第2章 涙のプール その3
「あぶなかったあ!」アリスは言った。体の変化が急すぎてっかり面食らっていたけれど、うれしいことに、まだ消えて無くなってはいなかった。「ようし、じゃあ早速庭園に行ってみよう!」そしてアリスは全速力で小さいドアに向かって駆けていった。でも、なんてことだろう! 小さいドアはまた閉まっていて、金色の小さな鍵はまたガラスのテーブルの上に戻っていたのだ。「それにもっと状況は悪くなってる」かわいそうに、アリスは思った。「だって、あたし前はこんなに小さくなかったもの。絶対に! どう考えてもこれ最悪だよ!」
こう言っていると、アリスは足を滑らせて、次の瞬間、ばしゃっと音がした。塩水のなかにあごまで浸かっていたのだ。最初にアリスが思ったのは、どういうわけか海に落ちてしまったということだ。「だとしたら、駅の方に戻ればいいよね」とアリスは自分に言い聞かせた。(アリスは前に一度だけ海辺に行ったことがあったので、そこからこんな結論を引き出していた。イギリスの海岸であればどこであれ、海には移動式の更衣室が並んでいて、子どもたちは木製のシャベルで砂に穴を掘り、小屋が並んでいて、後ろの方には駅があるのだと)しかしすぐにわかった。アリスは身長が9フィートのときに自分で流した涙のプールの中にいるのだ。
「あんなにたくさん泣くんじゃなかった!」アリスは言いながら泳ぎ回り、行くべき方向を探そうとしていた。「泣いたことのおしおきを今受けてるんだろうな。自分の涙でおぼれるっていうおしおきを!」 だとしたら、なんておかしなことだろう! でも、今日は何もかもがおかしいのだ。
そのとき、少し離れたところでばしゃっという音がするのをアリスは聞いた。それで、何なのか確かめに近くまで泳いでいった。最初に思ったのは、セイウチかカバじゃないかということだった。でもそこで、自分はいま小さくなっているのだということを思い出し、そこにいるのが自分と同じようにプールに滑り落ちた、ただのネズミだということに気づいた。
「どうしよう」アリスは思った。「このネズミに話しかけて何か意味あるかな? ここでは何もかもが普通じゃないから、ネズミがしゃべれてもぜんぜんおかしくないと思うけど。それに、どっちにしても話しかけてみるだけなら何も悪いことはないよね」アリスは語り始めた。「ネズミよ、このプールから出る方法はありますかな? あたしはすっかり泳ぎ疲れてしまったのです、ネズミよ!」(ネズミにはこう語りかけるのが正しいはずだとアリスは思っていたのだ。こんなしゃべり方したことないけど、お兄さんのラテン語の文法書に「ネズミが、ネズミの、ネズミに、ネズミが、ネズミよ!」とあったのを思い出したのだ。ネズミはなんだろうという顔でアリスを見て、どうやら小さな目でウィンクしているようだったが、何も言葉は発さなかった。
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