第141話 キング・オブ・ゴーレム8

 ギガロポリス魔導国際ドームの片隅でコソコソと肩を寄せ合う二人の男たち。


 一人は帝国軍魔導予備校の顧問フリッツだ。 まるで士官学校の教官のような身なりをしている。 まあ、然程変わらないのだが、違いがあるとすれば上からマントではなく、ローブを羽織っているくらいだろうか。


 もう一人は帝都教会魔導学院の顧問ヨハンだった。 こちらもローブを羽織っているが、中の服装はまさに司祭のそれだ。


 二人は盗聴防止&防音の魔法石を嵌め込んだ指輪を装備している。



「お前の生徒がバカやった所為で精霊石の存在がバレてしまったじゃねえか……」


「不可抗力だ、仕方あるまい? それに精霊石はすぐに殺させたから、問題はない。 【複合精霊】だと言う事はバレてはいない筈だ。 それよりも次の大会に出場出来ない事の方が痛手だな。 実戦データが取れなくなってしまう」


「まあ、また親善試合でも申し込めば良いだろうさ。 カモならいくらでもいるだろう」


「まあそうだが……。 それはそうと、お前、どう思う?」


「ん、リリーズ魔導学園か?」


「ああ、そうだ。 あの動き、魔法、装備、どれをとっても普通じゃねえ。 反応も速いが、同時にいくつかの情報処理を行っている上に、使っている魔法も平行して多重展開している。

 そして装備だが、魔法はおろか物理にも甚だしく強固な抵抗を示している。 いったいどんな素材でアレを作っているのか……サンプルが欲しいな……どんな手を使っても!」


「お前のところはもう試合に出れないではないか」


「だからこうして頼みに来ているのだろう?」


「なんだ、俺たちそんなに仲良し小好しの関係でもない筈だが?

 もうデウスは居ねえし、オズマ様は既に雲の上のお人だ。

 俺たちはオズマ様について帝国には来たが、帝国では功績を挙げたものから叙勲を受けて自身の立場を確立する、謂わば実力至上主義の世界だ。

 お前と情報を共有するメリットがどこにある?」


「そんなつれない事言うなよ? 一緒に研究してきた仲じゃねえか! こちらの情報も提供するからよぉ」


「まあ、先ず手に入らんことにには何とも言えんな。 いっそゴーレムを……」


「何やら悪い顔になっておるのぉ……ふふふふ…」


「そうか?………ふふ、ふははは…」


 二人はどす黒い笑みを浮かべつつ、それぞれの待機室へと戻って行った。



─『Aブロック・二回戦』第一試合


リリーズ魔導学園

    ✕

ヨトゥン王立魔導学校


 リリーズ魔導学園からはロゼ&マロカ、ヨトゥン王立魔導学校からはアトモス&ヘカトンの対戦となる。

 マロカは一回戦と同じ、魔法少女の衣装とマジカルステッキだ。

 対してヨトゥン王立魔導学校のアトモスのゴーレム・ヘカトンはやはりデカい。 そして無数の玉を仕込んでいると言う噂がある。 それがいったい何なのか……試合が始まるまでは分からない。



『Aブロック・二回戦・第一試合開始!!』


 試合開始のアナウンスが流れる。


─ワアアアアアアアア!!


 同時に声援が観覧席から聞こえて来る。


─ready!! キュイーン…


 ゴーレム・ボックスの継ぎ目に光の筋が走り、四方向に開放されていく。


─fight!! シュウウゥゥ…


─バララララララララ……


 ヨトゥンのゴーレムボックスは開くなり大量の小さなボールが転げ落ちた。


 ヨトゥンのヘカトンの目がギラリと光る!


 同時に転げ落ちたボールが発光し始めて辺りが光に包まれる。


 マロカは片手を頭上にかざして指輪に魔力を、反対の手に持った杖を前に構える。


 ヘカトンの周辺に散らばったボールの地面がボコボコと泡立ってボールを飲み込んで行く。

 そしてみるみるうちに地面から無数の手が生えた!?



「えっ!? 何アレ!? すっご───────っい!!」


[ロゼ! 喜んでんじゃねえっ!! 気をつけろ!!]


「へ〜い♪」


 地面に生えた百近くもある手が、一斉にマロカに襲いかかる!!


─ルンッ


 マロカが身体の前にかざしている杖を中心にバカでかい魔法陣が展開される。



「どん!」



─バララララララ…


 ロゼのひと声で、前方から迫りくる無数の手が粉微塵に砕け散った!



[嘘だろっ!?]


「どん!」



─バキキキキキン!


 今度は粉微塵に散った土が剥がれ落ちたボールが砕け散った。



[いや、嘘だろっ!???]


