第140話 キング・オブ・ゴーレム7

─リリーズ魔導学園待機室


 部屋に戻った二年生たちは、次のマリオン先輩の試合まで時間があるので、先程の試合の解析を進めていた。


 メインの魔晶石が破壊されている為に、メモリーに記録されたデータは破損していて取り出す事は出来ない。


 ステージで撮影した画像と残されたゴーレムの損傷から、およその仮説を導き出す他はない。



「キメラの魔晶石にエアルの攻撃が届くまでに、相手の魔晶石を確知して尻尾で突き刺したが、それと同時にこちらの魔晶石にエアルの攻撃が届いて事切れたようだな……」


「まあ、爆発しなかったのは魔晶石が破壊されて、プログラムが作動しなかったためで間違いないだろうな」


「相手が帝国なら別プログラムを作動させたがな!!」


「そんなの作ってたの?」


「まあな、魔石ごと爆発させてやるつもりだったよ!」


「魔力臨界爆発!?」


「いや、そこまでは危険じゃねえよ……そんなことしたら施設ごと爆破しかねんだろ? もっとシンプルに魔石の魔力だけで爆破すんだよ」


「まあ、今回ゴーレムだけだも残って良かったよ。 ガンドアルヴの奴も良い奴だったしたな。 実際戦って楽しかったし、またやりたいと思ったよ!」


「「「そうだな!」」」


「そうか、楽しかったのなら何よりだ。 次はマリオンだな、相手は帝都教会か……帝国軍ほどではないが、油断ならん相手である事には変わりないな!」


「はい、ボルトン先生、ぼくは負けませんよ!! どんな敵だろうと必ず勝ってみせます!!」


「よく言ったなマリオン。 フラグにならないように、傲らず、慎重にやれ!?」


「はいっ!」



 ボルトンが無駄に生徒の揚げ足を取ったところで、待機室から出場前室へと向かう。


─『Bブロック・一回戦』第八試合


リリーズ魔導学園

    ✕

帝都教会魔導学院


 リリーズ魔導学園からはマリオン・ロザリアチーム、帝都教会魔導学院からはコラン・ソラスチームが参戦する。

 帝都教会魔導学院の生徒は全員制服の上にローブを被っており、フードまでしっかりと被っているため相手の顔色を窺うことは出来ない。 相手選手のコランは口元だけが薄っすら見えていて、ニタニタと不気味な笑みを浮かべているように見える。

 また、ゴーレムのコランも鳥の羽根で出来ているようなローブをきこんでいて、頭にも大きな羽飾りが着いている。

 背中に翼を持ち合わせていて、おそらくは飛翔型だと予想される。

 フードの隙間からくちばしが見えていて、ローブの下はほぼ鳥のではないかと思えてしまう。


 先日のCapture The FlagCTFではドヴェルグ魔導具専門学校に勝って二回戦に進出している事から、それなりに強いと思って対応するべきだろう。

 相手のドヴェルグ魔導具専門学校の選手も出場している事から、帝国軍魔導学園ほどの悪辣さは無い様に思える。



[Bブロック・一回戦・最終試合開始!!]


 試合開始のアナウンスが流れる。


─ワアアアアアアアア!!


 同時に声援が観覧席から聞こえて来る。


─ready!! キュイーン…


 ゴーレム・ボックスの継ぎ目に光の筋が走り、四方向に開放されていく。


─fight!! シュウウゥゥ…


 マリオンのロザリアは手を前にかさして、指輪に魔力を流して物理結界を展開する。

 対して帝都教会魔導学園のコランのゴーレム・ソラスは大きな魔石の付いた杖を身体の前に立てて、足元と頭上に魔法陣を展開した。



[おいマリオン、やっこさん魔法陣の二重展開が出来るぞ、注意しろ!]


「ああ、分かってる。 それよりもあの魔法陣の展開は……召喚魔法!?」


[おいマリオン、ちゃんと魔法陣を勉強してるのか? あれは契約魔法の方だ。 召喚魔法ではないので、大会規定には抵触はしないはずだが……]


「ありがとうございます、ボルトン先生。 契約魔法……危険な匂いがしますね!?」



 ソラスの上下に展開された魔法陣から放出される光に包まれる。

 羽根の一枚一枚すら光に包まれていく。


─キキキキキキン!!

