第153話 編入前日
「それで?」
「なんだ?」
「どうして姉さんが
「ふむ、話せば長くなるが良いのか?」
「この後待ち合わせがあるけど、少しだけなら構いませんよ?」
「ならば話してやろう。 ボクの研究室で話そうか」
「既に研究室まであるんですか?」
「当たり前であろう? ボクは特別講師だぞ? 博士号など捨てるほどあるが見るか?!」
「いえ、姉さんが天才なのは知ってますが、今更人に教える立場じゃないでしょう?」
「仕方あるまい、マダムと利害が一致したのだ」
─魔道具研究棟・マキナの研究室
まだ何も置かれていないものの、研究室としては十分な広さがあり、とても清潔感がある。 一研究者に与えるには贅沢ではないかと思える空間である。
「思っていたよりも整っておるな。 ここならアレの研究が出来るやも知れんな」
「アレ、ですか?」
「ふむ、それは教えられん」
「まあ、それは良いとして、どうしてここに姉さんが居るのか教えてください」
「ふむ、先日の祝勝会の折、ボクとアハトが街に出ていたのは知っておろう?」
「はい。 姉さんがカレーを後回しにしてまで用事に出かけるとか不自然だと思いましたが、まさかこれの為に?」
「左様。 まあ簡単に話してやるからこのビーカーで、持って来た珈琲でも飲むか」
「ビーカーwww それじゃ、お願いします」
「ふむ、まあ昨日の事なんだがな?」
─前日:リリーズキャッスル・マダムの執務室
マダムの執務室には学生二人と教員一人の姿があった。
「キミたち二人はよしとしよう。 しかし! ボクのコレは如何ともし難い!! 度し難い!!」
「あらあら、なかなか可愛らしいかしら? ふふふ♪」
「よく、お似合いですよ? くすす♪」
「あっ!? 今笑ったではないか!! 非常に! 度し難い!!」
怒っているのは教員、の格好をしたマキナだ。 だぶだぶの白衣に似合わないブラウスとタイトなスカート、そしてヒールだが……着ていると言うより着られていると言う方がシックリ来る格好だ。
ぷんすこぷんすこと、激おこぷんぷん丸なマキナは、着ている服を全部そこいらに脱ぎ散らかした。
「あら〜、せっかくお似合いでしたのに、お
「こんな事もあろうかと
「あら〜残念だわ〜♪ アハトちゃんは本当にモモにそっくりなのねぇ?」
「モモ?」
「え!? ロゼのことだけど?」
「アハト、キミのお姉ちゃんの名前はひとつではないのだよ!」
「そうなんですか!?」
「うむ、『シロ』『モモ』『ロゼ』の名前がある。 そしてキミは今日から『シエル』だ。 呼び名は『シエルン』」
「え? あ、はいっ!! シエルですね!?」
「そうだ、シエルン!!」
「では、その名前で登録しておくわね? ご両親と住所はモモ?と同じアラン氏ので良いのね?」
「ああ、宜しく頼む! して、マダムの呼び名は何とするのだ?」
「決まっているじゃない? 『ヴァイオレット』よ? 呼び名はそうねぇ……『ヴィヴィ』いえ『ビビ』で良いかしら?」
「ビビ様!」
「シエルン? 様無しで!」
「び……ビビ!」
「そうよ! もっと!」
「ビビちゃん!」
「あん♡ シエルン大好きだわん♡」
「キショいぞ、マダム?」
「これから『マダム』禁止!!」
「キショい!」
「キショい言わない!!」
「ふふふ♪」
「もう、シエルン? これから一緒に学生するんだから味方して欲しいかしら?」
「わかったビビたん♪」
「えへへ〜♪」
「キショいぞ」
「キショい言うなし!」
「ビビたん、これはあれだよ。 じぶんが学生出来ないものだから妬いてるんだよ〜♪」
「そ、そ、そ、そんな事はないぞ!? ボクが天才過ぎて学生のレベルが低いから仕方あるまい!? あのボルトンだって私の足元にも及ばんのだぞ?」
「まあ、それはその通りかしら? ボルトン、こんな幼女に顧問の座を奪われそうだってビビってたもんね!?」
「ふん、こんな可憐なドワーフ捕まえて言うセリフではないな!?」
「まあ、普通の成人ドワーフならロ◯巨乳が普通ですもんね?」
「ぐぬぬ……度し難い!!」
「マキナたんはかーいーよ?」
「あ、当たり前だ! この悩殺ロ◯ボディの魅力に世間が追いついてないだけだ!!」
マキナはアハトをリリーズ魔導学園へ編入させる為に、リリーズキャッスルのマダムの執務室へと来ていた。 マダムはアハトの編入を快く引き受けてくれたが、引き換えに在学期間中マキナに特別講師を依頼した。
マキナは普通ではない。 研究するのならそれなりの設備が必要だ。 マダムもそれを解っていて、マキナの研究するものならば学園の財産になるであろうと、研究にかかる費用は学園持ちで、機材から何から全て揃えることになった。
