格闘

慶喜は、この家の裏口を探した。こんなボロ家でも一軒家なのだから、どこかにあるはずだ。

裏口でなくとも、窓なり何なりあるだろう。もしくはこれだけボロボロな状態なのだから、どこかに穴が開いているはずだ。


慶喜は一階を駆けずり回ったのだが、裏の方には戸どころか窓一つ無い。崩れかけた砂壁にしっかりと覆われている。


――…なんて構造の家だ。これを作った建築士は、一体何考えてんだ…一度顔を拝んでやりたい。


ならば穴を開けてやる、こんなボロい家の状態なのだから、簡単に穴の一つくらい作れるだろうと、思い切り壁を殴ると拳に激痛が走り、痛みは電流のように腕から肩、頭にまで響いた。


ひぃ~と言いながら、痛みを放散させるように壁を殴った手を開いて、ひらひらと動かす。

見ると、壁には穴が開くどころかヒビ一つ入っていない。


――何でこんなおかしな構造の家が、こんなに頑丈なんだよ?!


次に足で蹴り上げてみたのだが、びくともしない。

慶喜は肩を落とした。正面から出るしか無いではないか…


玄関に着くと、慶喜は戸を閉めたままで外の様子を窺った。悲鳴や激しい物音は聞こえない。

かと言って、慶喜が壁と格闘している間も、車の音も聞こえてはこなかった。つまり冷やかしに来た三人は、逃げ切れなかったという事だ。


――つまり…


そう、つまり今老爺があの三人の死体をどうにかしている状況なのだろう。家に飾る、新たなオブジェとして…


老爺がその行為に夢中になっている間に、なんとか車まで辿り着けたなら…


慶喜はそこまで思い至った時、重要な事に気付いて、最初に入った一階の部屋に舞い戻った。

そこには血塗れの死体が転がっている。チンピラの表情は、玄関のブロック塀に飾られた相方のものとそっくりだった。目玉が飛び出さんばかりに見開かれた目からは、恐怖の情が残っている。半開きの口からは、歯茎と、叩き折られたらしき歯の残骸が見える。

首が横から半分程千切れており、断面から血に染まった骨らしきものがむき出しになり、切れた血管が飛び出していた。

足や手はおかしな方向へ曲がっており、右腕が無かった。

胴体の一部に、穴が開いたような所があり、そこから腸がはみ出して糞の臭いをさせていた。


血と糞に塗れながら、チンピラは死んだ。半グレらしい最期だ――慶喜は自分の事を棚に上げて、そう思った。


――同じ犯罪者でも、こいつらと俺は違う。こいつらは金だけのため、犯罪に手を染めているが、俺はそんな卑しい奴ではない。この世で最も価値あるものに捧げるべく、動いているのだ。云わば、神の命に従い戦う聖戦のようなもの…


チンピラの着ている服のポケットを探ると、目当てのものが見つかった。車のキーだ。これが無ければ、せっかく車にたどり着けても意味が無い。


慶喜はキーを手に入れると、急いで玄関へ向かった。



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