第162話 バケモノ
─帝国レコード本社ビル前のカフェ
一日ここで見ていたが、あの男が現れる様子はない。
そして、さすが本社ビルだけあって、人の出入りは雑多にあるが、入館するに当たって警備員が厳しく入館管理をしていて、且つ受付でアポイントの確認をしている様子。
正面玄関からは迂闊には入れそうにないな……。
もう、コーヒーも飽きた。
そろそろ潮時か? と、思った矢先、あの車が現れた。 ヤツの乗っていた黒い車だ。
正面玄関は小さなロータリーになっていて、車を横付け出来る様になっている。
運転手が降りて誰かを待っている様だが、おそらくあいつが出て来るだろうと予想して、俺は精算を済ませた。
せめて写真を撮りたいのだが、店からでは遠すぎるのだ。
俺は店を出て写真を撮れそうな位置まで移動した。
少し敷地内に入るが公開空地だから大丈夫だろう?
さあ、早く出て来い! 魔警隊は信用出来ないから、ムジカレーベルとマスコミに送ってやる!
「───いっ!?」
俺は首根っこを掴まれて大きな警備員に持ち上げられた。
しまった────っ!! 見つかってしまった!! いや、けどまだ何もしてないぞ!?
「ここで何をしている?」
「散歩です」
「コソコソ隠れていた様に見えるが?」
「それが何か? あなた魔警隊じゃないでしょう? 取り調べる権利なんてないんじゃないですか?」
「………………」
「どうした?」
─────っ!?
「あ、マックス様。 不審な者を見つけたので声をかけておりました」
「お前は……」
奴だ!! マックスって言ったな。 俺の顔を知ってる……くそっヤベェな……。
「君はうちの会社に興味があるのかね?」
「いえっ、あっ、はい、あります!!」
適当なアーティストのファンだと言う事で、近付きたかったと言えば説明がつくだろう。 そう遣り過ごせると思っていたのだが……。
「そうか、じゃあ話を聞こうじゃないか。 これから出かけるので車の中で聞こう!」
「いえ、俺はここのアーティストに興味があっただけで、別に会社に興味があったわけじゃ……」
「君、車へ」
「はっ!」
「はっ放せ!! 通報するぞ!!」
ヤベェ!! この男、とんでもねぇ力だ!! 身体強化使っても振り解けねえ!!
─バン!
「出せ」
「マックス様、何処へ向いますか?」
「良いからとにかく出せ!」
「はっ!」
「おい! 降ろせ!!」
「通報するんじゃなかったのか?」
「ああ、してやるさ!!」
…………。
「どうした?」
「圏外? どうして!?」
「さあな? くくく……」
「くそう! 降ろせ!」
「走行中はドアは開けない仕様だ、諦めなさい」
「貴様、俺をどうするってんだ!? あの子みたいにヤるのか!?」
「……………やはり生かしては置けん様だな」
「くっ………くそうっ!! こうなったら……」
俺は魔法陣を展開して爆裂魔法を放とうとした!
が、魔法陣が発動しない!?
「無駄だ。 ここでは魔法は使えん」
「マジックキャンセラー……か」
「……知っているならつまらぬ抵抗はしない事だな?」
車はどんどん街から離れて行く。 どうせ人気の無い所へ行くのだろう。 どうにも脱出は出来ないし魔法もデバイスも使えない。
どうせ死ぬにしても何か爪痕を残したい。 俺に出来る事……くそっ、どうにも頭が回らねえ……。
車から降ろされた時が勝負か……。
─ブロロロロロロロ!!
「───っ!?」
この、無駄にバカでかい排気音!!
まさか!?
俺は後ろを振り返る。 何処かで見たことのあるドラゴンモチーフのバカでかいバイク!! その眉毛!!
メットを被っていて顔は見えないが間違いない!!
ノワール!! と、あと一人誰!?
──いっ!? 飛んだ!?
─ドゴンッ!!
運転していたフルフェイスの女性が車の上に飛び乗った!?
「───っ! ────!?」
後ろで必死にハンドルを掴まえたノワールが何か叫んでいるが、上に飛び乗ったもう一人のこの髪の長い女性はもしかして──!?
─ズバン!!
車が横に真ん中で真っ二つにぶった斬られた!! あの長剣間違いない!!
「寮長!?」
─ガガガガガガガ!!ザリザリザリザリ!!ザザザザ─────ッ!!
「とうっ!!」
─ザム!
─ギャギャギャギャギャギャ─ッ!!
「ちょっと寮長!! 無茶しないでください!!」
「ノワールうるさい! まだだ!!」
─ギュワン!
あの魔法陣!!
魔法陣から黒い影が吐き出されて……中から現れる……何だアレ?
「く……仲間がいたようだが、関係ない。 まとめて葬ってやろう!!」
三面六臂四脚の異形のソレは地に足をおろし、徐ろに面を上げて、目に光が宿した。
「アスラだと!? 寮長いけません!! 逃げてください!!」
「うるせっ!! 黙ってろノワール!!」
「ほう……アスラを知っておるとはキサマ……何者だ?」
「僕が誰でもどうせ殺すつもりなら関係無いだろう?」
「それもそうだな。 殺れ、アスラ!」
─キュイイイイィィィィィ……ピピッ!
