Death Dealing

釣ール

どうしてこんなことに

 田本忍世たもとじらいやは缶コーヒーをスーパーで買い、ある事件を拙いながらも追っていた。

 後輩…いや、最高の友である広原敵 鰐頭こうげんしゅ もなあくが事件に巻き込まれ、男子高校生にして家族無しになってしまった。

 正確には著名人の兄と忍世の一つ上で彼の姉がいるのだが目をくらましている。



 忍世も著名人な兄が居て鰐頭には親近感を覚えていた。

 立ち技も一緒に習っていたし、プロにもなって総合格闘技イベントに呼ばれて心無い観客に「ジモキック」と言われたら「非国民!」と一緒になってサムズダウンするくらいには幼かった。

 そんな忍世も大学二年生、鰐頭達は高校二年生だ。

 時が経つのは残酷過ぎる。



 鰐頭が事件に巻き込まれ、家族が殺されて途方に暮れていた。

 鰐頭は廃校に忍世と他の友二人を呼び出し、自分に起きた殺人事件の謎を専門家では無いが拙いながらも俺達は解いていた。



「やっぱり鰐頭の姉が犯人じゃないのか?」


「映像にも鰐頭だけ残して、あの兄さんに罪を押し付けるつもりだろ?最悪鰐頭に冤罪にさせるのかも。」


 鰐頭は姉が悪くないとは言わない。

 そりゃそうだ。

 鰐頭の姉と忍世は話したことが何回かある仲だったが、鰐頭や家族との仲は険悪だった。



 事件内容は不思議なものだった。

 遅れたが鰐頭の次女である姉の名前は「広原敵 皆瓦こうげんしゅ かなと

 映像に記録が残っており、そこには

 鰐頭の姉が父、母、もう一人の姉、妹へ包丁を突き出していた。

 鰐頭が止めに入ると不自然なノイズと共に鰐頭が姉から包丁を落としたのに姉と鰐頭以外の四人が出血も傷もなく眠るように亡くなっていた。


 他殺ではあるが家族間のもつれにも見える。

 しかし鰐頭はノイズがある映像の間に誰か皆瓦が誰かを読んで殺したのでは?と主張を続ける。


 忍世は何だか不思議に思いながら四人で議論を続ける。

 それでも答えは当然見つからない。

 気を取り直そうと四人は廃校を散策することにした。



「鰐頭。

 お前さ、高校生とはいえほぼ家族が居ないのになんでそんなに平気なんだよ。」


 鰐頭は何らかの嗜好品を撫でてこちらを振り向かず校庭を眺める。

 そして鰐頭はいつも通りに話を続ける。



「姉貴…皆瓦が犯人だ。

 事情聴取ぐらい受けているだろう。

 ま、証拠不十分で帰るのが妥当だが。

 幸せな家族なんてあるに越したことはないが遅れてる。

 恵まれていたら愚痴も吐いちゃいけないのかよ。

 こんなクソ喰らえな多様性と遅れた日本の老人やその他の連中達による押し付けがウザったい。

 早く死ねばいい。」


 あれだけ気さくで自然や路地裏を駆け回った

 面影は感じない。

 話の内容だけに忍世も苛烈な返事をしてしまう。


「俺も大学生ながらそうは思う。

 でも、それとこれとは分けて考えようぜ。

 お前もこんな対処療法みたいな形じゃなくて、きちんと皆瓦さんと話をすれば、具体的に事情を話してくれるかもしれない。」



「残った家族で仲良し子よし、犯人を突き出すなんてどうやるんだ。

 貴重な証拠映像でも犯人は写っていない。

 兄貴が遠隔でやったか、皆瓦がやったかでしかない。

 俺は関係ないのに。」



 鰐頭は関係ない。

 だからこそここで映像を検証している。

 警察でも難しいのに。

 それでも忍世は自分達も解決の人助けをしたかった。

 何とかならないのだろうか。

 同じ境遇の存在として。



「うわぁぁぁぁぁ!」



 友が大きな声を上げるとそこには何故か鰐頭の姉、皆瓦がやって来ていた。

 失踪していたはず!

 女性が実家へ戻る理由は様々だ。

 そこは別にいい。

 鰐頭は姉を無視し、忍世は声の方向へ向かう。


 するとさっきまで事件を追っていた友が眠るように理科実験室の机の上で棺に入るように亡くなっていた。


 皆瓦は驚かず、他の三人は何が起きたのか理解出来ずにいた。



「自主しろ!鰐頭!」



 突然皆瓦は鰐頭に激高する。

 いや、ずっとか。


「皆瓦さん、鰐頭は被害者なんですよ?

 俺はあなたを疑ってないけれど、ちゃんと証言してくれれば!」


「鰐頭の姉さんの言うとおりだ。」


 残った友が鰐頭を指さして震える。

 鰐頭は何事もなかったようにやれやれとポーズをとる。

 どういうことなんだ?

