第145話 キング・オブ・ゴーレム12

 ロゼが眉間にシワを寄せてマロカを眺めていた。



「マロカたん……」


「ロゼッタよ……忘れておるかも知れんが、我々は闇ギルドでもあるのだ。 マロカには悪いが協力して欲しい」


「……うん。 マロカたんに頑張ってもらう!! マキナたん、任せて!!」


「……すまんな?」


「ううん、私も皆の役に立ちたい! マロカたんの事は惜しいけど、私、皆の為に我慢する!!」


「ぎゅっ」


「ぎゅっ」



 ロゼとマキナは軽く、いや、どちらかと言うと、強く抱き合って、ロゼはマロカの入った箱を持ってステージへと向かった。


 マキナはロゼの後ろ姿を見送ると、待機室へ戻って携帯パソコンとスカウターを着けてモニターを展開した。



「帝国め……思い知らせてやる!」



 少し険しい顔をしながら、口元は不気味に吊り上がっていて、悪い顔をしている。



「師匠、悪そうな顔が駄々漏れになってますよ?」


「う、うるさい!! 駄々漏れになっても可愛かろう?」


「ちょ、ちょっと不気味でしたよ?」


「そ……そうか……?」


「はい」


「う〜む……マリオン?」


「はい?」


「蛇の道は……?」


「蛇、ですよね?」


「ふん、そんなだからお前は成長せんのだ!」


「だったら師匠は何と答えるのですか?」


「蛇の道は龍! 同じ道を同じ様に理解し、解釈するくらいではそれ以上にはなれん! 全てを覆すくらいにとびきり大きく超えてゆけ!! マリオン、私の弟子を名乗るなら、それくらいの答えは出せるようになれ!!」


「龍……ドラゴンですか……これはまた、とびきり大きいですね! 良いですとも師匠! 成りましょう!! それもバハムート級のドラゴンに!!」


「おう! 良い心掛けだ!!」


「「うわはははははは!!」」


「この師弟……うちには手に余る…」


「ボルトン先生、諦めてください。 もう遅いですよ?」


「フランク……そう、だな?」


「ええ……」



─『Aブロック・準決勝』


リリーズ魔導学園

    ✕

帝国軍魔導予備校


 リリーズ魔導学園からはロゼ&マロカ、帝国軍魔導予備校からはアデル&ブラッディクイーン(鮮血の女王)が出場する。


 リリーズ魔導学園のマロカのコスチュームは今回スクール水着だ。バスタオルを巻いているのでタオル一枚に見えている。 観覧席からよくわからない歓声が巻き起こる。

 念の為に審判員が装備の点検をするが、顔を赤らめているだけで、特に問題はなさそうだ。


 対する帝国軍魔導予備校のブラッディクイーンはやはり大きなローブを被っていて全容は分からない。 武器はこれまでの試合では鞭を使っていた記録があるが、この試合では何故か杖を用いている。 何やら魔石を嵌め込んだ白い杖だ。

  


[おいクレイ、アレどう思う?]


[明らかに何かやらかす気でしょう?]


[そうだよな……マロカ!? 油断するなよ!?]


「ん!」



[Aブロック・準決勝・試合開始!!]


 試合開始のアナウンスが流れる。


─ワアアアアアアアア!!


 同時に声援が観覧席から聞こえて来る。


─ready!! キュイーン…


 ゴーレム・ボックスの継ぎ目に光の筋が走り、四方向に開放されていく。


─fight!! シュウウゥゥ…


 ブラッディクイーンは魔法陣を足元に展開して身体強化をかけ、さらに杖を頭上に掲げて防御結界を張った。


 マロカは指輪に魔力を通して身体強化と魔防コーティングを展開した。



「ホーホッホッホッホ! さあ、リリーズ魔導学園? どこからでもかかって来なさ〜い?」


「わかった」


─ドンッ!


 マロカのエルボーでブラッディクイーンの頭が吹っ飛んだ!



「なっ!?」


「よわ〜い♪」


「クッ! 何が起こったの!?」



 ブラッディクイーンが少しバックステップして構える。



「もっかいやる?」


「ぐぬっ……いいわ、来てみなさい?」



─ルルルン…ピキキキーン!


 ブラッディクイーンが結界を多重展開する。


─バキン!


 マロカがひと蹴りで結界を破壊してブラッディクイーンを吹き飛ばす。



「なんでっ!?」


[ふっ、ザコだから? ぷぷっ♪]


「き──────っ!!」



 ブラッディクイーンが杖を構えて、何かしらの魔法陣を幾重にも展開し始めた。



[おい!? アデル!? ムキになんな!!]


「うるさい、うるさい、うるさ────いっ!!」


[こいつ駄目だ……]


「ブッ壊してやるわよ!!」


[ふっ、やってみな?]


