第146話 キング・オブ・ゴーレム13

─ギガロポリス魔導国際ドームの片隅


 帝国軍魔導予備校のフリッツと帝都教会魔導学院のヨハンが、盗聴防止&防音の指輪を嵌めて密会をしていた。



「こちらの技術も提供したんだ。 ちゃんと情報は寄越してくれるんだろうな?」


「独り占めにしたりはしないさ、ヨハン? 俺が独り占めして何の得がある?」


「そりゃあるだろう? 何せ帝国軍と帝都教会には確執があるからな? 同じ帝国でも相容れない関係だろ? お前が俺を出し抜いたってんなら、褒めてくれる上司もいるだろう?」


「まあ、解っているなら話は早いな?」


「何っ!? うっ……」


 

 ヨハンが苦しそうに顔を歪める。 指輪に魔力を込めて、何かしらの抵抗をしようと試みるが、手首ごとぼとりと斬って落とされた。



「ただの窒息魔法だ。 じきに意識が遠退いて苦しみも無くなる。 元同僚のせめてもの情だ。 安らかに眠れよ?」



 そう言うと、フリッツは小さな杖を取り出して、ヨハンの身体を跡形も無く闇に閉じ込めた。



「早くあのゴーレムを解体したいところだが、ここで出して魔晶石を感知されたらお終いだ。 研究室に戻るまではお預けだな……クククッ……」



 不敵な笑みを浮かべるフリッツは、どこを見るともなくニタニタと笑顔を貼り付けていた。



─リリーズ魔導学園・待機室


 ロザリアを前にマリオンが調整に入っていた。


 ロゼは待機室にはいない。



「よっぽどショックだったんだろうな……」


「そりゃあ……マロカが寮に届いた時、あいつめちゃくちゃ喜んでたからな……ショックだろう……」


「しかし、何を考えているのか、凡人の俺達には解んねえが、マキナさんの指示なんだろう?」


「ああ、そうだ。 まあ、それと感情とは別だよ。 俺だってロザリアと別れるとか考えられないからな?」


「お前の場合は違うだろう?」


「何だ? 俺が変態だとでも言いたげだな?」


「違うのか?」


「そうだが? そんなに褒めても何も出んからな?」


「やっぱりお前……似てきてんぞ?」


「え? 誰に?」


「決まってんだろう? んっ!」



 ヘンリックが顎でマキナを指す。



「え!? 師匠にかっ!?」


「何喜んでんだ? そう言うところだよ」


「何だ? 人の噂は本人が居ないところでしろ?」


「そう言うマキナさんも顔が緩んでますよ?」


「おっ、そうか? ぬぇへへへへ」


「ロゼが落ち込んでいるのに、何を笑っているんです?」


「この地点でマロカの反応が無いと言うことは、凡そ計画通りだ。 帝国に目にもの見せてこそ、マロカの犠牲が報われると言うものだ!」


「マキナさんが、何を企んでいるか知りませんが、ロゼは現に落ち込んでいるのですよ?」


「キミはボクが鬼畜生の様な言い方をするが、マロカを創り出したのは他の誰でもない、このボクだ! 心が傷まないわけがないだろう!?」


「では、どうして笑っていられるのですか?」


「マロカが主人に愛されて喜ばぬ創造主はクズではないか?」


「……何て……まあ、良いです。 それで? マロカは今どんな状態なんです?」


「ここでそんなその話はせんよ? 次の試合に集中しろ。 この後の二戦はロゼリアの圧勝に終わる。 これは確定事項だ!」


「ええ、師匠! その通りです!! マロカの仇は何倍にもして返してやりますよ!!」


「ったりまえだ!! あんなクソ虫なんぞに負けたらボクの弟子は失格だからな!? 覚えておけ?」


「解ってますよ!! ぼくはいつか師匠だって超えて見せます!!」


「おうおう、言う様になったではないか?」


「師匠の弟子ですからね?」


「「ぬわはははははは!!」」


「「「「「………」」」」」



─『Bブロック・準決勝』


帝国軍魔導予備校

    ✕

リリーズ魔導学園


 帝国軍魔導予備校からはクラーク&レッドバトラー、リリーズ魔導学園からはマリオン&ロゼリアが出場する。


 『真紅血染めの厄災』の二つ名を持つレッドバトラーは、それこそ真紅の装甲を着込んでいる。 そして武器は大剣に変更されている。 大剣はギザギザとノコギリ状になっており、痛々しいデザインだ。


 ロザリアはマロカの弓を持っている。 ゴーレムボックスに入ればルール上は問題ない。



[人形の奴、あの危ねえ弓を持ってやがるぞ?]


「知らん! そんな事より早く始めたいんだが?」


[おいおい、気をつけろよ? アレで帝都教会のゴーレム、魔晶石ごと跡形もなく消えてたぞ?]


