第166話 アルゴノーツ

─プチローグ・センター発表ライブ当日


 俺が全ての責任を負う。


 彼女の造血魔石の魔力は絶やさないし、感染症などの対策として、彼女にはマスクをしてもらった。俺も顔を隠す為にマスクをして、応援グッズも揃えて。彼女を病院から魔導タクシーに乗せて会場まで連れ出した。


 いや、勝手に連れ出したのには間違いないないが、ちゃんと彼女にその覚悟があることを確認しての行動だ。

 彼女の目は今、彼女の人生で一番輝いている。

 俺はソレを見ただけで、今日、こうして連れ出した事を良かったと思っていた。


 今頃病院ではパニックになっているだろうが、もうライブは目前だ。 そして、ちゃんともかけた。大丈夫、俺はそう、自分に言い聞かせた。



─暗転


 メリルが俺の袖をぎゅっと掴んだ。

 見ると薄暗い中、こちらを見ているようで、大きな瞳がゆるゆると揺れている。 よく見るとマスクの下の口元も緩んでいるので、とても喜んでいるようだ。


 センター試験の時とはうって変わって静寂が会場を包み込む。


 ミクとリルの人気は現在拮抗していて、人気的にはどちらがセンターになってもおかしくない。

 しかし、先日のセンター試験の一件依頼、リルの注目度が急上昇している。



 ステージの左右からカラフルなレーザーが照射され、中央の足元から多量の光が吹き上がる。 そこに五人の人影が浮かび上がり、光が会場全体に行き渡ると、大音量で音楽が流れ始める。



「さあさ、やって参りましたよ! 本日はセンター試験発表日!! 今年のセンターはいったい誰になるのか!? さあ、ステージに五人の人影があります!! 果たしてセンターに立っているのは誰なのか!?」


 司会進行の女性が口でドラムロールを演出する。


「ダルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル……ダダン!」


 ステージのバックから当てられる強いライトが消えて、舞台上の五人に証明が照射される。



─エエエエエエエエエエエエ!?


 会場から驚きの声があがる!


「ねえ、マグヌス兄さん? あれって?」



 ステージの上には五人のが立っている。



「あれは……リオ!?」


「誰です!?」


「他の四人は知らないが、真ん中の娘は、リオって言って、ニヴルヘルのオーディションで通過した一人だよ」


「へええええ!?」


─ザワザワザワザワザワザワ…


「会場の皆さん!! 驚きましたか!? 今ステージに立ってくれている五人組は、新しいアイドルユニット【アルゴノーツ】の皆さんです!!

 プチローグのセンター発表の前に、新しいユニットメンバーの紹介をさせていただきます!!

 ステージに向かって左端のニアさんから自己紹介をお願いします!」



 ニアと呼ばれたレッサーサーバル種の猫人族の少女が前に出た。


─ピキッギョコー…


 ニアはステージマイクの前に来て、マイクの高さを合わせた。


「どうもにゃ! 今度アルゴノーツに選ばれたニアにゃ! よろしくにゃ!」


─ザワザワザワザワザワ…

「オイ、ジュウジンダゾ?」

「ジュウジンガアイドルッテドウナノ?」

「デモニャアニャアイッテカワイイニャ!」

「ソレナ!?」


「んにゃ? にゃんだか反応悪いにゃ!? みんにゃ───っ!! 元気かにゃ───!?」


─ウオオオオオオオオオオ!!


「んにゃは! 元気そうで良かったにゃ!」


 ニアは一礼すると、センターマイクを離れて、後ろで待機していた少女にかわった。


 次はフェネック種の狐人族の少女だ。


「よう! みんな、おいらたちが獣人族だからがっかりしたか!? おいらがアルゴノーツの一人、コンだ! ちっちゃいからって舐めんなよ!?」


─ワハハハハハハハハハ!!


 コンは大きな耳をピンと立てて、フサフサの尻尾をブワッとふくらませると、両手を大きく広げて威嚇してみせた!


