第2章 涙のプール その2
アリスは扇子と手袋を拾い、廊下がとても暑かったので扇子であおぎながら話した。「まったく、もう! 今日はどうしてこう何もかもがへんてこなんだろう! 昨日は普通だったのに。もしかして、昨日の夜のうちにあたしの方が変わっちゃったのかな? 考えてみましょう。今朝起きたとき、あたしは前と同じあたしのままだった? ちょっと感じがちがってたような気はするんだけどな。でも、もしあたしが元のあたしじゃないとしたら、それはそれで問題だよ。そもそもあたしは一体だれなの? うーん。これは難問だなあ!」そこで、アリスは自分が知ってるあらゆる同い年の子どもたちを思い浮かべて、自分はそのうちの誰かに変身してしまったのかどうか、検討し始めた。
「あたしがエイダじゃないのは確かね」アリスは言った。「あの子の髪は長い巻き毛だけど、あたしのはぜんぜん巻き毛じゃないもの。それから、あたしはメイベルでもないはずだよ。あたしはどんなことだって知ってるけれど、あの子ときたら、まあ、ほとんど何にも知らないものね。それに、あの子はあの子で、あたしはあたし――ああ、もう、なんてややこしいんだろう! そうだ、あたしはこれまで知ってたことを今も覚えてるのかな? やってみようっと。4かける5は12、4かける6は15、4かける7は――もうっ! これじゃあ、いつまで経っても20にたどり着けないじゃないの! でも、九九なんてどうでもいっか。次は地理をやってみよう。ロンドンはパリの首都で、パリはローマの首都で、ローマは――ちがう、ぜったい間違ってる! あたし、メイベルになっちゃったんだ! ちょっと暗唱してみよう。『どうやってるの、ちいさな――』」アリスは授業で暗唱するときみたいに膝の上で手を組んで、暗唱を始めた。でもその声はかすれた妙な声で、いつもと違う言葉が出てきた――。
『どうやってるの、ちいさなわにさん、
しっぽをきれいにみがきあげて、
ナイル川の水を金色のうろこに、
まんべんなくかけるのを!』
『なんて楽しそうに笑うんだろう、
なんて爪をきれいに広げて、
やさしくほほえむそのあごで、
小さな魚たちをおむかえするんだろう!』
「絶対こんな詩じゃなかったよ」アリスはみじめな気持ちで言って、暗唱をつづけながらも、目にはまた涙がたまっていた。「ようするに、あたしはメイベルになっちゃったってことね。で、これからはあの小さくて狭い、おもちゃもほとんど無いおうちで暮らさなきゃならならいんだ。それに、ああ! 授業だってたくさんあるし! いいえ、もう決めたから。もしあたしがメイベルだとしても、ここに居座ってやる。「帰っておいでよ!」って頭を下げてお願いされたって無駄だよ。あたしは顔を上げてこう言ってやる。「じゃあ、あたしはいったい誰なの? まずそれを教えてよ。それで、もしあたしがその人になりたいと思ったら、帰ってあげるから。もしあたしが気に入らなかったら、また別の人に変身するまでここにいるから」でも、ああっ!」アリスが叫ぶと、いきなり涙があふれ出した。「その人たちが頭を下げてくれたらどんなにいいだろう! ここにひとりぼっちでいるの、もう、うんざりなんだけどな!」
こう言って視線を自分の両手に落とすと、驚いたことに、ひとりでしゃべっているうちにいつの間にか、ウサギが落としたあの白い子供用手袋を片手にはめていたのだ。「なんでこんなことできたんだろう?」アリスは思った。「きっと、また小さくなってきてるんだ」アリスは立ち上がりテーブルのところに行って、自分の身長を確かめてみた。どうやら、今はテーブルより2フィートくらい高いだけで、しかも今もみるみる縮んでいるところだった。すぐにわかったのは、これはアリスが手に持っている扇が原因だということだ。それで、自分がすっかり縮んで無くなってしまうすんでのところで、急いで扇を捨てた。
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