第143話 キング・オブ・ゴーレム10

─ザワザワザワザワ…


 Aブロックの三回戦・第一試合は、リリーズ魔導学園ロゼ&マロカと帝都教会魔導学院ヨーゼフとゲーデだ。


 しかし、先ほどの試合で帝都教会魔導学院が反則行為をしたことで、出場取り消しの審議が行われていた。


 次回の出場は応募禁止となっているが、今大会での残された他の選手による出場を認めるかどうかと言う審議だ。



「いや、もういいだろう?

あんな奴らを出場させると、今後のキンゴレ自体の存続が危ぶまれる! キングレは実験施設ではないのだ!!」


「しかし、彼らとて学生。 若い芽を摘み取って将来を担うゴーレムの操縦者ラビのたまごを失うのは惜しい……罪を憎んで人を憎まずと言うではないか?」


「しかし、ラビが扱うゴーレムが軍事目的や犯罪目的に使われるのだけは避けなければならない。

 我々は人類の発展の為にラビを育成する機関であって、理念から外れた思想を持つラビを育てるものではないのだよ!」


「それは、ラビが道を踏み外さない様に監督責任を担う顧問、引いては学校側の責任であろう? 我々が注意喚起すべき対象を見誤ってはいかん!」


「意見が割れてまとまりませんね……アルマンド委員長?」


「ふむ。 では、決まらぬ様なのでわしの一存で決めるが異論はないか!?」


─はいっ!!


「では……間をとりましょう!!

 今回出場中の選手にあっては再度審査の上続投!

 次回大会にあっては本大会の規定に基づき出場停止とする!!」


─パチパチパチパチパチパチ!


 と言うことで帝都教会魔導学院のキングレ続投が決定した。


 その為に次の試合、三回戦のロゼ&マロカの相手は勝ち進んで来た帝都教会が相手となる。



─リリーズ魔導学園・待機室



「帝都教会の続投が決まったそうだ。 今通達があったが、ロゼ、準備は出来ているか??」


「うぇ〜い♪ う、うぇ!?」


「そのなんだ、メロウサインってやつ? 流行ってるのか?」


「ん、今流行らせているところ♪ 先生もやって?」


「やらんが?」


「けちん坊!」



 ロゼは上目遣いでボルトンを見た。



「そんな目で見てもやらんぞ?」


「「「「先生、うぇ〜い♪」」」」


「う、うぇ……ってやらんって!!」


「センセ、遊んでないでちゃんとやってください!」


「そうですよ、先生〜! 向こうさん、続投決まったんですから」


「お、おまえら!?」



─『Aブロック・三回戦』第一試合


リリーズ魔導学園

    ✕

帝都教会魔導学院


 リリーズ魔導学園からはロゼ&マロカ、帝都教会魔導学院からはヨーゼフ&ゲーデだ。

 今回マロカは天使バージョンで白い衣装、大きな翼、武器は弓だ。

 帝都教会側のゲーデは黒尽くめのローブを羽織っていて、その全容は分からない。 武器は何も持っておらず、目だけが不気味に光っている。



[なんか向こうさん、嫌ぁ〜な雰囲気だな、大丈夫なのか?]


「ん、だいじよぶ!」


[そうか、無茶すんなよ!]


「ありがと!」



[Aブロック・三回戦・第一試合開始!!]


 試合開始のアナウンスが流れる。


─ワアアアアアアアア!!


 同時に声援が観覧席から聞こえて来る。


─ready!! キュイーン…


 ゴーレム・ボックスの継ぎ目に光の筋が走り、四方向に開放されていく。


─fight!! シュウウゥゥ…


 ゲーデからどす黒い何かが漏れている。 しかし動き出す様子はない。


 マロカは指輪に魔力を通しながら弓を引く。


─ズヌ……ズズズ……


 マロカの放った矢がゲーデに刺さって飲み込まれていく。


─ズヌ……ズズズ…ズ…


 ゲーデは動かない。 ただ不気味に目を光らせているだけだ。



[おいロゼ、あいつ何か変だぞ!?]


「見たらわかる……ん……」



 マロカは別の指輪に魔力を込めた。


─ドゥンドゥン……


 ゲーデの中で何かが爆発した様な音がしたが、とくに変わった様子はない。


 ゲーデは動かない。


 マロカが動く。 ゲーデの傍に行き動かないのを確認すると地面に手を着いた。



「グラウンドスパイク!!」



 ゲーデが地面から突き出た棘に串刺しにされる。


─ズヌヌヌヌ……ズ……パララ


 ゲーデの身体を貫通していたトゲの先がパラパラと落ちた。


 ゲーデがローブを引きずって動き出す。 徐ろに上体を起こして、当初よりだんだんと大きく膨らんでゆく。


 その間にもマロカが攻撃を仕掛けるが、効いている様子はない。



「効かない……」



 マロカが水辺で手をかざす。 魔法陣が大きく展開されて。


─バリリッ!シュウウゥゥ…


 水面が少し弾けたように光り、マロカが手をゲーデの方へやる。 


 ゲーデは動かない。


 マロカの手から一筋の炎がゲーデへ向かって走る。


─カッ! ドンッ!!


 一瞬閃光が走り爆発に続く。


 ゲーデのローブが青い炎に包まれて燃え上がる。



「リリーズの女、こちらが機を伺っている隙にやりたい放題やりやがって……」


[いや、問題ないだろう。 それよりも失敗するな?]