「ムッキ─────ッ!!」



─ッン………ドゴゴゴゴゴゴ───ン!!


 マロカのいた場所が強烈な光とともに爆発する。 ブラッディクイーンは頭部が欠損している為に捕捉が出来ないので、マロカの居た周辺を手当たり次第爆発させた!



「ど───よっ!? 塵も残ってないかしら?」


[おいおい、あれ程残せって………え?]



 煙の影から人影が見え始め、完全無欠のマロカが仁王立ちしている。



[ふっ、何かした?]


「きっさーまーっ! きさまきさまきさま────っ!!」


[おうおう、ザコはよく吠えるね?]


「ブラッディクイーン!! マジックブースター!!」



 ブラッディクイーンのローブをとめている胸の魔石がギラリと輝いて、ブラッディクイーンのエーテルの循環が速くなり、魔石が弾けてブラッディクイーンの杖がビカビカに光り輝く!


 杖の先からビカビカに輝いた光がマロカに向かって照射される。


─ッ……ドゥ……ン……


 何事も無かったかのように、マロカのバスタオルに光は吸収された。



「あ、あんた!! いったい何なのよ!?」


[ロゼだよ? ん、それともマロカのこと!?]


「いいわ、こうなったら作戦通りにしてあげる!」


[のぞむところ!! マロカ、行くよ!!]



 マロカが元居た場所から消える。 ブラッディクイーンが杖から黒い魔力を放出して黒い影を作り出した。 そして、足元に土煙を作り上げて視界を塞ぐ。


 マロカが土煙の中に突入する。 



[かかった!!]


「ずいぶんと手古摺らせてくれたわねっ!?」


[油断するな!!]


「くっ……」



─ピ──ッ!!


 試合終了のホイッスルだ! 審判員は帝国軍魔導予備校側のフラッグを上げている!


 審判員と選手が審査とゴーレム回収に入る。


 と言っても、マロカのゴーレムは見当たらない。 首の無いブラッディクイーンが杖を掲げて立っているだけだ。



[Aブロック・準決勝・勝者、帝国軍魔導予備校!!]


─ワアアアアアアアアア!!



「ホーホッホッホッホ! 大口叩いてたわりには大した事ないわね!? 自慢のゴーレムはどこかしら?」


「ふんっ! マリオンとロザリアが仇をとってくれる!!」


「あらあら、負け惜しみ? 楽しみだわね〜ぇ? そもそもそのマリオン? クラークに勝てるのかしら?」


「……マロカ……頼んだよ?」


「はっ!? 無視? それに、バッカじゃないの? もうここに居ないゴーレムに何を頼むのかしら?」


「お前に関係ない」


「ぐぬっ……ふっ、まあ良いわ。 次のあんたのお仲間さんも同じ目に合うかもね??」


「それはない。 あんたらの負けは確定。 もとい! オマエはもうピーんでいる!」


「なっ!? はんっ、負け惜しみもここまで来ると惨めなもんね?」


「もう、遊んであげない、じゃ〜ね!」



 ロゼはゴーレムボックスを持ってステージをあとにした。



「なっ!? 何よあの女!? ムキ────ッ!」


「アデルがクチ負かされるの、初めて見るぜ?」


「うるさい! 負けてないわよ!!」


「へぇ〜」


「もうっ! イライラするわねぇっ!!」


「首……これなら直せるか?」


「そうだな……、まあ次の試合までには何とかするよ?」


「よろしく頼むわよ!?」


「まあ、クラークが勝てば直す必要性も……」


「あん? あたい、クラークにも負けるつもり無いわよ?」


「すげぇ自信だな、おい!? 俺だって負ける気はねぇよ!?」


「あんたはあのお人形さんに勝ってから言いなさい?」


「はん、その落ちた首でも洗って待ってろ?」


「ぐぬ……嫌なところ突くわね……」



 アデルは落ちた首を拾い上げてじっと見た。 ギリッと歯ぎしりをして、チッと舌打ちをひとつ、ゴーレムを回収してその場をあとにした。


─リリーズ魔導学園・待機室



「ロゼ……良くやったな!」


「うん……」


「マロカは……最悪はまた作ってやるから」


「ううん、それはいい。 マロカはあの子ひとりだけ」


「そうか」


「うん」


「ぎゅっ」


「マキナたん……マロカをよろしく……」


「任せろ、決して無駄にはしない……決してな!」


「ぎゅっ」


「……」


「……」


「マリオン!」


「おう!! 任せとけって!! ケッチョンケッチョンのギッタンギッタンにやっつけてやる!!」


「うん!!」


「任せとけよ……そして覚悟しろ、帝国!! 目にモノ見せてやる!!」



 マリオンはロザリアをひと撫ですると、モニターに映る帝国の選手を一瞥した。


 そして、


 今まで見たこともないくらいに悪い顔になった。



「マリオン怖い」


「ほっとけ!」

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