第147話 キング・オブ・ゴーレム 最終話

─帝国軍魔導予備校・待機室


─ガンッ!


「くっそ!! あの人形使い! 腹が立つ!!」


「あ~ら、ご機嫌斜めねぇ?」


「俺のレッドバトラーで、一つも傷をつけられねえなんて!!」


「どんなイカサマ使ってんだかねえ?」


「ところでフリッツ先生はどこだ?」


「何でも早くあのゴーレムを解析にかけたいからと、先に予備校の研究室にお戻りになられたみたいですよ?」


「ったく、自分勝手な顧問だぜ。 そう言えば帝都教会の奴らも顧問を探していたな?」


「なんでも、どこを探しても居ないとかで騒いでましたね?」


「まあ、どうでも良いんじゃないかしら? そんなこと」


「お前、アイツに勝てるんだろうな?」


「はん、アンタと一緒にして欲しくないわね!?」


「んだと、このやろーっ!!」


「ほら、すぐに暴力で何とかしようとするから負けるのよ?」



─ガン!!


 クラークがテーブルの脚を蹴飛ばした!!


「……ほら、そう言う直情的な動きが読まれたのよ!?」


「クラーク部長、おれもそう思います」


「ジョン、お前まで何を言いやがる? お前ら俺に一度だって勝てたことねえだろう!?」


「それはアンタを怒らせると、こうして面倒くさい事になるからじゃないか!」


「じゃあ、今まで皆でわざと俺に負けてたって言うのかっ!?」


「当たり前じゃないか。 おれだってゴーレムより自分が大事だからね?」


「スミス、てめぇまで!?」


「ほら、三対一であんたの負け。 大人しくしてなさい? 別に部長やめろって言ってんじゃないんだから?」



─ガンガンガン!!


 クラークは烈しくテーブルの脚を蹴った。



─『決勝戦』


帝国軍魔導予備校

    ✕

リリーズ魔導学園


 帝国軍魔導予備校からはAブロックを勝ち抜いて来たアデル&ブラッディクイーン、リリーズ魔導学園からはBブロックを勝ち抜いて来たマリオン&ロザリアが戦う。


 ブラッディクイーンは首を直して補強してきたみたいで、首周りの装備をガッチリして来ている。 よほど警戒しているのだろう。 その上にローブを羽織っているが、今回の武器は鞭みたいだ。


 ロザリアは今回もマロカの弓を持たせている。


[決勝戦・試合開始!!]


 試合開始のアナウンスが流れる。


─ワアアアアアアアア!!


 同時に声援が観覧席から聞こえて来る。 決勝と言うだけあって凄い盛り上がりだ。 帝国の連覇阻止が見えて来た為に、リリーズ魔導学園に応援が集まる。


─ready!! キュイーン…


 ゴーレム・ボックスの継ぎ目に光の筋が走り、四方向に開放されていく。


─fight!! シュウウゥゥ…


 ブラッディクイーンは魔法陣を足元に展開して身体強化、ローブの魔法石に魔力を通して魔防物防結界を展開した。 次いで鞭と思しき武器に手をかけて構えた。


 ロザリアは指輪に魔力を通して、目を光らせる。 しかし、弓を構える様子はない。


 どちらも出方を見ているのか、時間だけが過ぎる。


─ジャラララ…


 先に動いたのはブラッディクイーンだ。 鞭の先が地面に広がり金属質の音を鳴らす。



「来ないならこちらから行くわよっ!!」



─ジャッ!!


─ガキッ!!


 ロザリアの首が飛んだ。



「あら無抵抗ね? 故障かしら?」


[……ハンデだ。 では、行くぞ?]


「なっ!? アンタもあの女と同じ、いけ好かないわねっ!」



─ジャララッ!!ガガガッ!!


 ブラッディクイーンが攻撃した先には既にロザリアの姿はない。


 一歩引いた所で弓を構えている。



「はん! 頭部も無い状態で捕捉出来ないのに、出鱈目に撃つ気かしら!?」


[捕捉なら既にしてるさ]



─ドン!


 ロザリアの放った矢が、ブラッディクイーンの左腕を落とした。



「何でっ!? ま、まぐれ?」


[もう一度試してみるか?]


「うるさい!!」



 ブラッディクイーンが鞭に魔力を流して振り上げた。 鞭のラインに沿って赤い光を帯びる。



「ブラッディローズウィップ!!」



 ブラッディクイーンの放った鞭は赤い光をプラズマの様に放ちながらロザリアに迫る。


─ドン!


 ロザリアに届く寸前でブラッディクイーンの右腕が鞭ごと足元に落ちた。 落ちた箇所に赤い薔薇のような魔法陣が展開される。



「そう来ると思ったわよ!! けど甘いわね!!」



─ッゴオオオオオオン!!


 ロザリアのいた場所が大きな轟音と赤い薔薇のような炎と共に地面が爆ぜた!


