第151話 祝勝会

─学生寮・キッチン〜リビング


「何だ、ノワールではなくメリアスが晩御飯の準備をしているのか?」


「マキナたん♪ はぃ☘ ノワールたんに頼まれたでつ✿ でもツパイツの調合はノワールたんにお願ぃちたぃでつね❀」



 そう言ってメリアスは黙々と晩御飯の準備を勧めて行く。



「そうか……居ないのか。 ボクは少し街に出る。 二時間ほどで戻るから、カレーは残しておいてくれるか?」


「わかりまちた!!」


「あれ? マキナさん出かけるんですか?」


「おう、マリオン。 少し行く所があってな」


「ぼくもついて行って良いですか?」


「それはならん。 知り合いと会うのだ」


「え? そうなんですか? アハトさんもお知り合いなので?」



 マキナの後ろにはアハトが立っていて、一緒に出て行く感じだ。



「いや、これから会わせに行くのだ」


「会わせる?」


「うむ。 時間なので行くぞ? マリオン、大会のデータをまとめておけ? 後でチェックするからな?」


「今やってますよ。 行ってらっしゃい!」


「うむ、行くぞアハト!」


「はい♪」



─ガララララッ!! バシャッ!!



「相変わらず建て付け悪いようですわねぇ?」


「チェリたんのホテルと比べられたら悪いですよぉ」


「ピコたんのホテルだって変わらないでしょう?」


「あのぉ……」


「どうしたの、ノラたん?」


「私たち、ここに居ても宜しいのでしょうか?」


「それはノワールが寄ってけって言うのだから? 仕方なく? 来たのではなくって!?」


「まあ、ボクは来たくて来たけどね?」


「私もそうですね?」


「ぬ……あ、あたくしもですわ!!」


「そんな事言ったら、オレたちサークルメンバーなんて、祝勝会でメインゲストな筈なのに、どうしてか、めちゃくちゃ緊張してんだが!?」


「そうですよぉ。 そもそもカレーって食堂のやつ?」


「ノン!! アレをカレーだと思われては困る!! しかし、君たちは運が良かったな!?

 今日、君たちは覚醒するだろう! そして限界突破とはどう言った意味を持ち合わせて居るのかを知る事となるだろう!!」


「……この人は?」


「ココさんお久しぶりです」


「……ふむ、誰だ?」


「やだなあ。 ピコですよ? 以前、精霊召喚の相談に乗っていただいたでしょう?」


「知らんじょ!!」


「では、覚えておいてください。 ボクはピコ=クエタです。 宜しくお願いします」


「うむ、殊勝な心がけだじょ!! して、召喚は上手くいったのか?」


「いえ、それがまだ……でも、以前よりは手応えを感じます! 精霊門の向こうに精霊の気配を感じる気がします!」


「ならば、次は精霊門へ君の魔力を注いでやると良い。 君の魔力を気に入れば、或いは開けてくれるやも知れんじょ?」


「師匠! 明日試してみます!! ありがとうございます!!」


「し、し、師匠とか知らん!! ぼきゅは弟子はとらんのだじょ!」



 ココはテレテレしながらピコの横に腰掛けた。 ピコの顔を見ながらまるで尻尾でも振っているかの様に見える。 まあ、耳は上下にぴこぴこ動いているが。



「やあ、皆さんお揃いで? 今日は何かまたイベントですか? 大勢いらっしゃる」


「悪いねマグヌス、今日はゴレ研の祝勝会なんだ。 これから皆でカレー祭だよ♪」


「おお、マリオン。 ロゼリアは結局出場したのか!?」


「マグヌス! 彼の、いや、マロカも含めて彼らのゴーレムは凄いよ!! 大活躍だった、と言うか、圧倒してたよ!!」


「そうなのか? それはおめでとう!!」


「ありがと。 そんなマグヌスは何をしていたんだ?」


「ん? 俺はいつも通り、リルたんの追っかけをだな……聴いてくれるか?」


「あまり長くならないなら??」


「それがさあ、今度リルたんのデビューライブの日時がようやく決定したんだ!! まだ前売り券は売ってないけど、絶対に手に入れてやる!!」


「お前の推しの娘だっけ?」


「ああ、結局最終選考で受かった五人のグループアイドル『プチ・ローグ』のリルたん♡

 初ライブの人気投票でセンターが決まるんだ!! 今日はその事前投票で二番だったもんだから後で作戦会議だ!!」


「でも、推しのリルちゃん? アイドルになれて良かったね?」


「ああ!! 当然の結果、成る可くして成ったとは言え、この慶びは隠しようもない!! 一週間は打ち震えたもんさ!!」


「どうしようもなくヲタクだな?」


「何とでも言うが良い!! しかし、何としてもリルたんにはセンターになって欲しい!! グループアイドル初のセンター!! きっとモモキッスの様に伝説になるだろう!!」