「わかってますよ。 ヘタすればこれが最期の出場になるかもですからね……チャンスは一度きり」


[そうだ、わかっているなら良い。 健闘を祈っている]


「了解!」


 ゲーデはローブの下からその全容を現した。 それはドラゴンを模した骨、と言うよりは骨で出来たドラゴン、若しくはドラゴンの骨そのものと言うべき姿だ。



「か……カッコいい……」


[おい! ロゼ!? 何言ってんだ!? それより気をつけろ!! 何企んでやがるか分からねえぞ!?]


[そうだぞ。 攻撃をしてこないと言う事は、お前の攻撃を誘っていると考えるべきだ。 迂闊に近づくな!]


「ん。 でも壊れないな……コア魔晶石も何かで覆われていて難しい」


[魔法少女バージョンの方が良かったか?]


[いまさらそんな事を言っても仕方ないだろう? それならそれで、こちらは攻撃をしているし、向こうさんはまだ何もしてねぇんだ。 判定に持ち込めばこちらが勝てるだろう!?]


[何だか腑に落ちない勝ち方になるが、あまり下手は打てんからな……ロゼ、慎重に行け! 判定勝ちでも勝ちは勝ちだ! 無理するくらいなら時間を稼げ!!]


「ふふふふ……はーはっはっはっは!! このロゼをみくびるな!! なんだって!? 判定勝ちだ!? そんなモノは知らん!! 往くぞ、マロカ!!」


[[[[[ロゼ────!?]]]]]



 マロカが動く。 指輪に魔力を流して身体が瞬間眩く光る。


─ガガッ!バキッ!ゴキキッ!


 マロカが掌底、アッパーカット、かかと落としと打撃を与えてゲーデの骨を砕いてゆく。


 しかし。


─ガシッ!


 マロカの足が捉えられた。

 そのままゲーデは腹部に作られた闇へとマロカを引きずり込んでゆく。 



[あれは……僕が以前ペドロにやられた闇魔法の影飲みか?]


「ペドロの!? それなら光魔法で抵抗できる!!」



 マロカの指輪が光り白い翼が神々しく輝き身体からも光を放ち始めた!!


 しかしゲーデはその強靭な顎でマロカの翼を咥えて離さない。


 ゲーデは尚も怪しげな影に身をくゆらせてマロカを自分の腹に取り込もうとする。



[これは……光魔法で抗えないなんて……]


[おそらくだが、闇魔法に魔属性魔法が上乗せされておるな。 あれはきっとカースドラゴンの骨から作られておるのだ]


[そんな……錬成で作られる無機質のものと言うのが規定じゃなかったですか?]


[そんなものどうとでもなるであろう? 例えば簡単に作るなら、骨を砕いて錬成で再形成すればよかろう? もともと無機質なのだから問題点あるまいし。 エンチャントは規定違反ではない]


[それじゃぁ、このままでは……]


「させない!! マロカちゃん、アレやるよ!?」



 マロカの目の輝きが一層強くなる。 マロカは抵抗するのを辞めて、両手で弓を番える。 ツインテールが真っ直ぐに伸びる。



 「ハイパー……」


─キリキリ……


 「マロカビ───ム!!」


─ッ……ババリバリバリリリッ!


 マロカの放った矢はゲーデの魔石部を大きく抉って突き抜け、ステージの端の結界にも大きなダメージを与えた。


─ドサリ……


 マロカがゲーデの足元に転がる。


─ピ──ッ!!


[Aブロック・三回戦・第一試合勝者、リリーズ魔導学園!!]


─ワアアアアアアアアア!!



「何だよ……アレ……」


[ビームとか言ってなかったか? 反則じゃねえの?]


[とにかく奴らのゴーレムを取り込む計画は失敗だ……くそっ]


[仕方ねえ、あとは帝国軍の奴らに任せる他ねぇ]


「くっそう……どうせ次回は欠場なんだ、強引にでも──」


[──おいヨーゼフ! 冷静になれ!! お前がどうなろうと知ったことではないが、試合終了後のゴーレム強奪とか犯罪でしかないだろう? 我が校への査察が入る様な真似は辞めろ!!]


「くっ……わかりました」



 審判員と選手がステージの審査とゴーレムの回収に入る。


 ゲーデは胸の部分がすっぽりの無くなっていて、魔晶石のコアごと消失した様だ。 あとはただの骨が転がっている。


 マロカは翼をかじられて少し傷付いた以外は薄っすら汚れた程度の損傷だ。



「マロカ……無事で良かった……」



 ロゼはマロカを抱きしめてうずくまる。



「お前ら、あのビーム何だ!?」


「教える必要ない」


「あんなの見たことがねぇ、審判員どうなんだ!?」


「問題ありません。 それより結界を貼り直すので、早く回収して退出してください」


「くそがっ!!」


「おい、さっさと行くぞ!!」


「ああ……」



 ヨーゼフはロゼを睨みつけつつ、ゲーデを回収してその場を去った。


 ロゼは優しくマロカを箱に戻して一瞬立ち止まる。



「マロカ……あと少し頑張ってね。 私、帝国をやっつけたいんだ……あと少しだけ……お願い!」



 そうマロカに語りかけると、ロゼは待機室へと向かった。

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