きらきらした満月

ソノハナルーナ(お休み中)

第1話 初めての夢はチャーハンを一緒に作って食べること。

ぽっかりと大きな穴が空いた。

ドーナツ状のその穴を空に向かって見上げると、空が小さく見えた。

ドーナツをパクりとひとかけら食べると、小さく見えた穴は空が広がるように今まで見えていた景色が広がって見えた。


今日、おばあちゃんが死んだ。


みんなおばあちゃんのために、花をおばあちゃんに一輪ずつ置いて、涙を流しておばあちゃんへの言葉を述べている。

おばあちゃんはみんなから愛されていた。

おばあちゃんには人望も小さな幸せさえ大きな幸せがやってくるようにお寺に行ったり、掴んだ幸せは離さない人だった。

だから、いつも私に言ってた。

『すみれ、私たちは小さな幸せの中で生きてるの。だから、もし、すみれが大きな幸せを掴みたいなら毎日幸せだと思うように笑いなさい。おばあちゃん、すみれが笑った顔も怒った顔もみんな好きだよ』


でも、私はおばあちゃんがとてつもなく嫌いだった。


おばあちゃんはいつも幸せになれと言うからだ。

私は幸せになりたい事情なんてものはない。

むしろ不幸せで十分だ。

幸せになれば誰が私を好きと言ってくれる?

私はもうすぐ27になる。

厳密には26だけど。

四捨五入したら、30代だ。

いつか幸せになりたいは、結婚だけだろう。

でも、今私が幸せと感じる瞬間はテレビのニュースの最後に出てくるどうでも良い占い情報で中間ぐらいに自分の誕生日月がある程度だけだろう。


会社に行っても出会える友人は限られるし、社内恋愛も夢のまた夢。

ほとんどが不倫恋愛に過ぎないからだ。

綺麗で高嶺の花ほど恋愛は慎重で、寿退社する。

残った豆粒程度の人ほど、社内不倫に発展する。

不倫で残るのは自己破滅くらいだろう。

社内に噂話好きは何人もいる。

だから、私は周りを見て行動してるうちに婚期を逃した。

こないだ友達と占いに行ったら、婚期はもう今年も来年もないらしい。

むしろ、不幸になるところ一直線らしい。

それに比べて、同期で入った車坂(くるまざか)は、今年が婚期らしい。

隣で良かったねと愛想笑いで喜びを表しながらも、相手のことなんて正直興味もなかった。

そんな帰り道に車坂と途中で別れて1人になった時に、空を見上げると込み上げてくるのは、不幸せになっていく惨めな自分の不甲斐なさと、なんで周りは幸せで私は幸せになれないのかということだった。

ボロアパートに戻るとでかい正方形のダンボールがちょこんと置いてあった。

誰が送ってきたか家の中で見ると、死んだはずのおばあちゃんからだった。

中を開けると男の子が入っていた。

ついに、おばあちゃんも人を殺めてしまったのかと思った。

でも、よくよく考えてダンボールの中を見ると手紙があった。

手紙を開けるとおばあちゃんの手紙にはこう書かれていた。

『すみれ! おばあちゃん、もう死んでると思う。私ね、すみれのことが心配だからロボット買ったの。彼はすみれと同じ26歳の子よ。でも、精神年齢は8歳くらいかもしれないけど、彼に色んなことを覚えさせればきっと、良いことだって起こるはずよ。すみれ、不幸せが良いとは言わない。おばあちゃんのことが嫌いでも良い。でも、幸せになって欲しいの。その子の名前は私たち伊妻家からとって、『伊妻律(いづまりつ)』にしといたから。呼びかければ反応するから。じゃあ、すみれ幸せになるのよ。おばあちゃんより』


そんな手紙を受け取って、すみれはまるっきり人間とは変わらないこの律をどうすれば良いのだろうかと思い、彼の手を握ると握り返してきた。

私は驚いて、手を離すと今まで体育座りをしていたそのロボットは突然立ち上がり、周りを見ると状況を把握して、怯える私を見て言った。


『すみれさん、初めまして。伊妻律です。今日から僕があなたの友達です。よろしくお願いします』

私は怖くなり、とにかく周りにあった物を投げつけて言った。

『私はこんなもの望んでない。だから、もうどっか行ってよ。帰ってよ』

首を傾げるように律は言った。

『それは、出来ません。私はあくまでも私の友達を守るとおばあさまから言われておりますので、どんなにあなたが拒否しても、私はここにいます。お腹、空きませんか? 僕がチャーハンを作るので待っていてください』

私は何が何だかわからずにいると律が言った。

『あの、チャーハンってどうやって作るんですか?』

そうだった。

おばあちゃんが知能はまだ8歳児程度と言っていたっけ。

しょうがなく、私は訳のわからないロボットにチャーハンの作り方を教えた。

彼はとても喜び言った。

『すみれさん、教えてくれてありがとうございます』

その言葉がなぜか心に浸透するように少し恥ずかしいが、とても感謝されることに幸せだと感じた。

初めて律が作ったチャーハンは少し焦げていたが食べられるものだった。

律と私は椅子に座って一緒にチャーハンを頬張った。

2人で美味しいと言いながらも、私は少し律を警戒していた。

そんな私に律はノートを渡してきた。

そこには私が小学生の頃に書いた夢の計画だった。

律は言った。

『これは、生前おばあさまが叶えてあげたいと思ったことです。1番最初のことが叶いましたね。『誰かとチャーハンを作って食べたい』僕はあくまでもあなたの友人です。これから、幸せを一緒に叶えて行きませんか?』

そんな言葉に私は泣きながら良いよと答えた。


これから始まるのは私、すみれと律の願い事を叶えていく話である。

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きらきらした満月 ソノハナルーナ(お休み中) @eaglet

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