「モモキッスは伝説なの?」


「マリオン貴様!! モモキッスを愚弄するなら俺が許さんぞ!?」


「そう言えばお前、前はずっと冥王追いかけてたろ? もう辞めたのか?」


「冥王、メイガスはどうしても足取りが掴めんのだ! ムジカレーベルのサーバーに潜り込めても、彼らの詳細に辿り着けた者はいないんだ!!」


「お前、犯罪だぞそれ? そのうち捕まっても知らねえぞ?」


「今は専ら『プチ・ローグ』を追いかけてるから大丈夫だ!! まだムジカレーベルにも大した情報は入ってねーだろうしな。 おそらくは俺の方が彼女の事を知っていると言っても過言ではない!!」


「ストーカー見てぇな事してんじゃねぇだろうな?」


「してねぇよ? ネットに転がってる情報収集して解析しているだけだ。 彼女の住んでる場所を知っていたって、変な真似はしねぇよ!?」


「まぢか、何か危なっかしいな、お前?」


「あのお……」


「ん? 誰?」



 ノラが気恥ずかしそうに手を挙げてマグヌスへと話しかけた。



「私、ノワールさんの友だちでノラと申しますが」


「失礼だけど、この学園で獣人族とは珍しいね?」


「はい。 ……あの、少しお尋ねしても宜しいでしょうか?」


「ん、どうぞ?」


「決勝まで行ったリオって娘はご存知でしょうか」


「おお、あのホワイトライオン種の娘だね!?」


「はい、彼女は落選したと聴きましたが、本当ですか? 彼女、ニタニタ笑いながら、ただ落ちたとしか言ってくれなくって……」


「ああ、落選した」


「やはりそう……なんですね?」


「落選したけど、風の噂では別のユニットグループ結成がまことしやかにささやかれている」


「別の!?」


「そうだ。 あくまで噂だが、俺は実際に存在していると読んでいる」


「それは、何か情報が!?」


「あまり詳しくは教える事は出来ないが、今回本選に五人の獣人族が選ばれていたんだ。 しかも各地で相当な人気があったらしい五人で、いずれも当選確実の噂が広まっていた」


「獣人族?」


「そうだ。 どの娘も戦闘スキルをオーディションで披露したらしいが、なかなかの強さらしい」


「戦闘スキルがアイドルと関係があるんですか?」


「いや、運営がまだ何も明らかにしていないので、ハッキリとした事は言えないが、獣人族だけでダンジョン攻略パーティを結成していると考えている」


「へ?」


「これはオフレコだが、彼女たち周辺の声を集めたところ、落選したアイドルは皆落胆しているのに、彼女たちはまるで受かった者と同様の、清々しい顔で面接会場を出て行ったらしい」


「あ、リオちゃんとおんなじです!!」


「そうだろう。 そして、密かに特訓してないか?」


「はい! なんかあの後から毎朝毎晩仕事の前と後、店を出て何処かへ行ってしまって、帰ってきたら汗だくで凄い勢いでご飯を食べてます!」


「これでほぼ確定だな。 ムジカレーベルはもう一組ユニットグループを企画しているに違いない!」



─ガララララララ!!ババン!



「ただいま〜♪」


「メリアスさんごめんね〜!! 遅くなっちゃった!!」


「ぁ〜ぃ♪ ほとんど用意出来てまつ✿ ツパイツの調合だけぉ願いちまつね!!」


「ありがと〜! すぐに仕上げるよ!! あ!? 皆さんも待たせちゃってごめんね!! すぐ作るから待ってて!?」


「「「「「「「「「「「はーい」」」」」」」」」」」


「め、メリアスさん!? ご、ご、ご飯は足りそう!?」


「下準備したカレーの寸胴は三つ、ご飯は魔導保温器に三回移してますが、足りませんか?」


「さっすがメリアスさんだ!! 助かるよ!! すぐに仕上げるから、メリアスさんも休んでてください!!」


「ぃえ☘私は調合の勉強をたせていただきまつ❀」


「そうですか、まあレシピ通りなんだけど、潰し具合と鍋に入れるタイミングを教えるね?」


「ぉ願ぃちまつ✿」



─ドタバタドタバタバン!



「出来たか!?」


「寮長!? 今仕上げるのでリビングで待っててください! あ、ちゃんと服着てくださいね!?」


「わかった!!」



 僕はキッチンでカレーの仕上げを行い、ロゼは皆の待つリビングへ飛び込んで行った。



「カレ〜まつりだよ〜♪」


─わははははははは!


