第155話 エーリヴァーガルの会合
「いや、ごめんなさい。 僕、嘘ついてました。
僕は……転生者です。 元々この世界の人間ではありません。
魔法も精霊も無い世界からやって来た、ただの人間でした」
「転生者……」
「異世界人てこと!?」
「ええ、僕は異世界人。 こちらの錬成器で身体を用意されていて、こちらの友だちとオフ会をするつもりでした」
「オフ会!?」
「はい。 オフ会と言うのは、オンラインで知り合った人たちとオフライン、つまり現実的に会う事を言います。
しかし僕は一つの陰謀に巻き込まれて、転生に失敗したのです」
「陰謀?」
「はい、僕の魂がこちらに来たことで、元の世界の僕の身体を乗っ取られたのです」
「ってことはもう元の世界へは戻れないってこと!?」
「酷い!!」
「そうですね。 もう戻れないと思います。 でも良かったんです。 元の世界には良い思い出も無かったので、未練も何もありません。 むしろ、今の環境の方が仲間に恵まれていて、手放したくありませんから。
僕はこちらの世界に転生して人と関わるのを避けて過ごしていたのですが、帝国のインスマスの港街へ行った時にゴルゴナの島で囚われていたロゼを助ける事になったんです」
「どうしてそんな流れになるの?」
「うん、そうだよね? まあ、これも精霊の導きだよ。
しかし彼女は呪いをかけられていて、僕たちはその呪いを解くために旅に出ています。
今は力を蓄えている最中ですが、ここを卒業すればゴルゴンを奪還する為にシン・バベルに攻め入ります!」
─えええええええええええ!?
「ちょっと待ちなさい。 あたしはそんな事聴いてないかしら?」
「この学校では誰にも話してませんからね? まあ、皆さんを巻き込むつもりはありませんよ?」
「…………………」
「いや、本当に巻き込むつもりなんて無いので、考えないでください!!」
「ロゼはついて行くけどね!」
「もちろんシエルだって!」
「「「「え?」」」」
「本気で言ってるの?」
「ほんき」
「まぢ」
「バベルがどう言うところか知ってるのかしら?」
「行った事あるよ?」
「……シエルは……ないけど」
「あるって言ったって商業施設でしょ?」
「そう言えばキンゴレの時にアスガルド皇国へ行ったと言ってたね? ハイモスが解放された事とヴァルカンを知っている地点で信憑性は限りなく高い。 彼らはバベルからビフレストを使ってアスガルド皇国へ行っているんだ」
「僕はバベルの外も観てきたよ?」
「バベルの外おおおおおお!?」
「いや、それはちょっと信じがたいかしら?」
「ビビさんも知ってるネモさんとはそこで会ったんだ」
「今、すんなり信じちゃったかしら?」
「ネモってあの
「孤高の賞金稼ぎにして、賞金首のネモ?」
「あの助平で女ったらしのネモ?」
「……はい、そのネモです」
「まぢですか……たしかにネモと一緒なら、たしかに生還可能かしら」
「ノワール君て底が知れないよね。
少し怖いけど、興味の方が強いので、何だろう? まるで興味本位で深淵でも覗き込んでしまうような感覚になるよ」
「深淵て……先日行って来たところですが」
「ほへ?」
「ノワたん? ピコたんが変な声出るくらいわけのわかんないこと言わないでくれる?」
「チェリたん、にぃにはウソ言ってないよ?」
「シエルはおいてけぼりなの……シュン……」
「え? 本当に行って来たの? そう言えばウラノスに乗るとか言ってた祝勝会の日かしら?」
「うんまあ、そうなんだけどね? ちょっとフライトを楽しむつもりが深淵覗いてたって感じ」
「怖い!?」
「それがまあ、なんだかんだあってね……僕も精霊契約したんだよ」
「え……ボクがこんなに苦労してようやく契約にこじつけたのに、キミって奴はどんなイカサマしたんだい?」
「イカサマって人聞きが悪いなあ!? 僕はロゼとウラノスに乗ってフライトしていただけなんだ!!」
「にぃにって妖精たらしなんだよ〜!!」
「あっ!? ロゼ? そんな余計な事は言わんでよろしいっ!!」
「妖精?? 精霊じゃなく!?」
「僕も初めて知ったんだけど、精霊が具現化、つまり実体化するとそれは妖精なんだって、フェルが教えてくれた」
「へえ……それで? どんな妖精をたぶらかしたんだい?」
「本当に人聞きが悪い!? ……僕もまだ呼んだ事が無いから、一度呼んでみようかな?」
僕はバンシーに貰った指輪に魔力を流す。 足元に魔法陣が展開されて……。
─シクシク、シクシク
「バンシー?」
「シクシク…シクシク…。 クロったら酷いです……」
「にぃにが女の子泣かしたーっ!!」
「あ〜あ……これは酷い……」