「さて、制服のサイズは合ってるみたいだし、編入手続きも済ませてあるわ♪ マキナたんは魔導具の特別講師宜しくね?」
「ボクの授業料は高くつくぞ?」
「あなたの技術はゴレ研の人たちに聴いているわ? いくら払ったってそんじょそこらで買える技術じゃないかしら? それを考えると安いものね? それに……わかってると思うけど、私、あなたの
「うむ。 ソロモンの自衛能力は要塞レベルだ。 我々の情報を得たければ仲間にでもなることだが、キミほどの人物が我々に加担する理由が見つからんし、ここを動くわけにもいかんのではないか?」
「あたし、全て捨てる覚悟をしてるのだけど?」
「……………それは、あまりに無責任ではないのか? 言ってみればキミは、一国一城の主みたいなものではないのか? そんな無責任がまかり通るわけが無いであろう?」
「あたしの人生はあたしのものよ? 勿論後任だってちゃんと用意しているので問題ないわ。
それに、マリアたちの働きでニヴルヘルと帝国の癒着が明白になったし、先日のゴレキンで帝国がリリーズに目をつけている動きがある。
あまりここで胡座をかいている訳にも行かなくなったと言うのが心情かしら?」
「なるほど。 しかし、それと我々に取り入るのと、どう関係があるというのだ?」
「これでもあなた方が帝国と因縁があるのは知っているわ。 そしてクロの潜在意識から、すこしだけ彼の過去の記憶を覗いて観たけれど、彼、この世界の人間ではないのでしょう?」
「……確かに知りすぎておるな。 死んでおくか?」
マキナはそのあどけない顔に影を落として表情を消した。 それを察したアハトも身構える。
「あら、怖い事を言うのね?」
「ボクは彼に害をなすものは全て排除する。 全てだ!」
「あなたは戦闘スキルなんて皆無だけれど、確かにソレを出来るだけの実力がある。 それも知っているわ。 例えばソロモンにかかれば、ニヴルヘルは一日で火の海になるなるのでしょう?」
「それが解っていてどうして挑発するのだ?」
「ふふ。 言質を取っただけよ? あなたは一国を一晩で滅ぼせる戦力がある。 天才科学者デウス=プロメットの孫娘マキナ=プロメット。 クロとあなたの力が欲しい! しかし、それは叶わないのは解っている」
「では何故?」
「同じ道を歩むならば、協力関係は築けるでしょう?」
「本当に仲間になりたいと言うのだな?」
「初めからそう言っているかしら?」
マキナは手に持っていたスイッチをポケットにしまった。 それを見てアハトも構えるのをやめた。
「良かろう。 とりあえず信用しておこう。 しかしまだ完全にとはいかない。 どんな人だってそうだろう? すぐに友達になんてなれない」
「ええ。 ですからこの様な形をとったのだけど?」
「ふむ。 合点が入った、承知しよう! しかし少しでも不穏な動きが見えたら容赦なせんからな?」
「ふふふ。 あなたを敵に回すとゴーレムにされるかも知れないものね?」
「キサマ……ふふふ。 食えん奴だが気に入った! キミの話に乗るとしよう。 研究費は国家予算並みになるが構わんか?」
「それなりに見返りがあるのでしょう?」
「当然だ! ボクを誰だと思っておる!?」
「「天才(変態)マキナ=プロメットだぞ!!(でしょ!?)」」
─わはははははははは!!
「よし、明日からシエルンと一緒にプロフェッサー・マキナも世話になるぞ!?」
「ビビたん、よろしくお願いします!」
「こちらこそよろしくお願いするかしら!」
─魔道具研究棟・マキナの研究室
「ズズ……。 と言う流れでこうなった」
「ズズ……。 そうですか」
「うむ」
「で、国家予算並みの費用をかけて何を研究するのですか?」
「それをもう聴いてしまうのか? 楽しみがなくなってしまうではないか?」
「別に楽しくなんかないですからね?」
「なぬ? ボクのしようとしている研究は、研究者なら誰でも夢見るものだぞ!?」
「それとなく解ったので聴きたくありません」
「そうか、残念だのお……ズズ……」
「それから姉さん、いったい何のスイッチを持ち歩いているんです?」
「ぬ? それも聴いてしまうのか?」
「一国を一晩で滅ぼせるスイッチなんて持ち歩かないでくださいよ? ズズ……」
「むう……」
僕が姉さんの頭をポンポンとしてやると、姉さんはだらしなくニヤけきった顔になった。 しまりがない……。
……アハト? もう、仕方ないなぁ。 と、言いつつアハトの頭もポンポンした。 ああ……、しまりのないシロみたいで可愛い♡ い、いかん!!
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