第144話 キング・オブ・ゴーレム11

─リリーズ魔導学園・待機室



「おいロゼ? 最後のアレ、何だ?」


「ん? ハイパーマロカビームだよ?」


「いや、そうじゃねえ、あのビームの正体の事言ってんだ」


「アレはのう……レールガンだ」


「あ、マキナさん……レールガン??」


「そうだ、まあ、ノワールの入れ知恵ではあるが、術式諸々考えたのはこの天才だよ、諸君」


「変態……ボソッ」


「グハッ!?」


「マリオン、あまり師匠を調子に乗らすなよ!?」


「ほら……」


「ふむ、レールガンと言うのはだな……おっと!」



 マキナは指輪に魔力を通して盗聴防止・防音・遮蔽魔法を発動する。



「師匠、それ何処で売ってるんですか?」


「うちの店だ。 まあ、正規には売っておらんが」


「そんな事を僕たちに言っちゃって大丈夫なんですか?」


「はっ、こんなもんどうと言うことも無かろうに」


「相変わらず出鱈目な人だな……それで? そのレールガンとは何なんです?」


「ふむ、簡単に言うと、弓から射出される矢の軌道に磁界を展開して、極超音速で的を穿つ攻撃だ。

 ビームの様に見えるのはプラズマだのお」


「だからあんな威力……会場が壊れたらどうするんですか!?」


「直せば良かろう?」


「この人は……」


「お茶目であろう?」


「うんうん、マキナたんありがとう!! ビームがなかったらマロカちゃんがホネホネに飲み込まれてたよ〜!!」



 ロゼがマキナに抱きついて持ち上げる。



「うむ、あれはちょいと危なかった。 しかしまあ、無事で良かったな!」



 持ち上げたマキナをブンブンと揺らすロゼ。



「おわっ! わは! わははは! わははははは!!」


「マキナたん、可愛い〜♪」


「「「「「可愛い!」」」」」


「き、キミたちはボクをばかにしておるだろう!? わはっ! おわっ、わはははははは!!」


「「「「「真剣です!」」」」」


「こらこら、こんな所に子供を連れて……あ、マキナさん?」


 ボルトンが部屋に入って来たのを見て、ロゼがマキナを下ろす。


「ひい、はあ、ふう……ボルトン、どうであった?」


「やはり、反則とまではいかない様ですね。 ゴーレムは規定に沿ったモノで、魔属性も元の素材に付与されているもので《特殊魔法を使用した》とは見做みなされない様です」


「そうか、大会規定の盲点を上手く突いたと言うことか……となると厄介だな……」


「どう言う事です?」


「元々素材に付与されているエンチャントやスキル、属性などは大会規定のそれには当たらないと言う事になりかねない。 つまり合法的に反則行為を行えるかも知れないと言うわけだ。 簡単に言うと魔法を発動しなければ特殊魔法だろうと何だろうと使える、そう言う事だ」


「少し理解が及びませんが、帝国が危険なのは解ります」


「変な事に巻き込まれたくなければ、この辺で棄権するのもアリなのやも知れんな……」


「ぼくは……やりますよ、師匠!?」


「私もやる!!」


「……そうか、やるか。 やるからには勝たねばのっ!!」


「「おう!!」」


「……マキナさん、アンタが顧問してくれないですかね!?」


「断じて断る!!」


「……」



─『Bブロック・三回戦』第二試合


ドヴェルグ魔導学園

    ✕

リリーズ魔導学園


 リリーズ魔導学園からはマリオン&ロザリア、そしてドヴェルグ魔導学園からはナットン&マンティスキングだ。


 ロザリアは今回ハルバードを持たせている。 と言うのは、相手のドヴェルグ魔導学園のゴーレム・マンティスキングは前の試合で全ての物理攻撃を跳ね返しているのだ。 そこに物理をぶつけようと言うのはマリオンの考えであるが、このハルバードはマリオンのとっておきでもある。


 対するマンティスキングはインセクトタイプ(虫型)のゴーレムでカマキリを模した形を呈している。 起動力、攻撃力、防御力ともにゴーレムの基本的な水準を上回っている。 その代わりと言っては何だが、余計な装備やパーツは一切無いのだ。 身体一つで完成されている。


『Bブロック・三回戦・第二試合開始!!』


 試合開始のアナウンスが流れる。


─ワアアアアアアアア!!