 友は事件について語る。

 そして廃校の校庭に霧が包む。


「多分、アキラは真相に気がついたから鰐頭に殺されたんだと思う。

 確かに包丁を持っていた姉が怪しい。

 それは誰が見ても明らかで、遠征中の兄に疑いがないとも言えない。

 けど、おかしいんだ。

 映像に鰐頭だけが都合よく生き残って姉に疑いが向けられるだけなんて。

 上手くいえないけれど、姉は鰐頭も殺そうとしたはずなのにこんな都合よく…がはっ!」



 鰐頭はどうやったのかニシダを自分達の前で殺した。

 血も何も出さず、出来るだけ安楽に近い形で。


 皆瓦は驚かず、忍世に「これが鰐頭のやりかただ!」と主張した。


 すると鰐頭は

「武力だけじゃ生きていけないから新技術を使った。

 アキラは最初から兄貴や姉貴への疑いよりも、俺が犯人の線を疑っていたらしい。

 良い友達だったよ。

 俺に事情を説明しろって。

 そんなこと…するわけねえっての。」


 鰐頭は皆瓦も忍世も能力で殺すつもりだからか真相を語り出した。

 わざとだ。



 -何が起きたか。



 皆瓦は包丁を持ち出した。

 そしてリビングにいる家族全員を殺害するつもりで脅していた。

 こんな物で複数を殺せるわけない。

 それでもいい。


 しかし鰐頭以外の家族が眠るように死んだ。

 まるで眠るように綺麗に。



 鰐頭は姉である皆瓦に指をさし、子供のようではあるものの、充分に成長してしまった高校生らしく邪悪に笑うのだった。


 不可能犯罪で姉を永遠に冤罪にし、縛り付けるために鰐頭が殺したのだった。


 理由は令和になって家族愛だの産まれた環境だのに嫌気がさして犯行に至る。

 勿論著名人の兄のせいで狂った生活への反動だが。


 鰐頭はヤケに見せかけて今までの鬱憤を晴らすかのように姉へ演説めいた話をする。


「このまま言葉だけの薄っぺらい愛を理由に恩を着せられ、兄貴は自由人として過ごして俺達下の姉弟に要介護となった両親を押し付けられる。


 そして姉貴は俺達と関係が悪い。

 今の日本の法律に社会保障じゃ日本全国介護だらけになる。


 幸せっていうのは古くから相手を服従させるための武器なんだ。

 だから姉貴まで逃げられたら俺は困る。


 良いだろう?

 可愛い弟が仕方なく出来の悪い兄や姉の負担を考えて他の家族を殺した。

 兄貴に容疑がかかるように証拠も残したしね。


 後はこの光景を見てしまった姉貴に全て押し付けて終わり。


 そしてこの話は

『何故かこのタイミングで戻ってきたはぐれた姉に全てを押し付けられた故の無実な男子高校生の葛藤。』


 女性である姉貴…お前は更に役に立たないフェミニストにまつられ、俺はこの世の理不尽に奉られる。


 だが別にお前の罪が消えたわけじゃない。

 家族愛なんて令和になった上にスマートフォン一つで起業できる時代で何言ってるのか疑問だったんだ。


 兄貴や姉貴のせいで普通の環境じゃないだのなんだの言われて。

 そんな中慎ましやかに俺は武道も勉強も友人関係も続けていたのさ。

 末っ子の特権だ。


 姉貴。

 お前はこの家庭や国、世界で何かひとつでも役に立てたか?

 お前のような半端な人間は生きて罪を償え!

 俺はこの快感を忘れる前に自立する準備をする。


 元は愛の代償も払えなかったお前達の責任だ。


 嫌だよなあ?

 ジジイババアの世話なんて。


 お前の生きる手間抜きとしても殺してやった俺の恩返しを考えてくれ。


 はぁ。

 クソ姉貴に言わされ、命令されて…俺の人生は最悪だなあ。」



 知りもしなかった。

 鰐頭がここまで生きづらさを抱えていたなんて。

 そしてもう躊躇いがない。

 簡単に生命を処理できる技術を身につけ、アリバイも成立しているのなら私に全て疑いがかかる。


 残った兄が助けてくれるわけがない。

 あんな奴に!

 でも…



 鰐頭から何かをつきつけられた。


「簡単に自分で死ねないように今、お前に細工を施した。

 この技術を取得するために海外遠征で学習したんだ。

 兄貴を誤魔化すのも苦労した甲斐もあったし。

 無駄な経験なんて本当にない!

 お前の初めから終わりまで無意味な魂をこの世に漂わせて一生恥を書き続けろ!

 俺は幸せとも幸福とも違うリターンを手に入れて楽しむからさ。

 」



 忍世は皆瓦を庇い、廃校から逃げろと出口まで案内する。



「この霧の中では無理だ。

 忍世!

 あんたもここで死ね!」


 訳の分からないうちに殺されるくらいなら抵抗してやる。

 しかし鰐頭も今はプロを辞めたが武力は充分。

 しかも意味不明な超能力もある。

 じわじわと自分達を殺すつもりだ。

 ここで引く訳にはいかない!



 忍世は鰐頭の生きづらさを見抜けず、助けられなかった罪悪感を償うために鰐頭と戦った。


「完全犯罪にはさせない!」


 忍世の拳が鰐頭に当たり、彼の口から血が流れる。

 わざと食らったのだ。

 こんな狂ってしまうなんて。


「頼む!もう罪を重ねるな!

 俺はお前を憎まない!

 だから…ぐはっ!」


 超能力を使わず忍世の懐へ鰐頭が飛び込んで攻撃をした。


 自然と二人は殴り合いに発展した。

 話し合うよりこの方がいい。

 兎に角なんとかしないと!

 どうにもならないからこそ!


 皆瓦は固唾を飲んで勝敗を見ていた。

 しかし劣勢になった鰐頭は宣言する。



「この能力、自分にも使えるんだよ。

 最悪の人生だった。

 だから安楽するよ。」


 指を鳴らすと鰐頭は倒れた。

 忍世が近づいて脈を測るともう事切れていた。



 残された皆瓦は映像としてこれまでのことを記録に残しており、忍世は事件の真相を解いた。


 だが、これから仲間達の死を抱えるのだ。


「皆瓦さん。

 俺でよければ…生きづらさを語って共に生きていきませんか?」



「いいの?

 私が本来やる汚れ役を鰐頭に利用させる最低な女に。

 こうして、忍世君と話すのも久しぶりなのに、

 会話がこんなことになるなんて。」



 暗い未来だが歩くしかない。

 生き残った者として。

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