「ロゼッタちゃん頑張ったもんな!!」


「うん、頑張った! マロカはもっと頑張った!!」


「うんうん、そうだ! 頑張った!!」


「マロカとロゼちゃんがいなかったらCapture The FlagCTFも出場出来なかったし、まして優勝なんて!!」


「ロゼたん、元気そうで良かったです♪」


「ノラたん♡ ありがと♪ ごほーびにお耳さわってもい〜い?」


「ほぇ!?」


「ん〜、だめ?」


「耳を触るんですか? か、か、構いませんけど……なんかこそば恥ずかしいので少しだけですよ?」


「わ〜い♪」



 ロゼがノラの耳をモフる。 モフモフ、モフモフ、モフモフ、モフモフ……。



「も、も、も、もうお仕舞い!! はっ、恥ずかしくって!ごめんなさい!!」


「にへへ〜♪」


「そ、そ、そんなに気持ちよろしいのかしら!?」


「ちぇ、チェリたんっ!?」



 エカチェリーナがノラの耳をジッと見る。 ジッと、ジッと、ジ───────ッと。



「す、少しだけですからねっ!?」


「やっふ〜い♪」


「もうっ!」


「こ……これは……」


「ふぇ? よ、汚れてませんよね!?」


「ご、極上ですわ〜♪」


「ひぃっ!?」


「でしょ〜?」


「ええ、ええ。 どうして今まで気付かなかったのかしら?」


「気付かなくって良いですっ!! ほらっ!もうお仕舞いですからねっ!!」


「ボクも触ってみても良いですか?」


「ピコたんっ!?」


「あら、殿方は駄目ですわよ!? セクハラです!!」


「そんな〜っ!?」



 ノラは考えた。 どうせならノワールに触ってもらいたい。 しかし殿方が触れないとなると、それも叶わない。 つまり。



「す、少しだけ……ですよっ!?」


「へ? ダメ元だったけど良いの!?」


「少しだけ!」


「では、お言葉に甘えて……」



─サワっ…



「ひんっ……」


「ちょっと、ピコたんの手つきがやらしい〜」


「やらし〜♪」


「え? そんなことないでしょ? ほら……」



─サワサワ……



「ひいぃ……も、もう駄目です!!」


「ほらアウト!」


「せくはらだ〜」


「そんな〜? でも、本当に気持ち良いもんだね?」


「そんな変な褒め言葉知りませんっ!!」


「んっ!?」



 リビングにカレーの香りが広がる! 一気に!!



─きた──────っ!!


「はい、皆さんお待たせ〜!!」


「は〜ぃ❀お待たてでつ〜☘」


─うおおおおおおおお!?


「今日は特別にトロトロに煮込んだ肉の塊を乗せてみましたよ〜」


「すっげ!!」


「何と言う破壊力!!」


「うんまっ!!」


「寮長!? 早いです!! 祝勝会なんですから!!」


「もぐもぐ……ごきゅん。 そうなのか!?」


「もう! まあ、皆さんお待たせしたので早速、ゴレ研部長のフランクさんに挨拶だけしてもらいましょう!」


「お、おう。 ……今日は皆、お疲れ様でした!! マリオン、そしてロゼさんの参戦のおかげもあって、俺たちリリーズ魔導学園のゴレ研はキンゴレで完全優勝出来ました!! ひとえにこの二人の功績です!!

 そして、今ここには居ませんが、ノワール君のお知り合いのマキナさんには陰ながらサポートしていただき、我々ゴレ研の新しい礎を作っていただきました! 本当に感謝の言葉しかありません!!」


「部長、長いッス!」


─わはははははははは!!


「仕方ねえな!! ほんじゃまあ! みんな、お疲れ様!!」


─お疲れ様!!


「ホントだ! これ旨っ!」


「うめ〜〜〜〜〜〜!!」


「いや、これ食堂のとは別物でしょ!?」


「だから言ったではないか!?」


「これは確かに旨さの上限を限界突破している!!」


「以前のステーキの時より、こっちのお肉の方が、ルーとの馴染みがよくて美味しく感じるなあ」


「いや、俺はステーキの方が肉感があって良かった!!」


「オレはどっちでも良いがノワール!! おかわりくれ!!」


「寮長、早すぎやしませんか!?」


「バカ! 無くなったらどうすんだ!?」


「いや、山ほど作ってますからね!?」


「よし、言ったな? 皆! 無くなるまで食うぞ!!」


─うおおおおおおおお!! 


 何この連帯感!?こっわ!!


 ……もう少し作らないとヤバい!?


「ノワールさん?」


「へ?」


「ノワールさんも触ります?」


「ふぁっ!?」


「あっ、いやっ、そんなやらしい意味じゃなくて、皆さん私の耳を……いや、何でもないです!! 忘れてください!!」


「耳?」


「にぃに、ノラたんの耳がね?モフモフできもちい〜の♡」


「そうなのよ! もう一度触らせてもらっても良いかしら?」


「へ? あ、はい。 どうぞ?」


「ふぁあぁ……良いっ!!」


「そんなにっ!?」


「はい、どうぞ?」


「それでは失礼して……」



 モフモフモフモフ……



「これは……極上ですね!?」


「でしょっ!?」 



 モフモフモフモフ……



「はうぅ……」


「あっ!? す、すみません!! 調子に乗って触り過ぎてしまいました!!」


「ノワたんやらし〜!」


「にぃにのすけべ〜!」


「えっち〜!」


「変態〜!」


「何でこうなるっ!?」


─わはははははははは!!



 この寮、とても居心地が良いよな?


 入寮の前は酷い感じで言われてたけど、全然そんな事は無い。 とても温かで、落ち着ける良いところだよ。

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