 同時に声援が観覧席から聞こえて来る。


─ready!! キュイーン…


 ゴーレム・ボックスの継ぎ目に光の筋が走り、四方向に開放されていく。


─fight!! シュウウゥゥ…


 ゴーレムボックスが開くや否やマンティスキングが動き出す。


 ロザリアは指輪に魔力を流して、すぐさまハルバードを構える。


 マンティスキングは四本脚だ。 動きは速いが変則的に動く為に捉えにくい。


 がしかし、ロザリアの目が光りマンティスキングを捕捉する。


 マンティスキングは左右にステップを踏みながら左右のシックルを巧みに使ってロザリアに斬り掛かる。 


 ロザリアはハルバードでマンティスキングのシックルを左右に往なす。


─スコッ! シャキン! バララ…


 ロザリアが避けた先の岩が綺麗な断面を見せる。 


 ハルバード自体は斬られる事は無いが、軌道次第ではロザリアが斬られかねない。


 一言でシックル(鎌)と言っているが、ロザリアの身の丈の三分の二はありそうな大鎌である。


 身体はマンティス(カマキリ)の身体を模しているが、腰を軸に上体を回転する事が出来る。 


 脚も四本ある為に安定感が凄い。 大鎌を振り回しても身体がブレる事はない。


─ギン! シャキシャキ! サクッ!


 二本のシックルを一本のハルバードで往なすのにも限界がある。 かと思われたが、ロザリアは初めの立ち位置からほぼ動いていない。



「よし、マンティスのデータが取れた! ロザリア、行くぞ!!」



 ロザリアの姿勢が低くなり、斜め上からクロスして振り下ろされたシックルがロザリアへと襲いかかる!


─ザザン!!


 地面をシックルが薙ぐ! しかしそこにロザリアはいない! 


─ガゴン!


 マンティスキングが蹌踉よろめいて身体が傾く!


 ロザリアはマンティスキングの脚の下に滑り込んで左脚二本を切り落とした!!


 マンティスキングは残された二本の脚と片腕を使って体制を立て直してロザリアに向き合う。


 再びロザリアが体制を低くすると、マンティスキングも体制を下げて、襲撃に備える。


 ロザリアがハルバードを構えてマンティスキングに斬り掛かる!


 マンティスキングは背中の翅を大きく広げて魔力を流す!

 翅は風をまとってマンティスキングの巨体が宙に浮く!


 ロザリアはマンティスキングの残された二本の脚に斬り掛かる!


─ジャキン! ドン!! 


 マンティスキングの残された二本の脚はスッパリと斬り落とされたが、ロザリアも吹き飛ばされていた!


 マンティスキングの脚に斬り掛かる際にマンティスキングの尻尾がロザリアを捉えたのだ。


 マンティスキングは左腕だけで上体を起こして右腕を構えている。 翅は威嚇でもしているかのように開かれて、いつでも浮遊出来る体制を取っている様だ。


 ロザリアはガラリと瓦礫を踏みつけて立ち上がり、その目は未だマンティスキングを捉えたまま光っている。


 ロザリアは半歩右足を引いてハルバードを持ち、魔力を込めた。


 ロザリアの目的を悟ったかのようにマンティスキングは飛翔して両腕を全面でクロスさせる。


─ブン! スコンッ!


 ロザリアの投擲したハルバードはマンティスキングをシックルごと胸部を斬り裂いて、後ろの岩山をも斬り裂いて止まった。


 マンティスキングが四散して崩れ落ち、翅がハラハラと散った。


─ピ──ッ!!


 試合終了のホイッスルだ。 審判員と選手が入り現状視察に入る。


[Bブロック・三回戦・第二試合勝者、リリーズ魔導学園!!]


─ワアアアアアアアアア!!



「よう、リリーズ魔導学園。 そのお嬢ちゃん、つえーな!」


「ドヴェルグ魔導学園……部長のナットンさん?」


「そうだ、オレがドヴェルグ魔導学園ゴレ研部長のナットンだ。 オマエ、手加減しただろう!? この強さなら初手でアレが撃てた筈だ!」


「はい。 正直言いますと、手加減しました。 でも、少しでも実践データが欲しくて……」


「そうか……敵わねーな! 降参だ!」


「こちらこそ、お相手してくださってありがとうございました!!」


「なあ? 今度オレたちと交流試合してくれねぇか!? 色々と教えて欲しいんだ!! もっとゴーレムの事、知りたいし、強くなりたいと思っている。 オマエたちが教えられる範囲で構わねえから、オレたちに教えてくれないか!?」


「ああ、構わない……あ、いや、うちの部長に相談してみるよ!! ぼくの独断では決められないから!」


「あははははは! それもそうだな!! それではまた、正式に申し込むとしよう!! 今日は楽しかった!!」


「はい!! こちらこそ楽しかったです!! そのうち、是非交流試合しましょう!!」


「おう!!」



 そう言うとマリオンとナットンは固い握手を交わした。


 お互いのゴーレムを回収し終えると、それぞれの待機室へと撤収した。


─リリーズ魔導学園・待機室



「次はどちらも帝国相手だな……」


「ああ、奴ら何仕出かすか分かんねえからな……」


「何を言うておる? 先ほどの帝都教会の試合で目的は明らかじゃろう? まず我々のゴーレムをそのまま狙っておるのは間違いなかろうて」


「マキナさん……やはりそう、ですよね?」


「うむ。 そこでじゃ!」


「何か策があるのですか?」


「マリオン、ロゼ、ちょっと耳をかせ!!」


「「はい(ん)!」」



 マキナは指輪に魔力を込めると自分の考えを二人に話し始めた。

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