第154話 エーリヴァーガルの盟友

─エーリヴァーガル河川敷



 ピコ君が既に焼け野になっている場所に立っている。


 なるほど、ここなら大抵のことなら対処出来そうだ。


 少し離れた所に僕、ロゼ、エカチェリーナ、ノラ、ヴァイオレット、シエルがいる。


 そしてその更に後ろにピコ君のお付きの執事のセバスチャンさんが見守ってくれている。 ハイモスほどではないが大きい。 セバスチャンさんはハイモスと違って細身だが、逆に背の高さが強調される様だ。



「みんな? たぶん驚くと思うけど、怖くないから逃げなくて良いからね?」


─…………。


 余計に緊張感が増すよね?


 おそらくはずっと研究していた精霊召喚に成功したのだろうけど、ココさんのクーちゃんや僕のバンシー、ロゼのフェル?等を見ている僕は怖い精霊と言うイメージが湧かない。


 果たして!?


 ピコ君が魔法陣に魔力を流し込む。 魔法陣から光が溢れ出し、精霊門が現れる。



「我が名はピコ=ヨトゥン=クエタ! 盟約に従い顕現せよ我が友、ジン・マリード!!」



 精霊門が僅かに開き、隙間から煙のようなものが溢れ出す。

 煙のようなものは大きく形を成してゆき、次第に一塊に収束され形をなしてゆく。


 デカい!! それこそハイモスくらいのデカさだ! そしてその黒い肌には銀色の入れ墨のような紋様がはいっており、体躯も筋骨隆々と言った感じだ。

 名前もジンと言ったので間違いない。 ランプのソレではないが、きっとソレに近い精霊なのだろう。



「やあ、マリード!! 来てくれてありがとう!! 存分に僕の魔力を持って行ってくれ」


「ふぬ。 して、今日は余興か何かか? 人が多い様だが?」


「ああ、紹介するよ! ボクの友だちだ! みんな! ボクの新しい友だちを紹介するよ!! ジン・マリードだ!! よろしくたのむ!!」


─……………。


 皆呆気にとられて手を振り返すくらいしか出来ていない。 ロゼやシエルは目がラッキラキに輝いて今にも飛びつきそうだが、僕が肩を抑えている。



「あれ? 反応が悪いなぁ!?」


「いや、みんな呆気にとられているだけだよ! それよりついに成功したんだね!? おめでとう!!」


「ノワたん、ありがとう!! 彼が大量に魔力を持って行ってくれるので、昨日からすこぶる身体が楽になったんだ!」


「おお!? それは良かったね!! 所で彼はどんな精霊なんだろう?」


「実のところボクにもまだよく分かってないんだよ。 けれど話をしたところ、とても協力的なのでボクの力になってくれる事には間違いない」


「そんなんだ?」


「ねえねえ、ピコたん? 触ってもい〜い?」


「ん? いや、どうだろう? マリード、良いのかい?」


「ん? 構わんが、こんなところに翼人族がいるとは珍しいな?」


「へ? ロゼたんは翼人族なの? て言うか、ノワール君の妹さんたちじゃないの?」


「あ!ピコ君、ちょっとちょっと!! 待って!! 僕が説明するから」


「ロゼたんやシエルンが人間だろうと翼人族だろうと、ノワールの妹さんでなかろうと、私たちの友だちな事には変わりないわ? ね、精霊さん?」



 ビビさんが間に入ってくれた。 けどもう、僕の反応でみんなにはバレてしまっただろう。 まあ、いずれはバレたかも知れないが、思っていたより早かったな、迂闊だった。 ここ、ニヴルヘルでは翼人族は忌避される傾向にある。 しかし魔族であるビビさんが大丈夫なら、この場は問題ないと考えるべきだ。



「うぬ、別にどうと言うこともない。 このピコに害を及ぼさない限りは我は何もせん」



 と言ってる間にもロゼとシエルはマリードにペタペタと触って……、触りまくっている。

 とても楽しそうだが、マリードの表情からはその内心は読みとれない。 まあ、アストラル体を見る限りは攻撃色はしていないので大丈夫だろう。



「そうか……ロゼたんやシエルンは無事に逃れて来れた感じなのかな? ハイモスの話ではアスガルドから逃げでたのは彼と解放運動をしていたルカさんだと聴いていたが……」



 ハイモスさんはちゃんと黙ってくれている。

 しかし、どこまで話して大丈夫なのか、駄目なのか、線引が判らない。 しかし、彼らを失望もさせたくない。 はあ……。



「まあ、彼女たちが逃げ出たのか何なのか、僕が彼女らを帝国から解放したんだよ」


「……今。 聴き違えてなければ、キミは帝国から彼女らを解放したと言った? あの帝国だよ? そんな事、出来るものなのか?」


「僕たちは友だちだけど、そこまでは話す義理はないと思っているよ」


「ノワール君。 ボクには教えて欲しい! キミは帝国と敵対している、そうなのか!?」



 う、思ったよりもグイグイ来るな……どうするか。



「ピコたん、そんな話は皆がいるこの場所で話すべき事ではないのじゃないかしら?」


「あ……、ごめん、興奮してしまったようだ。 こんな所で話す内容ではないよね? 後で話そうか」



 ビビさんが気を使ってくれて助かる。 さすがマダムだな?