─パタパタパタパタタ…


 ステージ近くで、何人かキュン死者が出た模様。


「おいらの威嚇で失神した奴が出たぞ!? 救護班!!」


「コンちゃん、大丈夫だから戻っておいで〜!! 次のメンバーどうぞ〜♪」


「なに!? そうなのか?」


 少し心配しながら、後をちょいちょい振り返りつつ、大きな尻尾をゆらゆらさせて、次のメンバーと交代する。


 交代したのは、ツンドラ亜種の狼人族の少女だ。


「私はウル、見た目はちっちゃいけどっ、とっても強いんだからねっ!!」


─ザワザワザワザワザワザ…

「マッシロデカワイイ」

「ヤベェ、オレ、メチャクチャタイプカモ!」

「ウン、オレナンカ、カマレテミタイ!」


「そっ……そんなにおだてたら、噛んじゃうぞっ!? う、ウソだけどっ!! うぅ……」


 ウルは小さな犬歯を見せて、イーってして見せた。


─パタパタパタパタパタパタ…


「き、救護班!?」


「ウルちゃ〜ん、大丈夫だよ〜! 気にしないで戻っておいで〜!」


 ウルはステージ端でしゃがんで、倒れた観客を一度覗き込むと、倒れた人たちが一様に笑顔なのが確認出来たので、ホッとしてステージをあとにする。


 トテテテテテテ、と、走って行って交代したのは、ミニレッキス種の兎人族の少女だ。


 少女はセンターマイク近くまで来ると、ぴょんっと、軽く跳ねて、マイクに話しかける。


「はい、アルゴノーツのメンバーに選ばれましたラヴだぴょん! 語尾? 気にしないで欲しいぴょん!! そんなことより、みんなにアルゴノーツを応援して欲しいぴょん!! なのでヨロシクだぴょん!!」


─パチパチパチパチパチパチ…


 拍手が終わると、ラヴはお辞儀をして、頭を掻くように、長い耳を繕って見せた。


─パタパタパタパタタ…


 ラヴは先ほどキュン死者を見ていたので、気にせずに客席に背を向けた。


─パタパタパタパタタ…


 背後でキュン死者の倒れる音に、ハッとして振り返ると、キュン死者が増えていた。ラヴは不思議に思いながらも交代する為に再び背を向けた。

 ラヴのお尻で、ピコピコと小さな尻尾が動いている。


─パタパタパタパタタ…


 ようやくラヴがホワイトライオン種類の獅子人族の少女と交代する。


 少女はトタタタタと、元気よくセンターマイクへと走って来た!


─ビターン!


 コケた! それも盛大に!


─ワハハハハハハハハハハ!


 少女は起き上がらない。


─ザワザワザワザワザワザワ…


「コンナハズジャナカッタノニ…リーダートシテカッコヨクキメルハズダッタノニ…」


 少女はぼそりと呟くと。


「とうっ!!」


 と、瞬時に跳躍して、センターマイクのもとに着地した!


─パチパチパチパチパチパチ!


「にひひ。 リオだよ!!」


 真っ赤なおでこをそのままに、ニカッと笑ってピースした!


─ワアアアアアアアアアア!!


「みんな、私がアルゴノーツのリーダーのリオ!! 今日は顔見せだけだけだけ……だけど? これから大活躍するから、みんな、ヨロシクねっ!!」


─パチパチパチパチパチパチ!


「はい、アルゴノーツの皆さんでした!!

 彼女たちはアイドルグループの新しいコンテンツ、ダンジョン攻略を動画配信する、【ダンチューバー】として活躍してもらいます!! つきましては、我が社が配信しているDANTUVEダンチューブのアプリをダウンロードしてください。

 基本的には無料配信していますが、一部有料コンテンツもあります。 どうぞ、ダウンロードして、ご確認ください」


─……


 会場が静まり返っている。


「みなさん? ついてこれてます? あれ? 難しかったかな?」


─ドッワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!


「はいはい、ありがとね!! あまり盛り上がられると、プチローグのセンターを発表しにかくなるからっ!!」


─ワハハハハハハハハハハ!


 

 メリルが俺の肩口の袖をグイグイと引っ張る。


「ま、マグヌスさん、マグヌスさん!!」


「どしたっ!? 気分悪いか?」


「とんでもない!! サイッコーでっす!!」


「そうか……あんま、ビックリさせんなよ……」


「マグヌスさん、私、今日、ここに来て良かったです!!」


「まだ終わっちゃねーよ!」


「そうですね! ようやく発表ですね!!」


「おうよ!!」



 ……そうだ。


 俺は、この笑顔を見るために、こんな無茶をしたんだ!


 この時の彼女の笑顔は、今まで見たどの笑顔よりも、輝いていた。

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