第161話 帝国レコード

─帝国レコード本社ビル前


 俺は術着の上から母親が持って来てくれたコートを羽織って、帝国レコード本社ビルの前に立っていた。


 ああ……、俺裸足で来てしまったよ。


 来たは良いが、いきなり社屋に押し入るなんて出来ないよな。


 俺は帝国レコードの入口がよく見える向かいのカフェで腰を下ろした。


 窓側席から人の出入りがよく見える。 アーティストなどは裏口から入るだろうが、職員なら入口を使うだろう。 ……違うか?


 少し心配になって来た。 が、まあ、どのみちこの会社の人かどうかも判らないのだから、当たってなくても仕方ないと言うものだろう。


 俺はコーヒーカップを傾けながら帝国レコードの入口を見張る。 もちろん犯人を見つけたら魔警隊へ連絡して……連絡して仮に魔警隊が黒だったとしたら……? 考えが恐ろしい方向へと向い始めた。


 帝国セントラル総合病院はどうだ? いや、それなら俺の命は無いと思うべきか? 気が付いたら魔警隊と母さんが居たが、仮に母さんが居なかったら? ………………もう何を信用して良いのか分からなくなって来た。




─帝国セントラル総合病院


─バン!


「きゃあっ!?」


「おい! マグヌスはどこだ!?」


「あなた誰ですか!? 魔警隊呼びますよ!?」


「あん? 誰だおめぇ?」


「あなたこそどなたです!? いきなり息子を呼び捨てとか彼女気取りですか!?」


「あん!? オレはマグヌスの住んでる学生寮の寮長だが!?」


「まあ! なんて野蛮な寮長なのかしら!? 今どき長剣持ち歩いてるなんて、どうかしてるわよ!?」


「そんな事はどうでも良いだろう? マグヌスはどこだってんだ? 教えろよオバハン!」


「オバ……!? もう!! なんて失礼な人なのかしら!?」


「教える気がねえならかまわねぇ! ノワール!行くぞ!?」


「行くぞって、僕のバイクのキー、持ってるの寮長じゃないすか!!」


「いいだろ!? 減るもんじゃねえし!! ぐえへへへへ!!」


「悪そうな顔になってますよ?!」


「知るか!」


「マグヌスさんのお母さんですかね? 僕は同じ寮に住んでいる後輩のノワールと申します。 マグヌスさんはいらっしゃらないのですか?」


「それが……さっき部屋を覗いてみたらもぬけの殻だったのよ! あの子ったら親に心配かけてばかりで……」


「そう……ですか。 わかりました! こちらでも探してみますね! 見つけたら連絡しましょうか?」


「え!? あ、すみません、ありがとうございます! 私の電話番号ですが……」



 僕はマグヌス先輩のお母さんの連絡先を交換すると、すぐにマキナさんへ連絡をとった。 とは言ってもマキナさんは街の近くに飛竜艇ヴィーヴルと一緒に身を隠していて、そこから僕は寮長とバイクで病院まで来たのだ。



「マキナ姉さん、マグヌスの居場所教えてください」


[今座標を送った。 ウラノス号がナビしてくれる筈だ!]


「さすが仕事が早いですね! 寮長行きますよ!」


「おう!」


「ところでマキナ姉さん、僕のマギアグラムに何かしましたか?」


[ん? ボクの可愛い待ち受け画面が気に入ったのか?]



 僕のマギアグラムを起動すると少し……いや、かなり露出度の高いマキナさんが浮かび上がってウインクする。 おいっ!?



「待ち受けだけじゃなく、全体的な仕様が変な猫になっているのですが?」


[ボクが作った着せ替えオーディンキャットだが、そんなに気に入ったのなブツッ!ツー、ツー、ツー……]


「寮長、長剣は隠しておいてください。 目立つし捕まりたくないので」


「遺憾であるな!」


「仕方ないでしょう。 ここは帝都で街中なんですから」


「ふん!」



 僕はウラノス号に身を任せて帝都の街へと走り出した。 ウラノス号の眉毛が少し太くなった気がするが、きっと気の所為だろう。



─ブロロロロロロロ……



─帝国レコード本社ビル



「それでこれはどう言う事なんだ? マックス君、説明してみたまえ」


「専務……これはそのお……申し訳ありませんでした!!」


「謝って済む話ではないのだよ、マックス君。 君の計画にはに予算もかかっている。 帝都教会への顔も潰された。 これは大きな損失だ! 君はこの計画で少なくともムジカレーベルの信用は、確実に失墜すると言っていたではないか!? むしろムジカレーベルの株が上がっているのはどう言う事だ!」


