最初の殺人

さて部屋へ行き、今日はあの曲に一日中聴き浸っていようと、二人は裏口の扉を開けた。

薄暗い空間に、長い廊下が見える。廊下の先は闇に溶けて見えない。

二人は廊下を歩き始め、間もなくどんつきで左右に別れた道に遭遇した。


「おい、どっちだったか覚えているか?」と慶喜が尋ねると、英二は「いや…忘れた。」と言い、不安そうに首を振る。


「困ったな…仕方ない、とりあえず右へ行ってみようぜ。」


英二がそう促し、二人はとりあえず右へ進んだ。

廊下の両側には、襖で閉ざされた部屋がひっきりなしに続いている。


「お嶋さんに付いて行った時も思ったが、本当に大きなお屋敷だな。」


「ああ。しかも隅々まで清掃が行き届いている。余裕を持って使用人を雇えているのだろう。…一体、どうしてそれだけ儲ける事ができたんだろうな…新事業って何だろう?」


「沢山ある部屋はどこも灯りが点いていない。こんなに沢山の部屋が、一体何に使われているんだ?」


「客間とか…使用人用じゃねえの?それだけ沢山雇ってんだよ。」


「なるほどねえ、財産を守るにも金が要るんだな。持ってたら持ってたで、管理が大変だな。」


「おや?おい、あの部屋が珍しく灯りが点いているぞ。」


長く続く廊下の先に、左側から灯りの漏れた気配がある。


「丁度良い、中にいる人に客間がどこか聞いてみよう。」


ドタドタと、明かりの点いた部屋に二人は駆け寄った。部屋の襖は開けっ放しで、中の煌々とした灯りが廊下に漏れ出ている。

姿は見えないが、人の気配を感じた慶喜は、いきなり部屋を覗くのも失礼なので、襖の影に隠れて声をかける。


「すみません、我々昨夜からこちらで厄介になっているのですが…家の中で迷ってしまって。客間までの道をお聞きしても構いませんか?」


返事は無かった。しばらく待ってみたが、物音一つ聞こえてこない。二人は、怪訝な顔を見合わせた。


仕方がないので、慶喜は意を決し「すみません、失礼します…」と遠慮がちに顔を覗かせた。


「う”っ…」


視界を部屋の中に向けた瞬間、飛び込んできた光景に、慶喜は息を飲んだ。


そこには、さっきまで広間の上座におり、活き活きとしていた晃堅が、真っ青な顔で仰向けに倒れていたのだ。

ただ倒れているだけなら、慶喜もそこまで驚く事は無かったろう。


晃堅は血塗れだった。和服がまるで赤で染めたように、ぐっしょりと血に濡れている。

そして額には日本刀が突き刺さっていた。

見開かれた目からは、眼球が飛び出さんばかりになっており、叫び声でもあげているかのように、口も大きく開かれ長い赤い舌が飛び出している。


「おい、どうしたんだ?」


慶喜の様子を見た英二が駆け寄り、部屋の中を覗き込んだ。

そして部屋の中の惨劇を目にした瞬間、顔は今の晃堅のようになり、眼球をせり出させぽっかりと大口を開ける。


「ぎゃああああああああああ」


屋敷に英二の叫び声がこだました。





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