第七章 魔導学園3
第148話 呼んでる
─ギンヌンガガプの深淵・マシュー牧場
『やあ、シロ大丈夫かい?』
『ウラノス〜!』
シロはウラノスに駆け寄ってしがみついた。
『おや、ずいぶんと落ち込んでたみたいだね……』
『ウラノス……』
シロはウラノスにしがみついたまま頬擦りしている。
『ウラノス、今日も一緒に行けるかな?』
『うん、大丈夫! 二人と一緒なら何処までだって飛べるよ!!』
「ほれ、二人乗り用のサドルじゃ」
「マシューさん!! あ!り!が!と!う!ご!ざ!い!ま!す!」
「そんな大きな声を出さんでも聴こえとるわい」
「へ?」
「ノワールさん、先日マキナさんにマシューGの補聴器の調整お願いしたら、新しいの作ってくれたのよ! そしたら普通に聴こえるって大喜びしてたところなのよ?」
「モデナさん、いつの間に……まあマシューさん、良かったですね!?」
「ああ、これで風読みも出来そうじゃ」
「何です?」
「風読みと言うのはじゃな、風に乗ってくる魔素から近くで起こっている事の事象を知ることが出来るスキルじゃ」
「マシューGの風読みはギンヌンガガプで起こっている出来事なら大抵の事は解るのよ」
「それは凄いですね!」
「ほれ、取り付けたぞ! 行って来い!!」
マシューさんがウラノスに取り付けたサドルをポンポンと叩いて言う。
シロがすぐさまよじ登って行く。 うんしょ、うんしょって言いながら。 ずっと見ていたい。
「大丈夫だと思うけど、気を付けて行きなさい。 最近ワイバーンの気性が荒いのよ」
「今日は特に機嫌が悪そうじゃな?」
「わかりました。 気をつけます」
シロが来ている所為だろうか、まあ、別の要因の方が怖いのだが。
ウラノスと一緒ならきっと大丈夫だろう。
僕もウラノスの背に乗ると、タンデムベルトでシロと自分とを繋ぐ。
『ウラノス、今日はワイバーンの機嫌が悪いらしいぞ?』
『うん、そうみたいだね……でも、二人を傷つけさせたりはしないよ!』
『ウラノス?』
『ん、何だいシロ?』
『わたしたちは傷ついてもだいじょうぶだから、ワイバーンさんには何もしないであげて?』
『シロは優しいね。 わかった!』
『シロ、でも危険だと分かったら、僕は君を守るからね? その為なら……』
『私はいいからワイバーンを傷つけないで!?』
『……わかった。 約束する。 シロも気をつけてな』
『うん』
『じゃあ二人共、しっかりと掴まって!! 行くよ!!』
─ダッ!
─バサッ!!
ウラノスはギンヌンガガプの深淵に飛び込むように羽を広げると、下から吹き上げる上昇気流に身を任せた。
高く。
高く舞い上がる。
すぐに地表は遠ざかり、僕たちは風を撫でるように滑空する。
『やっぱり君たち二人を乗せると軽い!!』
『そうか、僕も気持ちが軽くなるようだ!』
『わあああああああ♪ すっご─────い!!』
『おい、ウラノス!? あんまり調子に乗るなよ!?』
『大丈夫! 僕たちは今、この空の王だ!!』
『おいおい、でっかく出たな?』
『まあ、生物上の話だけどね?』
『生物上?』
『うん。 この空には人が作った
『ドラゴン・ネットワークってやつか? 世界中から情報が入ってくるんだよな?』
『うん。 この世界はもう神ではなく人が支配していると言ってもおかしくないらしいよ』
『せっかく気晴らしに来たのにまた人間の闇か……シロ、大丈夫か?』
『うん。 クロやフェル、ウラノスといっしょだととてもあたたかいの』
『そうか』
『ん!』
『じゃあ、ここに来て正解だった─』
『─呼んでる』
『ん?』
『呼んでるの』
『何が?』
『ウラノス?』
『うん、行こう!』
『え?』
呼んでるって何だ?
ウラノスは僕たちの魔力に物を言わせて、魔素吹き上げる深淵を急降下し始めた。
『深淵を覗いてみて見たくはないかい!?』
『見たい見た──い♪』
おいおい、急に何を言い出すんだ? 深淵だぞ!? そんなもん覗くもんじゃねーだろ?
『深淵に何があるんだ?』
『クロ? こわい?』
『何だオメェ、ビビってんのか!?』
『ボクが保証するよ。 危険はない』
『別に怖いわけじゃ……』
『なら、行ってもい〜い?』
……しかしまあ、シロは楽しそうだが……少し様子見るか? 危なかったら直ぐに引き返すけどな!?
