題142話 キング・オブ・ゴーレム9

─バベル建塔師魔導専門学校・待機室



「おい、本当にあいつら洒落になんねぇな!?」


「ああ、何か情報入ったか?」


「今の試合の映像の解析が終わったが……何も不審な点は見つからねえ。 初めのヘカトンの攻撃を落とした魔法は単純な風魔法。 空気を急激に圧縮させて起こされた衝撃波だ」


「衝撃波!? あんな広範囲にか!?」


「そうだな。 おそらく術式と演算能力が一般常識には当てはまらない。

 ただ衝撃波を起こすだけなら僕らだって出来るだろう。

 それをあの規模で起こす事なんて想定していないから、考えが及ばないだけだ。 そして実際に起こすとして、その術式が分からないし、その為の演算能力も及ばない。 まさに化け物だよ」


「てことは俺たちにはやっぱり勝てそうにねえって訳か……」


「でも俺たちだって今まで遊んで来たわけじゃねえ、これまで積み重ねてきた俺たちなりのノウハウがこのゴーレムには詰め込まれてるんだ」


「ああ、そうだな! ぶつけてやろうじゃねえか!! 俺たちの情熱パッションを!!」


「……ちょっと恥ずかしいから会場で言うのはやめろよな?」


「……わかった」


「……うん」



─『Bブロック・ニ回戦』第四試合


バベル建塔師魔導専門学校

    ✕

リリーズ魔導学園


 Bブロックの二回戦、第四試合のバベル建塔師魔導専門学校はアダムス&ロンド、リリーズ魔導学園はマリオン&ロザリアだ。


 バベルのゴーレム・ロンドはこれまでのゴーレムと違ってスマートなゴーレムだ。 長剣二本を操る双剣使いと言うこともあり、きっとフットワークも軽そうだ。

 対してロザリアはいつも通り、ゴシックロリータのドレスにヘッドドレス。 いつもと違うのはゴシックパラソルを装備させている。



[おい……まじか……本気であれ、ゴーレムだよな?]


[ビスクドール……いや、本当に人じゃねぇんだよな?]


[あれで勝ち進んで来たんだ、舐めてかかったら絶対にヤラれる!!]


[そうだな。 気を引き締めて行こう!!]


[[おう!!]]


「あちらさん、気合入ってるね!」


[おいマリオン、パラソルはまだ早えんじゃねえのか?]


「いや、この辺で使い慣れておきたいんだ」


[お前、さんざん練習してたじゃねえか!?]


「やっぱり実戦こそが経験値だと思ってる」


[そうか! とにかく気をつけて行け!!]


「うん!!」



『Bブロック・二回戦・第四試合開始!!』


 試合開始のアナウンスが流れる。


─ワアアアアアアアア!!


 同時に声援が観覧席から聞こえて来る。


─ready!! キュイーン…


 ゴーレム・ボックスの継ぎ目に光の筋が走り、四方向に開放されていく。


─fight!! シュウウゥゥ…


 アダムスのロンドはブーツに幾筋かの光が走り、地表より少し浮いた。 そして双剣の魔晶石が輝き剣に彫られた魔導線に沿って光が走る。


─ヴン……


 ロンドの目から光が漏れる。


 ロザリアはゴシックパラソルを差して攻撃に備える。


─ガガガガリガリガリリ!!


 お約束の旋回斬りで攻撃を仕掛けるロンド。 想定通りフットワークも軽くコンボも決めてくる。

 しかし。



[嘘だろっ!? 全然ダメージが通らねえ!?]


[いったい何で出来てやがる!?]



─ギュリリリリリッ!!


─ゴリゴリゴゴゴゴ!!


 何度やってもダメージは通らない。


 ロザリアは傘を閉じる。


 一気に距離を詰めて傘を振り上げるが、間一髪ロンドが後ろに反り返って避けると同時に蹴り上げる!


 ロザリアの目前を掠めるくらいで避けて、ロザリアがロンドの背中に蹴りを入れる。


─ドガッ!!


 後ろの地面にロンドが叩きつけられて倒れる。


 ロンドは動かないがホイッスルは鳴ってはいない。


 ロザリアが慎重に近付き傘で突こうとしたその時。


─ガキッ!


 ロンドの脚でパラソルを絡め取られた!!


─タンッ!


 ロザリアはロンドからバックステップで距離を取って構える。


 ロンドは立ち上がり、パラソルを振りかざす。


 かと思ったが動かない。



[どうなってんだ!?]


[いや、分からんが……]



 ロザリアが動く。


─ガキィン!


 ロンドの肩口の関節に両手の仕込みナイフを突き刺した。


─ドゴッ!!