「マグヌス、逃げろ!! ノワールはそこで待機だ! オッサンは逃がすなよ!?」
「寮長! ソイツはヤバいですって!!」
「いい加減黙れ!! そこで観てろ!!」
「寮長!!」
─ガイン!!
瞬時に斬り掛かって来たアスラを蹴飛ばしてバックステップで魔法剣を躱した! 速い!!
─ザッ! ダダッ!!
速すぎて目で追えない!! 寮長?
─ギギン!!
アスラが何かしらの攻撃を往なした!
─ザーッ!
「魔法剣か……厄介だな。 しかしまあ……
─ブゥン……
寮長の長剣が眩く光る!! あれも魔法剣!? それもあるかも知れないが、アレは……アストラル体が剣を覆っているのか?
─ギュイン! ギュリリリリ!! キンッ!
いや、何が起こっているのか、観ても分かんねぇ!!
しかし、アダマンタイトさえ斬れるあの魔法剣と剣を交えるなんて、寮長って何者!?
「所詮人形か。 つまらん」
「え?」
─ガラガラガララララ……
鍔迫り合いをしているものと思っていたら、アスラがバラバラになって崩れ落ちた。
「ひいいっ!!! ばっ! ばっ! バケモノ!!」
「誰がバケモノだ! ふんぬ!」
─ザシュ!
オッサンの足の間に長剣が刺さった。 うん、間じゃなく股間がザックリだ……痛そ。
「ギャアアアアアアアア!!」
「おいマグヌス! 怪我はないか?」
「はい、寮長!! 少し足が折れただけです! あと少し横腹がザックリと!」
「そうか、なら良かった!」
「良くないでしょ!! マグヌス先輩、すぐに応急手当するので見せて下さい!」
「何だノワール、そんな事出来るのか?」
「これはまあ、マキナさんがマギアグラムに入れてくれたデジタルスクロールです」
「ほんと、あの人天才だな?」
「今更ですね?」
「だって、普段ただの変態じゃないか?」
「……否定はしません」
「お前の姉だろう? 少しはフォローしてやれよ?」
─キュウウウン……キュウウウン……
マグヌス先輩の傷が塞がり、足は元の位置に戻った。 しかし応急手当なので、病院に行く必要がある。傷は止血して塞いだだけで、足は元の位置に戻しただけなので補強しなければならない。
「寮長、病院に戻りましょう!」
「ノワール、ちょっと待て!」
「マグヌス先輩?」
「あの病院には戻りたくない。 父さんの病院に行きたいのだが、頼めるだろうか?」
「マグヌス先輩ってお医者さんの息子さんだったんですか?」
「そんな事、どうでも良いだろう?」
「分かりました。 バイクだと振動が怪我に響きそうなので、マキナさんを呼びます」
「それが良い。 こいつらを魔警隊へ突き出したい」
マックスと運転手が観念して大人しくしている。 まあ、あのアスラを倒せるバケモノだからな。
「魔警隊……」
「どうしたマグヌス?」
「いえ、魔警隊ももしかしたら俺を狙っていたかも知れないと……」
「そうか、じゃあ魔物の餌にでもするか?」
「「ひっ!?」」
「いや、そのままムジカレーベルへ渡して、あちらに任せましょう。 損害賠償でアリーナの修理と観客への払い戻し等を補わないといけないでしょうし」
「そうか。 マキナさんはココが分かるのか?」
「きっと僕の動向を追っている筈なので……」
─ルルルルルルル……
「ほら、噂をすれば何とやら……」
─シュウウウウウウ……
「ノワール! 怪我はないか!?」
「はい、みんな無事です!!」
「そうか、良かった! ……そいつらか?」
「はい。 えっと名前は……先輩?」
「帝国レコードのマックス、そしてその運転手です。 事件に二人とも関与していると言っても良いでしょう」
「……泳がそうかとも考えたが……見るからにクズだな。 ムジカレーベルに任せよう」
「姉さん、バイクは乗せました。 先にこいつらをムジカレーベルへ引き渡しましょう」
「わかった。 寮長?」
「おう、ほら!歩け!! 汚い汁を落とすな!!」
寮長がマックスたちを蹴飛ばして促す。
「汁じゃなくて血ですよ!! 魔救隊を呼んでください!!」
「バベルの麓に捨て置くか?」
「ひいいいいっ!! い、行きます!! ムジカレーベルへ連れてってください!! 我慢します!!」
「ならサッサと行け!」
「「はいいいいいっ!!」」
僕たちはムジカレーベルのローレンさんと連絡を取り、マキナさんの
そのままローレンさんが手配してくれた車に乗って、マグヌス先輩のお父さんが運営しているシュローダー総合医療センターへと向かった。
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