第1章 ウサギ穴を落っこちて その4

「へんな感じだなあ」アリスは言った。「あたし、望遠鏡みたいに縮んでるんだ」


 実際その通りだった。身長10インチくらいになったアリスは、これならこの小さなドアを通ってあの素敵な庭園に行けると思って、顔がぱっと明るくなった。でもその前に、これ以上縮んだりしないのかな、と数分だけ待ってみた。自分が縮んでることが、少し不安だったのだ。「だって、このままだとさ」アリスは自分に言い聞かせるように言った。「あたし、ろうそくみたいに消えちゃうかもしれないじゃない。そうなったら、どうなっちゃうんだろう?」それでアリスは、ろうそくの火は吹き消されたあとどんな風になるのか、そんなの見た記憶はなかったけど、思い浮かべてみようとした。


 しばらくして、これ以上何も起きないのがわかると、アリスはすぐさま庭園に行くことにした。でも、ああ、かわいそうなアリス! ドアのところに行くと、あの金の小さな鍵を忘れたことに気づいたのだ。それでテーブルのところに戻ってみたけれど、どうも届きそうになかった。テーブルはガラス製だから鍵があるのは下から見えるのだけど、テーブルの脚をよじ登ろうとどんなに頑張っても、つるつる滑ってとてもよじ登れないのだ。頑張ってみたけれどすっかり疲れてしまって、小さなアリスはかわいそうに座り込んで泣いてしまった。


「およしなさい、泣いたってしょうがないじゃない!」アリスは自分に厳しく言い聞かせた。「今すぐ泣くのをやめること!」 アリスはたいていの場合、自分に的確なアドバイスをすることができた(そのアドバイスに真面目にしたがうことはめったにないけど)。そして、ときどきはこんな風に自分を厳しく叱りつけて、そのため涙が出てきてしまうこともあった。以前、自分相手にクロケットの勝負をしていて(この変わった子どもは自分がふたりの人間のつもりになるのが大好きだったのだ)、インチキをしたというので自分で自分の耳を叩いたときのことを、アリスは思い出した。「でも、今はそんなの意味ないよ」アリスはみじめな気持ちで思った。「ふたりの人間のふりをするなんて! こんな風に縮んじゃったら、ひとり分だって残ってないんだから!」


 まもなくして、テーブルの下にある小さなガラスの箱にアリスの目が留まった。アリスが箱を開けると、中にはとても小さなケーキが入っていて、その上には干しぶどうの実をきれいに並べて「わたしを食べて」と書いてあった。「じゃあ、食べてみようかな」アリスは言った。「もしそれで体が大きくなるなら、鍵に手が届くから。逆にもっと小さくなるかもしれないけど、それならドアの下をくぐることができるしね。だからどっちにしても、あの庭園に行けるんだ。どうなっても大丈夫!」


 アリスはケーキを少しかじってみて、不安そうに言った。「どっちだろ? どっちだろ?」伸びるのか縮むのか確かめようと、頭の上に手を上げておいたのだけど、アリスはすっかり驚いてしまった。元の大きさのまま変わらないのだ。まあ、普通はケーキを食べてもそういうものなのだけど、普通じゃないことしか起こらないのだとアリスは思い込んでいたから、当たり前のことが起こるのはなんだか退屈で馬鹿らしいことに思えたのだ。


 ともかくアリスはケーキを片付けることにして、あっという間に平らげてしまった。

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