─ドドン! ドサッ!


 ブラッディクイーンの身体が地面に落ちる。 ブラッディクイーンはもはや身体と首だけしか無い。



「えっ!? どう言う事!? 本当に捕捉出来ているってこと!?」



 爆炎の中から無傷の首の無い少女が姿を現す。



[で、頭部が無いから何だって?]


「キ───────ッ!!」


「……はあ、降参しないのか?」


「するもんですか!!」



 アデルのマギアグラムが光る!


 ブラッディクイーンが内側から赤く発光し始める。



[おいマリオン、気をつけろよ!? 何かしでかす気だ!!]


「ああ。 わかってる」


[ローゼントイフェル!!]



 ブラッディクイーンの目が光り身体の内側からメリメリと膨れ上がり赤い肌が露呈する。



[おいおいおいおい、またか!?]


[いや、アレは精霊石のような良いものではないな……おそらく悪魔石……]


「知らん!」



 ロザリアがマロカの弓をつがえて弓に魔力を流す。 


 その間にもブラッディクイーンはブクブクと膨れ上がり、手や足の様なモノが生え四つん這いになっている。



「ハイパーマロカビ──ム!!」



─バリリリリリリリ!!


 ブラッディクイーンの身体が爆ぜて四散する。


 しかし、散らばった肉塊がモゾモゾと動き出し、転がっている魔石に集まり始めた。



「ホーホホホホ!! そんな攻撃でやられるブラッディクイーンでは──」



─バキキ!!



 「───っ!?」



─ピ──ッ!!


 試合終了のホイッスルだ! 審判員はリリーズ魔導学園のフラッグを上げている!


 ステージに目を遣ると、転がっていた悪魔石を踏みつけて割ったロザリアが立っていた。



「何なのあいつ!? あいつあいつあいつっ!!」


[ふん、悪魔と言っても所詮石に依存したものだろ? 割ったら終いだ]


「ムキ──────ッ!!」



 審判員と選手が審査と回収ステージに入る。 審査員が悪魔石の欠片を回収して鑑定にかける。 赤札だ。



「すでにリリーズ魔導学園の勝利は確定しているが、帝国軍魔導予備校の反則行為により、来年のキンゴレ出場権を剥奪する!!」


「……はい」


「今大会の二位三位の権利も無いものと思え!」


「……はい」


「お前らもう来んな!」



 マリオンがぶっきらぼうにアデルへ言う。



「何であんたにそんな事を言われなきゃなんないのよ!?」


「じゃあ、マロカを返せよ?」


「もうここには無いわ?」


「ほら、確信犯じゃねえか」


「何か証拠でもあるの?」


「ふん、まあ良いさ。 勝手にしろ」


「ははん、負け惜しみね」


「負けた奴がよく言う」


「くっ……」


「まあ、もう二度と会うこともない」


「そうね、この先ニヴルヘル冥国やドヴェルグ王国もどうなるか分かんないもんね?」


「お前……?」


「ふん、じゃあね?」


「……」



[勝者、リリーズ魔導学園!!]


─ワアアアアアアアアア!!



 二位三位決定戦が行われている間、マリオンは選手待機室でロザリアの首を復旧させた。



「ロザリア……ごめん。 あいつらの全力を完膚なきまでに叩きのめしたかったんだ。 協力してくれてありがとうな……そして、やっぱりごめん!! 君を不本意にもこんな目に合わせてしまったよ……ごめん……」


 ロザリアは何も言わずに微笑んでいる。


 サークルのメンバーはそれを見て、優勝を素直には喜ぶ事が出来なかった。 今になってマリオンが大会に出たくなかった気持ちが、ひしひしと伝わって来たからだ。


 サークルのメンバーも皆同じ気持ちだった。 ゴーレムが好きで好きで仕方ないから、ひとつの目標を目指してきた。 

 しかし、そこには得体のしれない闇があったのだ。 もちろん戦うことの喜びもあったが、直面したその現実に圧倒されていたのだ。


 それぞれ無言で肩を叩き合って、健闘を称え合った。



─表彰式


 会場の正面に設けられた壇上に大会委員長のアルマンド・クラウンが表彰式を行う。


 表彰台には一位にリリーズ魔導学園・マリオン、二位はドヴェルグ王国魔導学園ドレン、三位はバベル建塔師魔導専門学校ハンスが立っている。


「表彰式をするにあたって、諸君に言いたい事がある。

 360回にも及ぶこのキング・オブ・ゴーレムの歴史に泥を塗った学校が二校も出た!!

 しかも、大会現地となる帝国の学校の二校だ!!

 ルールも守れん学校なぞ、二度と出なくても良い!! この大会は戦場でも実験場でもない! 各校の努力の結晶をぶつけ合って切磋琢磨し、お互いに研鑽し合う場だ!!

