顔色
葬儀は和室の広間で行われた。慶喜たちが晃堅らと初めて対面した広間と同じかどうか、彼ら二人には分からなかった。
この家は未だ二人にとって迷路のようで、広間の様子も広さは同じ程度に見えるが、内装は葬儀のために変わって見えたからだ。
お嶋に案内され、葬儀の場へ着くと喪服姿の老若男女がぎっしりと座っている。そして彼らの前方には晃堅の入った棺があり、周囲にはそれを飾り立てる物が仰々しく並んでいた。
黒と白ばかりを基調とした色合いの、ごくごく普通の葬儀風景である。
遺族席に並ぶのは、妻の弘子と息子の昭三郎の二人。弘子は黒い喪服に着替えていた。
昭三郎はやはり悲しんでいる様には見えず、かといってさすがに笑みを浮かべているわけでもなく、やや神妙な表情を保っている。
隣に座る弘子は姿勢がやや歪んでおり、口を半開きにして虚ろな目で、辺りを物珍しそうにキョロキョロと少々せわしなく眺めていたが、しばらくするとそれにも飽きたらしく、退屈した様な疲れた様な顔であらぬ方を眺めていた。
二人は座布団の敷かれた席二つに案内されて座り、慶喜は英二のいる方とは反対の席に目を向けた。
そこに座っているのは五十歳くらいに見える男だった。
――随分と顔色の悪い男だ。病人なのか?
土気色の毛穴が目立つ肌、血色の悪い唇は極端に口角が下を向いている。白目は黄色く濁っており、黒目も淀んでいた。
襟元から伸びる首は筋張っており、服の上からでも異常な程痩せ細っている事が分かる。
髪だけはしっかり黒く染められて、セットしてあった。
髪だけでなく、喪服もまた糊のきいたシャツに皺の無いスーツやネクタイ。左手に着けている腕時計はブランド物の様だ。
しかし姿勢の悪さ故か、顔色の悪さ故なのか、非常に貧相に見えた。
その男の隣は彼の配偶者であろう中年の女が座っているのだが、これまた顔色の悪さが同じ程度なため男とそっくりに見える。もしかしたら夫婦ではなく、兄妹なのかもしれない。
よく見ると、それは彼ら二人だけではなかった。ざっと見渡しただけだが、この部屋に集う者は皆同じ顔をしている。血の繋がりがあるのかどうか知らぬが、そういう理由ではなく顔色や表情、醸し出す雰囲気が似ているのである。
慶喜はふと英二の方を見てぎょっとした。
英二もまた、同じ顔をしていたからだ。不健康そうな肌や目、目つき…そしてそれは今に始まった事ではないと思い出した。
英二は出会った時から、こういう顔だった。そしておそらく、自分も同じ顔をしているのだろうと慶喜は思った。
英二も同じ事を思ったらしい。しばらく周囲を見回していたが、慶喜の顔を見て何かに驚いた顔をしている。
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