─ストトトトトト!!


 ロザリアの防御結界に阻まれて逸れた羽根が地面に突き刺さる。


─ドンッ!!


 ロザリアの足元が爆ぜた!!

 土煙が上がる。


 さらにいくつもの羽根が浮遊する。


─ザザザザザン!!


 土煙の中を目掛けて羽根が突撃した。


─ドドドーン!!


 先程より大きな爆発が起こり、土煙が肥大化する。


─ガギン!


 いつの間にかソラスの背後に移動していたロザリアがナイフで襲いかかっていたが、ソラスが持っていた杖で弾かれた!


 ソラスは魔石に魔力を注力しながら杖をロザリアへと向けて振り上げる。


─バリバリバリッ!!


 雷撃魔法が炸裂!!

 しかし、ロザリアは素知らぬ振りで短剣をソラスへ突き立てる。


─ジッ!! 


 ローブが阻んでいるのか刃が通らない。


─ザザザ……


 ロザリアはソラスから距離を取った。



「駄目だ、ナイフでは刃が立たない!」


[てことは、アレか!]


「そうだな……」



─ガチャリ……


 ゴーレムボックスに戻ったロザリアが徐ろに武器を手に取った。 


 大剣だ。 


─ゴリッゴゴゴ…


 大剣を引き摺るロザリア。 ロザリアの身体と同程度の長さがある、ドラゴンバスターだ。



[ワハハハハハ! 血迷ったかリリーズ魔導学園!!]


 帝都教会魔導学院のコランが高笑いして交信して来た!


「へっ、言ってろ!」



 ロザリアがドラゴンバスターのショルダー部にあしらわれた魔石が輝きを放つ!


─ザリッ!


 ソラスが地面に杖を突き刺した。


─ズガンッ!!!!


 ソラスの足元からロザリアを目掛けて、巨大なロックハンマーが突き出した!!

 ロザリアはドラゴンバスターを身体の前に立てた!


─ドゴゴゴゴゴゴゴゴ!!


 巨大なハンマーはロザリアを突き抜けて背後の壁にぶつかって豪快に爆ぜていく!


─ガラゴロロ…ガコッ…


 後ろの壁際に大きな岩の塊の山が出来た。



[なにぃっ!?]


 

 ロザリアの居た場所にそのままロザリアは立っていた。


 ロックハンマーはドラゴンバスターに切り裂かれて二分されていたみたいだ。


 ロザリアの目が見開かれて輝きが増す。


 ソラスの目もフードの奥で不気味に光っている。


 ソラスは杖を地面に突き立てたままだ。


 今度は四方にロックハンマーが伸びて行く!


 ロザリアを囲むように旋回しながら逃げ場を封じている。


─ズババババババババン!!


 それぞれのロックハンマーが囲み込みながらロザリア目掛けて打ち込まれた!!


 瞬時にゴツゴツとした岩山が出来上がった。


─カロラン…


 しかしホイッスルは鳴らない!!


─ジャギンッ!!


─ズ………ドンッ!!


 岩山に切り込みが入り、爆発するかのように四方に飛び散った!!


 ロザリアから蒸気のような揺らめく気が昇る。

 

 ロザリアの眼光は変わらずソラスを突き刺している。


─ズンッ!


 ロザリアが動く!


─カッ!


 ソラスが大剣を躱す。

 ロザリアが薙ぐ。

 ソラスが飛ぶ。

 ロザリアが斬り上げる。

 ソラスが旋回して、


─ジュッ!


 杖で攻撃するが、

 ロザリアは躱して避け、

 穿った地面が溶解する。

 

─ドガッ! 


 ロザリアがソラスを蹴り上げる。

 ソラスが仰け反るような姿勢で後ろにひるがえす。


─ガガガガガガガッ!!