 枠を超えた強さ、それは強さとはい 言わん!! 卑怯者だ! ルールを破らなければ勝てないのならば出なくても良いのだ!!

 よって、今大会の優勝者はリリーズ魔導学園のマリオン&ロザリアであることは周知の上だ! 二位はドヴェルグ国立魔導学園ドレン、三位はバベル建塔師魔導専門学校ハンスとする!!」


─ワアアアアアアアア!!



 かくしてゴーレム王決定戦キング・オブ・ゴーレムは幕を閉じた。


 帝都教会魔導学院と帝国軍魔導予備校は無期出場停止処分となった。 他の各校の生徒同士は情報交換など談話の時間が設けられ、次の大会への意気込みを見せていた。




 リリーズ魔導学園一行は、近くに待機させておいた小型飛竜艇ヴィーヴル二艇でニーズヘッグ級飛竜艦ドラグーンソロモンへと帰艦する。


 ソロモンに着くと、サークルメンバーと顧問、応援に来てくれた生徒は談話室へと案内された。


 ロゼはピアスを通してこれから会いに行くウラノスと会話をしている。 


 そして、ノワールとマリオンは研究室でマキナの情報を待っている。



「何か、優勝したのに嫌な気分ですね……」


「ああ……以前の帝国との親善試合の後もこんなだったよ……」


「そうですか……。 マキナ姉さん、マロカはどうなりましたか!?」


「うむ、既に動き出しておる。 こちらの思惑通りだ、心配するな」


 マキナがどす黒い笑みを浮かべている。



─帝国軍魔導予備校・研究室



「リヴァース!」



─ザババッ!ゴトン…



「なにっ!? 水? …と魔晶石……か? いったい……ゴーレムは何処へ行った!?」



 帝国軍魔導予備校の顧問・フリッツはブラッディクイーンの使っていた杖の陰魔法で、影に閉じ込めていたマロカを取り出そうとしたのだ。 そうしたらどういう事なのか、水と魔晶石が出て来た。



「これは……ふむ、ただの水? そしてこの……んっ!?」



 魔晶石を拾おうとしたフリッツの指先がピリッとした。



「ふむ……電気? とりあえず解析してみるか……」



 フリッツは開催装置に魔晶石を置いて精密解析を始める。



「………………」



 解析にかけるとひとつのファイルが見つかり、それを恐る恐る解凍してみると……。



「マッキーナの秘蔵コレクション?」



 開けてみると大量の画像が入っていた。 すべてマッキーナと呼ばれる少女?の画像だ。



「何だこれはっ!?」



 フリッツは理由わけが解らず混乱する。 しかし、何度解析にかけようとも、同じ結果しか得られないでいた。



「クソがっ!! リリーズ魔導学園め!! うっ……──っ!?」



 フリッツはうめき声の後、一瞬にして表情が消えて……目を閉じた。


─バキ!


 やがて、再び目を開けると何も言わずに魔晶石を割った。


 そして無表情のまま、パソコンに向かった。



─ソロモン・ブリッジ



「……よし、始まったぞ。 コレを見ろ」


「これは……帝国軍魔導予備校の研究資料データ?」


「どうしてこんな事が!?」


「ふふふ。 潜入スパイ・マロカ探偵のおかげだ!」


「マロカ!?」


「うむ。 マロカに着せてあったスク水とバスタオルの素材に水の元素を記憶させたメタルスライムを使用した。 そのメタルスライムにプログラムを施した魔晶石によってマロカ本体を取り込み、全てを粒子から組み替えて水に変えるように設定しておいた」


「それだけではこんな事にはならないでしょう?」


「うむ。 魔晶石には別にナノマギア・パラサイトシステムを潜ませておいた。 初めに魔晶石に触れた有機質のモノを宿主と認識するようにプログラムしておる。 つまり、一番始めに魔晶石に触れた者に寄生するように設計されておるのだ。 そしてその人物こそ、大会中に居なくなったフリッツであろう」


「つまり、マロカを持ち帰った帝国軍魔導予備校の顧問・フリッツがマロカを取り出すと水と魔晶石が出て来て、魔晶石を拾う。 するとそこに仕込まれていたナノマギアによって寄生されて体を乗っ取られた。 そしてプログラムに従って研究資料を垂れ流したと??」


「ふふん、マリオン、まだまだであるな?」


「まさか!?」


「うむ、フリッツの脳に干渉して自在に操れるのだ!! 操作しない時はAIが作動して普段のフリッツを装う様に設定しておいた!」


「怖っ!?」


「そうだ、ボクを敵に回すと怖いぞ?」


「知ってましたが、想像を遥かに超えて来ましたよ!!」


「これからはマロカの代わりにフリッツがゴーレムとなる!!」


「怖すぎます!!」


「ぬわははははははは!!」



 マロカは笑って見せたが、その目は窓の外に見える赤い月を見ていた。

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