ドライヴ

車の中で、慶喜はいつの間にか眠っていた。そして意識が現実に戻り、閉じた瞼ごしに明るい光を感じる。

背中に感じる振動や体勢で、自分が車の助手席に座っている事、こうなるに至った経緯を思い出した。


夢を見ていた気がするが、すぐ忘れてしまった。だが、あまり良い内容ではなかった事だけは覚えている。


「おはようございます。」


隣の運転席から、ショップ店員の声が聞こえた。疲れた様子が全く無く、声は晴れやかで目の下にも隈が無い。瞳が淀んでいるが、疲労や睡眠不足は感じさせなかった。


「すまないな…運転、代わってやれなくて。ずっと夜通し運転してたんだろう?」


「いいえ、ちょくちょく休憩してましたから。気にしないでください。」


慶喜が気不味そうに謝るが、店員は何でもないように笑って言った。


「それに、慶喜さんにはこの後、もう一仕事していただかねばなりません。ですから、しっかり休んでいただかねば。」


店員はウキウキしている様だった。まるで歌でも歌い出しそうな程だ。


「もう一仕事…死体の始末か?」


車は山道を出て、海沿いの道路に出た。雲一つ無い青空、青い海が視界に広がる。解放感感じるはずの光景だったが、慶喜の心は淀んでいた。もうずっと、あの音楽を聴いていないからだ。


「この車、CDを聴く事はできるのか?」


「もちろんです。」


店員がそう言って、ハンドル横にいくつか在るボタンの一つを押すと、CDプレイヤーのような場所が開いた。


「どうぞ。」


にこやかにそう言われ、慶喜はボロ家から取り戻したCDをいそいそと入れる。店員が再びボタンを押すと、機械が閉じCDがグルグル回っているような音が聞こえた。

そして音楽が流れ始めた。例えようも無い程美しい、弦の音、ビートが刻まれ天使の歌声が流れ出す。

久々に耳にする音色が耳に、脳に、体中に染み渡る。慶喜は目を閉じ、静かに聴き浸った。


しかし慶喜は知ってしまった。生演奏は音源を遥かに超える事を。もうこれだけでは満足し切れない。


「早く…人間を調達しなければ…そして金も…」


店員は何も言わなかった。目を閉じているので、どんな表情をしているのかも分からない。ただ、変わらずハンドルを手に運転しているだけだった。






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