「へえ? そんな事より早く始まらんのか? 俺は血に飢えてんだ」


[ったく……戦闘狂め、じきに始まるだろう? そもそもゴーレムは血なんて流さんだろう?]



 クラークは不気味な笑みを浮かべつつ、試合開始の合図を待つ。



[Bブロック・準決勝・試合開始!!]


 試合開始のアナウンスが流れる。


─ワアアアアアアアア!!


 同時に声援が観覧席から聞こえて来る。


─ready!! キュイーン…


 ゴーレム・ボックスの継ぎ目に光の筋が走り、四方向に開放されていく。


─fight!! シュウウゥゥ…


 レッドバトラーの装甲の胸にはめ込んだ魔石が輝き、装甲に入れられたラインに沿って魔力が流れ、それぞれの装甲が紅く光り始める。


 ロザリアは指輪に魔力を注力して瞳に光が宿る。


 ロザリアが弓を前に構えた。


 刹那!


 レッドバトラーの巨体が足元に爆弾でも仕掛けていたかの様に、地面を爆破させて大剣を突き出してロザリアに迫る!


─ガン!


 レッドバトラーの大剣を持った右腕がふっ飛んだ!


 見るとロザリアはマロカの弓を振り上げている。


─ドン!


 そのままレッドバトラーに振り落とされた!


 レッドバトラーは地面に食い込む!


─ゴン!


 レッドバトラーの首が蹴飛ばされて飛んだ!


─グシャ!


 そのままロザリアのヒールの踵が、レッドバトラーの首元から突き刺さった!


─ピ──ッ!!


 試合終了のホイッスルだ! 審判員はリリーズ魔導学園のフラッグを上げている!



「んなっ!? そんな……バカなっ!!」



 クラークは不本意な声をあげて、ステージへと急ぐ。


 審判員と選手が審査とゴーレムの回収にステージへと入る。



「……」



 クラークは言葉も出ない。 ロザリアのヒールの踵がレッドバトラーの胸部に埋め込まれたコア魔晶石を破壊している。



[Bブロック・準決勝・勝者、リリーズ魔導学園!!]


─ワアアアアアアアアア!!



「何なんだ! そのゴーレムは!?」



 クラークがマリオンに凄む。



「……?」


「すかしてんじゃねえ!! 何かイカサマしてんじゃねえのか!?」


「……くだらん、何が血染めだ?」


「んだとうっ、ごらぁ!!」


「これ君、このゴーレムはちゃんと審査の通ったモノだ。 暴言は慎み給え! もし、疑うのであれば、もう一度探知機を通ってもらうが、君の言い掛かりだった場合は、帝国軍魔導予備校にペナルティが課せられるが構わないか?」


「くっ……」


「おいっ! クラークよせ!! まだ決勝が控えてるんだ、ペナルティはマズい!!」


「んのやろう……クソがっ!」



─ガンッ!


 クラークはマリオンを睨みつけて、拾っていたレッドバトラーの大剣を持った腕を自麺に叩きつけた。


 クラークはゴーレムボックスを蹴飛ばして退出し、レッドバトラーは他の部員が引き上げた。


 ゴーレムボックスを回収したマリオンは、帝国軍魔導予備校の連中を一瞥すると、待機室へと足を進めた。



「マリオンよくやった!!」


「ああ……あとひとつだ」


「この分だと勝てそうだな?」


「そうだな……」


「どうした? 元気がないじゃないか?」


「なんだか、あまり勝っても嬉しくないんだよ……」


「まあ、マロカの事もあるからな……」


「それもある。 それもあるが……」


「何だ?」


「あいつらのゴーレムの扱いを見ていると、吐き気がするほど胸糞悪いんだ!」


「わかるぜ? 同じラビとして許しちゃおけねぇよな、あの態度……」


「まあ、次で終わりだ。 来年は俺たちは卒業していないから、これが最後だ。 とっとと終わらせよう!」


「……そうだな」



 マリオンはロザリアの髪を撫でてため息を吐いた。



─観覧席


「ロゼ?」


「ん」


「観なくて良いのか?」


「ん」


「次は決勝だぞ?」


「ん」



 ロゼはノワールにもたれかかって、遠くを見ている。



「ロゼたん……よっぽどショックだったんだね……」


「そうだな……」


「あんなに喜んでたんだもんねぇ……」


「ああ……」


「ロゼ?」


「ん」


「ナーストレンドに戻ったらさ」


「ん」


「寮でカレー食べる前にさ」


「ん」


「ウラノスに会いに行こう」



 ロゼがノワールの顔を見る。



「……ほんと?」


「ああ、ほんとだ」


「わかった」


「約束だ」


「ん、やくそく」



 ロゼの耳の黒いピアスがキラリと光る。 心做しか、ロゼの目にも光が戻る。

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