 とても重量感のある音を立てて両腕ごとパラソルが落ちた。


 ロザリアがナイフを振りかざし、ロンドの魔晶石を目掛けて振り下ろそうとした。


─ゴン!


 ロンドはロザリアごと地面に身体を叩きつける様に倒れ込んだ!


 ロザリアがロンドの下敷きになる。


「くそっ! あと少しだったのに!」


─ゴスッ!


 ロザリアがロンドの身体を蹴り上げる。 ロザリアよりも一回り大きなロンドの身体が宙に打ち上げられ、ロザリアは体制を整えた。 ロンドが落ちて来ると同時にブーツに仕込まれた仕込み刃が飛び出す!


「なにっ!?」


─ジュギン!


 咄嗟にロザリアは躱したが、スカートの裾に切り込みが入る。



「あっ!? くそっ!! くそっ!! ロザリア!!」

 


 マリオンの髪の毛がザワザワと逆立つ。


 ロザリアはナイフを顔の前にクロスして、体制を低くした。


 ロンドは片足立ちでもうかたほうの足は折り曲げられて臨戦態勢だと言える。



「行け! ロザリア!」



 ロザリアの姿が消える。


 ロンドのは動かない、と言うか動けない。 ロザリアの位置が捕捉出来なくて、顔だけがキョロキョロとしている。


 ロンドの周辺で地面を蹴る音がするが、そこにロザリアを確認する事は出来ない。


─ガキン!


 ロンドの上げていた足が切り落とされる。


─ガキン!


 そして、ついにロンドの四肢は全て切断された。


─ピ──ッ!!


 試合終了のホイッスルだ。バベル建塔師魔導専門学校の降参にて試合終了となった。



[Bブロック・二回戦・第四試合、勝者、リリーズ魔導学園!!]


─ワアアアアアアアアア!!



 審判員と両選手が立ち会いにステージに入る。 審判員の確認が終了してそれぞれゴーレムの回収にあたる。


 アダムスが四肢の回収を始めたその時。



「何だこれ、おっも!?」


「ああ、すまんな。 重いんだ、そのパラソル。 こっちでやるよ」


「いや、大丈夫だ。 ほらこれ、返すよ」



 アダムスからマリオンにパラソルが渡される。



 「そのパラソルスゲーな! 一つもダメージ通らなかった。 いったいどうなってんだ?」


 「まあ、材質もあるけど、回転させることで力の方向を変えるんだよ。 力学的な考え方だ」


「へえ。 そんなのよく思いつくな?」


「僕には超えなければならない目標があるからね!?」


「高そうだな!?」


「ああ、高いんだ!! 途方もなく高い!!」


「頑張れよ!?」


「ああ、ゴーレムすまなかったな!?」


「いや、見事なもんだったよ。 こちらも勉強になった!!」


「本当に同じ帝国とは思えないな…、あ、失礼!」


「いや、良いよ。 実際俺たちも一緒にはされたくないからな!!」


「そうか、なら良かった!」


「ああ、優勝しろよ!!」


「ありがとう!! 最善を尽くすよ!!」



 マリオンとアダムスは固く握手をすると、それぞれのゴーレムを持ってステージを退散した。



「同じ帝国でもまともな奴がいるんだな!?」


「ああ、そうみたいだ」


「ロザリアの服はどうだ!?」


「まあ、そんなに大したことはなさそうだ。 修復用の糸で繕うよ」


「そうか。 さて、次は準々決勝だな!? ロゼ、準備は整ってるか!?」


「にへへ〜♪ マロカたんはか〜い〜な〜♪」


「ロゼ!?」


「にょへ?」


「お前、緩んでねぇか!? 大丈夫なんだろうな!?」


「マロカたんならだーいじょ◯ぶだー♪」


「それなら良いが……なんの真似だ?」


「ケンさんだよ!?」


「ケン??」


「ノワール! ロゼがまたわけの分からん事を言ってるが大丈夫なのか?」 


[なんの事ですか!?]


「ああ、ケンさんがどうのって……」


[あ〜……放っておいてくれて大丈夫です。 はい。 そのうち『だっ◯んだ』とか『あい◯ん』とか言っても放っておいてください]


「何だソレ……まあ、わかった!!」


「へんなお◯じさん、へんなお◯じさん♪」



 ロゼが変なダンスを踊りだす。



「ノワール!? 本当の本当に大丈夫なのか!?」


[だ、大丈夫です、たぶん……]


「だーいじょ◯ぶだー♪」


[ロゼ!?]



 この時、箱の中のマロカに、あい◯んのポーズをさせていた事は誰も知ることはなかった。

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