており、事も無げに黒い喪服用の靴を差し出された。
玄関から門に行き着くまで、それは長い中庭が続いている。まず玄関を出た所から、門が見えないのだ。
周囲に合わせてゆっくりと歩き、中庭を見渡すのだが風変りな中庭だった。
普通、こうした和風建築の中庭で見るような日本庭園ではない。一面芝生に覆われており、鬱蒼と木々が茂っている。車を見に行った時に見た裏庭に似ている。
木々の種類にもまた一貫性が無く、南国に生えてそうなヤシの木に似た大木なんかも生えている。
もちろん本当にヤシの木という訳ではないだろう。これと同じ木を慶喜は昔から、他の場所でも度々目にする事があったが、それらにヤシの実がぶら下がっていた事は無く、きっと似た別の木なのだろうと思う。
一貫性の無い木々も芝生も、よく見るとしっかり手入れされているのが分かるのだが、まるでジャングルの中にいる気分だった。
ジャングルの中、玄関から続く道は幅広く中央には石畳が敷かれ、慶喜達は皆その石畳を踏み進んでいく。
道が幅広い事から、おそらく普段は車で門まで移動するのだろう。
歩いている間、誰一人言葉を発する者はいなかった。棺を担いでこの道を通る時は喋ってはならない、そんなルールがあるのかもしれない。そんな気がして、慶喜たち二人も黙ってひたすら歩き続けた。
歩き続けて十五分程、ようやく前方にこの屋敷の門らしき姿が見えた。
屋敷が日本式であったため、当然門も同様と思っていたら柵の並んだ西洋風である。
ジャングルに囲まれた暗い森を照らすように、明るい陽の光が柵から漏れ出ていた。
ただし、門に続く塀は今時珍しい土塀であった。
柵状の門がギギ…と音を立てて開き始める。
土塀はよく見ると、建てられたばかりのような真新しさで、どこも崩れていない。
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