 ロザリアは大剣で飛んで来た羽根を往なすと、身体を捻ってそのまま大剣をソラスへ叩き込んだ!!


─ガッ!! 


 ソラスは間一髪で大剣を杖で受け止めて、ジリジリと後ろへ押されて行く。


─キイイイィィィ…


 ソラスの杖の魔石に魔力が集中する。


─ドドン!


 二体の動きが止まる。


─ピ──ッ!!


 試合終了のホイッスルだ。


─ガランッガララン…


 ロザリアの大剣が落ちた。


 審判員のフラッグは……。


[勝者、リリーズ魔導学園!!]


─ワアアアアアアアア!!


 ロザリアは大剣を捨てて、ソラスの胸元に手を当てていた。


─ドサッ……


 ソラスが崩れ落ちる。


 ロザリアは審判員が来るまでそのままだ。


 審判員の査定が入り、両選手が立ち会う。


─ピピピッ!


 審判員の持っている探知機の異常アラームが鳴る。



「これは……。 コラン選手こちらへ来てください」


「え? ……はい……」


「この杖の魔石はゲートを通った時とは違いますね?」


「い、いえ、そんな事は……」


「ほう、では解析に出すが構わんね?」


「……す、すみません! 精霊石を使いました!!」


「それでは、反則を認めるのですね? まあ、どのみち勝者はリリーズ魔導学園となりますが」


「はい……認めます」


「それでは、帝都教会魔導学院のゴーレム、及び武器、ゴーレムボックスを運営が没収した後、大会終了後に返却いたします。 帝都教会魔導学院はペナルティとして、次回の大会出場は認められません。 良いですね?」


「はい……」


「それではリリーズ魔導学園の選手はゴーレムを回収してください」


「……はい」


 マリオンはロザリアを抱えて、大剣を拾い上げると、コランを睨んだ。


 そして、特に何も言葉も発せずにその場を離れ、ゴーレムボックスにロザリアと武器を収納して待機室へと戻った。



「何だアイツら! 結局帝国と言うだけで卑怯な奴らばっかりだな!!」


「契約魔法の魔法陣はフェイクで精霊石を使ってゴーレムに受肉させていやがったのか!?」


「しかし……アレは何の精霊なんだ? 土属性と雷属性、後火属性も使っていたような?」


「お前たちにはまだ早い、忘れろ!!」


「師匠!? そりゃあんまりっすよ!? 事実こちとら使われたクチなんですぜぃ!?」


「では少しだけ教えてやろう。 あれは帝都教会が研究している人工物だ」


「え……」


「それって……」


「おいおいおい、マキナさん勘弁してください! 生徒にはまだ早いっすわ……」


「何だボルトン先生、えらく消極的であるな?」


「そりゃ、生徒が可愛いからでしょう? 変な輩に目を付けられたくないですからねぇ? ねえ、マキナさん!?」


「ふん、帝国風情がどんなに息巻いたってあんな中途半端なもんしか作れんのだ」


「ちょ、この人誰が連れて来たんだ!?」


「は~い♪」



 ロゼが後ろで両手を上げて、ぴょんぴょん跳ねている。



「……そ、そうか」


「それよりマリオン、あれ、最後はどのようにして勝ったんだ?」


「ただ相手の胸部への掌底を打ち込んで魔石を割ったただけだが?」


「それならドラゴンバスターなんて必要なかったんじゃないか?」


「え? 見事にあの馬鹿はドラゴンバスターに気を取られてただろう?」


「ああ、そう言う……」


「ただね、あれじゃぁ駄目だ。 もっと圧倒出来なくっちゃ……開幕五分以内には終わらせたかったよ……」


「なんか知らんが、目標高ぇな!?」


「そりゃあ、目指す山がとんでもなく高いですからねぇ、師匠?」


「や、藪から棒に何だっ!? そそ、そんなに褒めたところで何も出んからなっ!?」


─ワハハハハハハハハ!!


 一回戦、リリーズ魔導学園が勝ち残ったのは、ロゼ&マロカとマリオン&ロザリアの二組となった。 

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