「どん!」


─……


 三度目は特に何も起きなかった。かと思えたが、


─ピキキキ……パララ……


 ヨトゥンのゴーレム・ヘカトンの表面を覆っていた何かが剥がれて落ちた。



[ああっ!? ヘカトンの魔防コーティングがっ!? 何だよあれ!? 反則じゃねーのかよっ!?]


[特殊魔法のたぐいではないので反則行為ではごさいません]


[まじかー……えっぐい魔法使ってくるなぁ……]


「もう終わり!?」


[調子に乗んなよ!? まだやれるんだからなっ!!]


「その意気やヨシ!!」


[何処から目線だよっ!?]


「えへへ〜♪」


[てか、女か……舐められたもんだぜ!!]


「や〜い! 女に負けてやんの〜!!」


[くっそー!!! 言い返せねーっ!! いや、まだ負けてねーからなっ!! 行くぜっ!!!!]



 ヘカトンの足元に魔法陣が展開されて、ヘカトンの身体が発光し始めた。


 ミシミシと音を立てて肥大して行く。


 マロカの眼光が強くなる!!


─ドゴンッ!!


 マロカの居た位置にヘカトンが地面を両手で叩きつけるかたちで立っている。 地面にはクレーターの様な凹みが出来ていて土煙を上げている。



[ははっ! ザマアねぇな!!]


[おいっ! アトモス! ホイッスルはまだだ!! 油断するなっ!!]


[へっ! 生きてても、どうせこの穴の中だろうよおおおお!?]



─バギッ!


 マロカがヘカトンの右腕を圧し折った音だ。 いつの間にかヘカトンの背後に回って張り付いていたみたいで、動きが止まったところをサブミッション系の技で片腕をもぎ取った。



[ヨトゥンのゴーレムがフィジカルで他所のゴーレムに負けるだなんてっ!? それもあんな華奢なおもちゃの人形みたいな奴に!?]


「はん! 強さは力じゃねぇ! ココだっ!!」



 魔法少女マロカが胸を叩いて親指を立てた!!


 そこを透かさずヘカトンが片腕でマロカを抱き上げた!


 

「あっ!!」



 思わずロゼの口から声が漏れた。



 [このまま上下真っ二つに分かれちまいな!!]


「マロカたん!?」



 ロゼは少し焦った様子を見せたが、次の瞬間には眉間にガッツリとシワを寄せていた!!



「本気だす!!」


[なにっ!?]



 マロカがヘカトンの指を掴んでバキバキと圧し折って行く。



[そんな事をしても逃れられんぞ!!]



─ガスッガスッ!!


 マロカは圧し折った指をヘカトンの目に突き刺した。



「ブラインド!」



 マロカを中心に闇が広がりヘカトンごと飲み込んでゆく。


 二体のゴーレムが完全に闇に飲み込まれると、


─バゴン!


─メキキキキキキッキッ!!


 と言う音が会場に響き渡り、トンッとマロカだけが闇から飛んで出た。


 マロカは動かない。


 少しずつ闇が薄れてゆく。


 やがて何かの塊が闇から現れた。


 ヘカトンだった。


 ヘカトンは三肢があらぬ方向に折り曲げられて、関節と言う関節を屈折させて団子状に丸められていた。


 アトモスは仕方なく降参の合図を出した。


─ピ──ッ!!


 試合終了のホイッスルだ。


[Aブロック・二回戦・第一試合、勝者、リリーズ魔導学園!!]


─ワアアアアアアアアア!!



 審判員と選手両者が審査とゴーレムの回収にステージに入る。


 特に問題もなく審査も終わり、それぞれの選手がゴーレムを回収する。



「おいっ! リリーズ魔導学園!!」


「ん!?」


「お前がロゼか!?」



 大人と子供……と言うよりもさらに体格差がある巨人族の青年アトモスとロゼ。


 審判員が少し様子を見ている。 巨人族のアトモスがロゼを睨みつけているからだ。 しかし。



「か、完敗だ!! 悪かったな!! 興奮して女だからとか酷い事を言ってしまった。 許してくれ!」


「ん、ゆるした!!」


「わははははははは!! 可愛い顔して態度はデカいな!! いや、悪口じゃねえよ? 巨人族顔負けだ!!」


「んふふ。 マロカちゃんは強いでしょ?」


「ああ、強い! とびきり強い!! このまんま優勝しちまいなよ!! そしたら俺も負けた言い訳が出来るってもんだ!!」


「おうよ! 任せときなって!」


「わははははははは!!」


「わははははははは!!」



 Aブロックの二回戦は終了して、残すBブロックの四回戦が、間もなく始まろうとしていた。

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