「はい。 確かに申し上げました! が、しかし……まさかあの様な者が現れるとは、予想だにしていませんで……」


「言い訳はよせ! それより我が社へその疑いが来る事は無いのだろうな!?」


「そらはもう抜かりなく! 例の少年も近いうちに必ず。 今、一人魔警隊を送っているのですが、母親がついてましてなかなか……しかし、必ず消しますのでご安心を!」


「………まだ消してないのか?」


「ですから今、魔警隊を……今日中には必ず!!」



〜♪



「失礼します。 ……アレクセイか? 例の少年は消したか? 何!? 病院から消えただと!? 行方は分かるのか!? なにぃ?……くそっ、どうなってやがる!?」


「………お前の方こそどうなってやがんだ? 頭を開いて見てやろうか?」


「ひっ!? 専務、それはご勘弁を!! 必ず見つけ出してご覧に入れますので!! ……ところで専務、こちらの男はいったい……?」



 マックスの隣に口髭を蓄えた、初老の男が立っている。 身なりは高そうなスーツを着こなし、黒光りする程に光沢のある靴を履いている。



「新しく雇い入れた我が社の顧問弁護士だ。 お前がヘマをしなければこんな出費も必要なかったのだが、今回の事件で我が社に火の粉が飛んで来んとも限らんからな!?」


「どうも。 この度顧問弁護士とし雇われました、と申します。 このたびの騒動の後始末も粗方済ませております。 最悪はマックスさん、あなた一人の責任で済ませていただきます。 帝都教会やその他への繋がりは一切無かったものとしておりますので、ご了承いただきたく……」


「そんなっ!? 俺はやれと言われたから計画立案したたけだ! 手を貸したのは帝都教会のミロードだし、実行犯は捕まったではないか!? 俺は悪くない!!」


「ほう……その帝都教会のミロードさん、でしたっけ? あなたはどの様なコネクションがあって、どのようにして取り入ったのでしょうな?」


「そ、それは……お前には関係ないだろう!? 俺は知らん!!」


「先日、身元不明の少女の遺体が回収されましたが、あなた、身に覚えは?」


「うっ……知らん! 俺ぁそんな翼人族など見たこともない!!」


「おや? まだニュースでは翼人族だと言う情報は流れておりませんが? そしてあなた、帝都教会にこの企画書の予算以上の予算を割いておりますね?」


「し、ししし、知らん!! 何かの間違いだろ!? と、と、とにかくあの少年さえ殺れば問題はない筈だ!! 失敗してから言ってくれ!!」


「……良いでしょう。 せいぜい頑張ってくださいね? それから……この写真はお返ししておきますね」


「写真……だと?」



 スミスと呼ばれたの男は懐から取り出した封筒を机の上に置いた。



「─────っ!?」



 マックスはみるみる青褪めて、口をパクパクとさせ言葉にならない言葉を吐いた。


 そこには翼人族の少女と全裸のマックスが写っており、鬼畜の所業とも言うべき凄惨な光景があった。



「あなたにはもう後がありませんよ? 帝都教会は既に証拠を隠滅しております。 ミロードさんと呼ばれるお方もすでにおりません。 と言いますか、もともとこの世に存在しておりません。 なので、あなたとのコネクションなど、初めから無かったものとなります」


「さすが仕事が早いなスミス君。 噂以上に出来る様でわしも安心だ!」


「どうも」


「わ、わかった! や、殺ってやる!! あんな少年の一人や二人!!」


「せいぜい頑張ってください」



 スミスは口髭を少し持ち上げるように笑った。 しかし目は全てを見透かすような鋭い目をマックスへと突き刺している。



「くそうっ!!」



 マックスは形相を変えて慌ただしく部屋を出て行った。



「スミス君」


「はい」


「あの少女……マックスはどのようにして手に入れたのだ?」


「……興味がおありですか?」


「いや……わしは……例えば少年なども手に入ったりするのだろうか?」


「先ほど話したミロードと言う男はこの世から消えましたが、代わりにマルスと言う男が生まれました。 ご紹介いたしましょうか?」


「そ、そうか!? 頼んでも構わんか!?」


「マックスと同じ様な失態の無いように、くださいね?」


「わしはあんなヘマはせん!!」


「そうですか……それでは手を回しておきますね」


「おお!! 頼んだぞスミス君!!」


「かしこまりました」



 スミスの口髭の下からギリリッと音がしたが、他の者に聴こえることはなかった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る