「ノワールさん、こんな幼気な子を泣かせるなんて……」
「いや、その精霊?妖精?バンシーと言ったかしら?」
「はい、紹介します。 僕の妖精友だちのバンシーです」
「いや、そう言う自己紹介とか良いんだけど、その精霊が泣いていると言う事が問題かしらっ!!」
「へ?」
「バンシーが泣くと身近な誰かが死ぬかも知れない。 そんな精霊なのよ、知らないの?」
「バンシー、そうなのか?」
「ん〜ん。 クロがかまってくれないからさみしくて……ぐす……」
「ノワール!!あんたね、どんだけ構ってあげてないの!?」
「そんなこと言ったって、契約したのつい先日ですよ?」
「ならどうしてこんなことになるのかしらっ!?」
「バンシー、どうして?」
「ノワールが他の精霊に会ってるのに私には会ってくれないんだもん……ぐす……」
「精霊たらし……」
「精霊たらしだ……」
「精霊たらしね……」
「女たらし……」
「ヨダレたらし……」
「みたらし団子食べたい……」
「最後の方、全然関係ないよね? それよりバンシー? 本当に誰も死なないんだな?」
「すん……クロが遊んでくれたら?」
「何の脅迫だ?」
「構ってあげなさいよ、せっかく契約したんだから?」
「そうだよ。 ボクはこれからマリードとお出かけするよ! ノワたんも来るかい??」
「行っても良いけど、皆が置いてけぼりになるよ?」
「あ……そうだね。 ボクの勝手で呼んでおいて置いてけぼりは酷いよね……」
「いってらっしゃい?」
「べつにいいよ〜♪」
「いいよ〜♪」
「はい、構いません」
『何言ってやがる? マリードなら全員運べるだろ!?』
『フェル?そうなの?』
『聞いてみろよ、なあマリード?』
『容易い事だな?』
『とは言えどこに行くんだ?』
『やつならどこでも行けるだろう?』
『ああ、深淵でも見に行くか!?』
『おいおいよしてくれ、暗くて何も見えないんだから』
『あんた、本当に行ったのね?』
『うんまあ。 よし、じゃあ薄暗くなって来た事だし、ユグドラシルの夜景でも観に行こうか?』
「ピコ君、マリードに頼んでみんなでユグドラシルの夜景でも観に行こうよ」
「ユグドラシルの……夜景?」
「ああ、以前ウラノスの背中から観た時、とても綺麗だったんだよ」
「ふふふ。 ノワたんて、ロマンチストなんだねぇ?」
「でも、私は観たいです!」
「ロゼッタもみた〜い♪」
「シエルもみた〜い♪」
「ビビもみた〜い♪」
おい、マダム!? って内心突っ込んでるのは僕だけか!?
「わかった! マリード、お願い出来るかい?」
「良かろう!! せいぜい風に飛ばされない様にするんだな?」
「おいおい、手加減してくれよ?」
「ふはははははは!!」
マリードは両手を地面に置くと、皆がそれに乗った。
マリードが宙に浮く。 一様にバランスを取るのが難しく、それこそ風に吹き飛ばされそうだ。
「マリードは本当に吹き飛ばされるなと言ったんだ!?」
「任せて!」
─パチン
ビビが指を鳴らすとマリードの手を覆うように結界が張られた。
「風魔法の結界を張って風の影響を受けなくしただけだから、バランスは自分で取るのよ?!」
─はい!
「ねえ、ビビ?」
「ん?」
「友だちにこんな事言うのも何だけど、あなた学園で今更学ぶ事なんてありますの?」
「無いかしら?!」
「きっぱり言った!?」
「じゃあ、どうして……」
「そんなのあなたと同じじゃないかしら?」
「……あ」
「うふふ。 そう言うことよ♪ よろしくね?」
「はい!」
「ん? どうゆーこと?」
「ロゼ? こーゆーことだと思うよ? ぎゅっ」
「シエルン! ぎゅっ」
「私もぎゅう!」
「あ、ノラたんずるい! あたくしもぎゅうううぅぅ!!」
「あたしもいいかしら、ぎゅっ♡」
「ビビたん、恥ずかしいから女の子にしてくれませんか?」
「あらピコたん、恥ずかちいのかしら?」
「はい、普通に恥ずかしいですから。 それに頭にお胸が当たってます」
「うん、乗せてるんだけどね?」
「乗せないでください……気持ちいいけど、恥ずかしいですから」
「それじゃ、ノワールに─」
「─遠慮します!」
「酷い!?」
「セクハラだ、ピコ君」
「うん、セクハラだねノワたん」
「あ……」
「ん?」
「見てください! もうギンヌンガガプがあんなに下に! それにホラ!!」
深淵から吹き上げる風に身を任せてドンドン上昇して行くマリード。
やがてユグドラシルの全容が見え始めて、各国の灯りがキラキラと煌めき始めるのだった。
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