面会

慶喜と英二の二人は、身支度が済み次第、和室の大広間に案内された。

広間へ行く途中、この屋敷の長く広い廊下や廊下から見える贅を凝らしたであろう中庭を見て、かなりの大金持ちである事が察せられる。


お嶋から聞いた話では、藪根家は昔、炭で財を成したそうだ。屋敷の外に出なければ分からないが、おそらくこの村は木々に囲まれているのだろう。

しかし現代ではそのような方法でここまでの財を成す家を保つ事はできないだろう。

その様なわけで先妻の息子、健は四十七で亡くなるまで、公務員などをやりつつこれまで築かれた財を切り崩しつつ、細々と生きていたという。


それがどういう訳か、再びこのように莫大な財を築く事が可能になった。その理由について嶋は口を濁し「私のような者にはよう分からへんけど、何やら新しい事業が成功したみたい。」と言うのだが、明らかに嘘をついている風に見える。


藪根家が今のような大金持ちに再び成ったのは、おそらく先妻の息子が亡くなった後。その後、一体何があったのか…


広間では、既に一同が集まり座していた。

上座の席に居るのが当主、晃堅だろう。なるほど、八十にしては確かに若々しい。肌の色つやも良く、目にも光がある。多いわけでないが少なくもない頭髪は、しっかり黒く染められている。何も言われなければ、五十代程と判断しただろう。


隣にちょこんと座っているのが後妻の弘子と思われる。お嶋の話によれば、晃堅の四十下。今年四十になる。

しかしその雰囲気は、とても四十の女には見えなかった。若々しい訳ではなく、年相応に老けてはいるのだ。だが、表情や姿勢などの微妙な体の動きやしぐさに、若さというよりも幼さを感じる。それなりに高価な物と思われる和服もまた、着ているというより服に着られているという感じだった。

化粧は殆ど施していない様で、それがまた野暮ったさに拍車をかけている風に見える。


失礼にならない程度によくよく顔を見ると、目鼻立ちが整っており造形だけを見れば美人で通用するだろう。

ぱっちりとした大きな目をしているにも関わらず、なぜか目元がぼんやりとして見える程光が、力が無い。そのため、鼻の顔で占める面積がたいそう広く見えた。

ぼんやりとした、力の無い目で弘子は慶喜たち二人を物珍しそうに、じろじろ見ている。


孫程も年下の後妻と聞いて、慶喜は銀座のホステスか何某かだろうかと思ったのだが、実際は古い付き合いのある名家の子女との事だった。

確かにこれでは、ホステスなど勤められそうもない。おそらく実家で処遇に困っていた所、後妻を欲しがっているとの話を聞きこれ幸いと藪根家に押し付けた形であろう。






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