面会Ⅱ

晃堅、弘子二人から少し離れた所に、十代後半~二十代と思われる一人の少年が座っていた。

彼がおそらく次男の昭三郎であろう。両親と異なり、彼だけは洋装だった。

昭三郎は父と母のどちらにも似ていない。確実に弘子には似ていないのだが、晃堅は年齢を重ねた事で顔がかなり変わった可能性もあり、父親似である事を否定できない。


普通、という言葉が非常に合う少年だった。どこにでも居そうな普通の顔、表情や姿勢、雰囲気、一度見てもすぐ忘れそうな、ある意味影の薄そうな子だった。


晃堅と弘子の座る位置、部屋の上部には代々の当主のものらしき遺影が並んでいる。

皆、老人ばかりであった。早世した前妻の息子、健のものは無い様である。


お嶋の話し方からして、彼の死には何やら疑惑がある様なので、この家では健の存在は闇に葬られた形なのかもしれない。


「ようこそいらっしゃいました、大変な目に遭いお疲れでしょう。ここでごゆっくりなさってください。」


晃堅が親しげにそう言い、昭三郎も同調する様に微笑み頷く。弘子だけは焦点の合わぬ目で、天井やら部屋のそこかしこをキョロキョロと凝視しており、無表情だった。


「いえ、お気持ちはありがたいのですが、先を急がねばなりませんので…あの、我々の乗って来た車なのですが…」


前のめりになって言う英二を宥めるように、晃堅は「まあ落ち着いて。この村から外へ通じている橋が崩れてしもうてね…今懸命に工事してるんやけど…そういう訳やから、申し訳ないがもうしばらくうちで滞在してもらいたいんや。

急いでるところ、ほんまに申し訳ない。」



「そんな…」


慶喜と英二は脱力し、肩を落とした。

冷静に考えれば、晃堅が謝る必要などどこにも無い。それなのにこうも下手に出て、見ず知らずの者を長期間泊め置いてくれると言うのだ。


慶喜はそれを不思議に思った。意識を失うまでかなりの山奥に来ていた事から、ここはけっこうな田舎であろう。偏見かもしれないが、田舎というのは他所者を警戒するものであるはずだ。いや、都会であってもいきなり現れた見ず知らずの人間を、ホイホイ泊めるなんて事をする人間はめったにいない。


「是非、そうしてください。何もない所ですが。」


昭三郎も愛想良く父に同調した。弘子は猫背気味の姿勢で、焦点の合わぬ目を畳に降り注いでいる。この数分間で、何もしていないのに随分と疲れた様で、無表情な顔をげっそりとさせていた。


あまりに友好的に、見ず知らずの余所者の自分達を引き留めようとする一家の様子が、慶喜には不気味に感じられた。


――まさか…やはり、トランクの中を見られたのだろうか。それで通報したので、警察が来るまでの間、俺たちを引き留めようとしているのか?


「そう言っていただけると助かります。ご迷惑でしょうが、しばらくの間よろしくお願いいたします。」


焦燥を感じながらも、それを悟られぬよう慶喜らは頭を下げ、礼を言った。






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