「あたくしは構わなくってよ!! あたしの友だちがどんな人たちなのか、興味ないわけ無いじゃない!! 仮に悪魔だったとしても、あたくしはあなた方と友だち関係を辞める気はないわ!!」


「わ、私も!! 仲間外れは嫌です!! 皆さんの事、もっと知りたいですし、困っているのなら協力したいです!!」


「そうだね。 ボクがキミたちの事を聴く前に、ボクの事から話すのが筋だと言うものだ。 失言を許して欲しい」


「いや、良いよ。 僕だって隠している事には違いないのだから。

 そもそも、僕が帝国と敵対しているとして、君たちを巻き込みたくないと思うのは、友達として当然だろう?

 あまり深入りすると実際にどうなるか判らないし、仮にも君たちは……いや、これは言うまい」


「ボクはヨトゥン王国の王族、第三王子ピコ=ヨトゥン=クエタだ! ここ、ニヴルヘルに来たのはリリーズ魔導学園でこの精霊召喚、そして魔法をしっかりと学ぶ事が目的だ!」


「ピコ君!?」


「ボクは魔法を学ぶ事で、帝国に対抗出来る手段を模索している!! と言うのは、近いうちに帝国がヨトゥンへ侵攻するであろう情報を得たからに他ならない!!」


「ピコ様!! そんな事をお友達の前で仰って大丈夫なのですか!?」


「構わん、セバスチャン!! ボクは彼らの信用を何としても得たいのだ!! その為ならボクの全てを晒し出そう!!」



 実に堂々として、確かに王族の風格と言うか品性とオーラを感じる。 そして何よりもその目は真剣そのものだ。 口にした情報もきっと信用に足るものだろう。



「あたくしはアールヴの大森林の奥、ガンドアルヴ王国第一王女、エカチェリーナ=ガンドアルヴ=ヴィクトリア!! このリリーズ魔導学園へは他国の情勢と文化などの情報、あわよくばその繋がりが欲しくて来ました!!

 あたくしは時期ガンドアルヴ王国の女王になる者です。 時代遅れのガンドアルヴを変えるための模索をしなければなりません! 是非! あなた方お友達の協力を求めたいと思っておりますわ!!」


「二人とも……」


「私はノラ!! ただのノラ!! 今は国も親も兄弟も何も無い! ただの野良猫です!! しかし、私は国、マーナガルム獣王国を取り返したい!! その為にレジスタンスに入りたい!! 強くなりたい!!

 今や物理特化の獣人族はカースト最下位です。 なので私は獣人族の可能性を模索するべくこのリリーズ魔導学園を志望しました!! マダムに頼み込んで裏口入学的な事もしました!! しかし、どんなに後ろ指を差されようとも、私は強くなりたい!! 国を取り戻したいのです!!」


「ノラさんまで!?」


「あたしはヘンリエッタ=ジャガーノート=リリー! リリーズ・キャッスルを統べるマダム・ヘンリエッタにして、このリリーズ魔導学園のオーナーでもあるあたしは、この世界の害悪とも言うべき帝国をコッソリと牽制して来たけど、あの害悪は増幅する一方!! この夜の調和を乱す帝国は一度ぶっ潰す必要があると判断したわ!! その為にはどんなに小さな協力だろうと、貪欲に取り入れる事にしたわ!! 是が非でも、あなた方の協力を仰ぎたい!!」


「ちょっ!? ビビさんっ!? それ言っちゃって大丈夫なヤツなんですか!?」


「友だちなら構わないかしら?」


「ふふん、やっと私たちの出番のようね! シエルン!!」


「そうね、ロゼッタ!!」


「おい! やめろ!」


「私たち姉妹、シロ=モモ=ロゼと!」


「アハト=シエルは!」


「てーこくよりつくられた実験体!! 私たちは!」


「クロ=冥王=メイガス=ノワールの意思にじゅんずるものなり!!」


「ものなり!!」


「あぁ……」


「冥王?」


「メイガス!?」


「わかった」



 そう言うと僕は一息ついて。

 覚悟を決めた!



「刮目せよ!! そして聴け! 恐れ慄け! 我こそは冥王!! 冥界より来たりし混沌だ!! しかし安心するが良い!! 我が目的は打倒帝国にある!! 決してお前たちに害する者ではないことを約束しよう!!

 しかし、我に仇なす時は覚悟せよ!! 我こそは冥王!! その名のもとに仇なす者は全て駆逐する!! 微塵も残らぬと思え!!」


「「「ダッサ」」」「「「カッコいい」」」


「ふぐはっ!!」



 駄目だ、ダメージが大き過ぎる。 全員の言葉を凌駕しようとしてのこの代償。 ダッサ、カッコいいのどちらの言葉も僕の胸を抉る。 

 

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