『モデナさんが心配するから、あまり長くは駄目だぞ?』
『わかった!!』
『じゃあ、一気に行くよ!!』
ウラノスが調子に乗ってぐんぐんと深淵を潜ってゆく。
潜るにつれて魔素が濃くなってくる。
暗い深淵を進むウラノス。 シロは何故か目がキラキラとし始めている。
僕はといえば不安で仕方ない。 危険な匂いしかしないだろう? 魔素が濃いと言う事は、それ相応の魔物だって居ても不思議ではない。
ほぼ視界が無くなってもシロははしゃいでいる様子だ。 ウラノスはドラゴン・アイがあるから大丈夫だと言うし、不吉な前兆もある程度察知出来るのだと言うが……。
いや、何も視えないのに何が面白いんだ?
『なあ、ウラノス?』
『なんだい?』
『ここにはよく来るの?』
『初めてだよ?』
『え……大丈夫なの?』
『うん、たぶん?』
『クロ、わたしがいるからだいじょぶ!!』
『そうか、頼もしいなシロは』
『えへへ〜♪』
『フェルはどうなんだ? 何とも無い感じ?』
『まあ、ヤベえヤツも居るみたいだが、ウラノスは存外すげえな。 全て牽制してるみたいだ。 まあ? オレサマが居るからかもな?』
『ふ…、そうか』
『てめ! 今軽くバカにしただろ!?』
『僕が心配性なだけならそれでいいんだ』
『無視か!?』
『クロ?』
『ん?』
『ほら、見えて来た』
『え? 何が?』
『あそこだよ。 虹色のとこ』
『─!? あそこは何なの!?』
『う〜ん、わかんない?』
『クロ、オレサマが視る限りあれは魔素溜まりだな』
『魔素溜まり?』
『ああ、魔素が集まって濃縮されて淀んた場所さ』
『ウラノス?』
『行こう!』
『え!? ちょっ!!』
『きっと何かある!』
『そりゃあるかも知れんが……うわあああああ!!』
『あはははははは!!』
何故かシロはご機嫌だ。 ウラノスも躊躇すらしないし、フェルも警戒していない。 あそこに一体何があると言うのだろう?
虹色の光源に近付くと、魔素溜まりとか言う油が水に浮いた油膜の様な何かが壁一面に広がっている。
『これは何?』
『いや、こっちが聴きたいよ!?』
『フェル、どう思う?』
『ん? 入ればわかんじゃね?』
『入れるの?』
『シロ、入れそうだよ? ほら!!』
ウラノスが首を突っ込む。 こいつらどんな度胸してんだ!?
『あ!!』
『どうしたウラノス!?』
『中は何処かに続いてる光のトンネルみたいになってるよ?』
『光のトンネル!?』
僕たちはウラノスの身体ごとゆっくりと虹色の光源へと入ってゆく。
中はウラノスの言う通り、虹色の光が続いている。
何故か既視感のある景色だ。 いったい……あ、そうか。 ビフレストだ!!
まさかこの先は……アスガルドとか言わないよな!?
ウラノスの背に揺られながら光のトンネルを進む。
『──!──!?──⁉』
まただ。
声にならない声。
『ウラノス、フェル、これは何の声か解るか?』
『何いってんだクロ? 妖精に決まってんだろ?』
『妖精!?』
『へえ、これは妖精さんの声なんだ? ボクは初めて聴くよ』
『やっと来てくれたって言ってるよ?』
『え? シロは解るのか?』
『え? だってよばれてきたんだよ』
『え?』
『え?』
『だから真っすぐここに向かって来たってこと?』
『クロ、オメェは本当に成長しねぇな? 霊魂可視化スキルは目だけじゃねえんだよ』
『……へ?』
『もっと耳や鼻にも集中してみろよ。 もっと視える筈だ。 そもそも視える事を見る事と一緒に考えてるだけで、お前はアホだ』
『フェル! クロはアホじゃないから!!』
『そらならもっと成長しろよ!?』
『……面目ない』
僕はスキルを使って感覚を研ぎ澄ました。
『─クロダ─キタノ!?─キタミタイ!?』
『……聴こえる。 でも、どうして僕の名前を知ってるんだろう?』
『クロ? 知ってるんじゃないよ、彼らはキミの存在を識ってるし、彼らがキミを呼べば、キミはそう聴こえるだけだよ』
『ウラノスの方がよっぽど解ってんじゃなぇか?』
『うっせ!』
『フェル! クロはバカじゃないからね!?』
『シロ? バカみたいに聴こえるからそっとしておいて?』
『ふぇ?』
『ヨクキタネ!』
『ヨクキタ!』
『アンナイスル!』
『ツイテコイ!』
『コイ!』
『偉そうだな? 妖精のくせに!?』
『フェル! ようせいさんはバカじゃないからね!?』
『ヤメテ』
『シロ、ヤメテ』
『ヤメロ、オレタチガバカミタイニキコエルダロ?』
『ふぇ?』
そうして、僕たちは妖精たちの案内で光のトンネルを進んで行った。
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クロ&シロ&ウラノス挿絵
https://kakuyomu.jp/users/dark-unknown/news/16818093074768747939
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