第139話 キング・オブ・ゴーレム6

─ガンッ!!


「くっそむかつく──っ!!」



 帝国軍魔導予備校の控室で先程の一回戦から戻ったジョンが、机の脚を蹴飛ばした。


「珍しく荒れてるじゃねえかジョン?」


「これが荒れずにいられるかよ!? メインの魔晶石も斬られて大したデータも残らねえ……やられ損だ!!」


「まあ、モニターからの解析が出るまで何とも言えんが、水で斬られたと考えるべきか……」


「水でアダマンタイト合金が斬れるってのか? 水だぞ!?」


「風魔法で超高圧力をピンポイントで当てれば理論上は可能かも知れないが、それをただの学生が思いつくか? いや、例え思いついたとして、それが再現可能なのか!?」


「お前ら、眼の前にある現実は受け入れろ! そして、どうしてそうなったのかをキッチリと理論付けて考えるんだ!」


「「「「「「フリッツ教授!」」」」」」


「いいか、映像でもモノでも全てデータだ。 そこに仮説を立てれたならば、それに基づいて実験をするだけだろう?

 それとも何か?奴らに出来てお前らには出来ないと言うのか!?」


「い、いえ! そんな事は……」


「ならばやれ! あいつらはお遊びでここに来ているかも知れないが、お前たちは違うだろう!? これはお遊びじゃない、実験だ!! 負けても良いがそれを無駄にする事は、この俺が許さん!! 解ったか!?」


「「「「「「はいっ!」」」」」」



 帝国軍魔導予備校の生徒たちは頭を寄せて、あーでもないこーでもないと議論し合っている。 それを離れた場所で厳しい目で見ているフリッツ。 張り詰めた緊張感で、学生たちの額には焦燥による汗が滲んでいる。



─リリーズ魔導学園・控室



「よーっし! よくやったぞ、ロゼ!!」


「うぇ〜い♪」


「「「「「うぇ〜い♪」」」」」



 皆で舌出してメロイックサインをふらふら掲げている。



「何やってんだ?」


「あ、ボルトン先生。 ロゼが勝ったから皆で喜びを分かち合っていました!」


「そうなのか?」


「うぇ〜い♪」


「……………まあいい。 次はキメラだな、調整の方はもう良いのか? わりと早く順番が回って来そうだぞ?」


「大丈夫です。 まあ、一回戦勝てたら御の字。 二回戦以降は捨て試合になるかも知れませんね?」


「そうなのか? まあ、後悔の残らないように頑張れよ?」


「「「「はいっ!」」」」


─『Aブロック・一回戦』第八試合


ガンドアルヴ王立魔導学園

    ✕

リリーズ魔導学園


 ガンドアルヴ王立魔導学園はの生徒は基本的にエルフ族だ。 つまり魔力、魔法に長けていると言えるだろう。

 技術的な事より、その魔力や魔法に留意する必要がある。

 対戦相手はアスランと言う生徒で、ゴーレムは背中に長い翅を生やした、全体的に細長い印象のエアルだ。

 対してリリーズ魔導学園は二年生チームのキメラだ。 羽はもう付けていない。 少し歪な形の継ぎ接ぎのゴーレムの側面に、ボロボロのシールドだけが着いている。



「ガンドアルヴに負けたとあっちゃ後世の恥だ。 必ず勝つぞ!!」


「「「おう!!」」」


[おい、今度はスイッチ入ってるぞ?]


[リリーズ! お前らに魔法とは何ぞか教えてやるからな? 覚えて帰れよ?]


「おう、教えてくれると言うのなら、たっぷりとご教授願おうじゃないか!! なあ、皆!?」


「「「おう!!」」」


[よし、良い度胸だ!!]



[Aブロック・一回戦・最終試合開始!!]


 試合開始のアナウンスが流れる。


─ワアアアアアアアア!!


 同時に声援が観覧席から聞こえて来る。


─ready!! キュイーン…


 ゴーレム・ボックスの継ぎ目に光の筋が走り、四方向に開放されていく。


─fight!! シュウウゥゥ…


 ガンドアルヴ王立魔導学園のゴーレム、エアルの足元に特大の魔法陣が浮かび上がる。


 魔法陣は黄緑色に輝いてエアルの身体を包み込む。


 キメラは少し距離を取り、首輪に魔力を流して全身に薄い光が広がる。


 エアルは翅を烈しく動かす。


─リ…リリ……リ……


 エアルは両手を地につけて、キメラの様子を窺っているように見える。


「おい、キメラの様子がおかしい……と言うか、こちらからのコントロールが効かねえ!!」


「あの翅の音?が魔力妨害を起こしているのか?」


「そんな技術あるのか? 魔法?」


「帝国のマジックキャンセラー的なやつか? エルフのやつら、そんなもんまで!?」


「いや、マジックキャンセラーは特殊魔法に当たるから反則行為になるだろう!?」


「と言うことは風魔法?音の周波に魔力を乗せている感じでは?」


[ふむ、良い線だな。 フランクだったか、さすが部長と言うべきか? アレは翅そのものが魔導具だ。 言ってみれば足元の魔法陣はエンハンス。 あれで効果を上げて翅で魔法を展開しているのだ]


「師匠!? どうしてそんな事が分かるんです??」


[馬鹿かキミは? ボクを何だと思っておるのだ!?]


「変態?」


「ロリっ娘?」


「ボクっ娘?」


「やっぱり変態?」


[……もう良いわっ!!]


「嘘です師匠! 教えてください!!」


[……]


「師匠は超天才とかじゃ足りなくて、表現の限界を超えていらっしゃるんですよ!?」


[……そ、そうなのか?]


「そうですよ、この変態!」


[それは褒め言葉なのだな!?]


「当たり前じゃないすか? 師匠も言っていたでしょう? 変態こそが科学に革新を齎し世界をその先に押し遣るのだと!!」


[確かに言った。 その通りである!!]


「あ、やべえ!!」


 エアルが魔力を両腕に流して変形させた。 長い腕が両刀に変わる。


 キメラの体表が一層輝いて攻撃に備える。


 エアルの脚がぐっと下がり、両腕の刃で地面を蹴ったと思った瞬間!


─ギンッ!!


 キメラはオートディフェンサーで避けたが一足遅れたのか、一撃でキメラのシールドが滅多斬りにされた。

 パラパラとシールドが細かく刻まれて落ちた。


「何が魔法だ!? めちゃくちゃ物理じゃねえか!?」


[キミたちは本当にアホなのか?]


「ちょっ!? 師匠!? それはさすがに言い過ぎじゃありません??」


[学校で何を学んでおるのだ? 魔法とは特殊魔法でもなければ物理に干渉する力だろう? 魔力をどう使うのか、それが魔法使いではないのか?

 つまり、魔力と頭は使いようだ!! 魔法使いとして彼らを上回りたいのなら、その使い方で奴らの度肝を抜かねばならないだろう!?]


「師匠、なんて説得力だ。 俺たちが本当に馬鹿みたいじゃないか!?」


「しかし、こちらからのコントロールが効かないと話にならんだろう!?」


「ああ!?」



 そうこうしている間にも、エアルはキメラに攻撃を仕掛けてくる。

 エアルの足運びはまるで読めない。

 いや、読めたところで対処出来ないのだ。 オートディフェンサーが無ければ今頃千々に斬り刻まれていたに違いないのだ。


「私がやりましょう!!」


「クレイ!? 何か解ったのか?」


「いえ、何もしないよりは考えうる可能性に賭けたいだけです!」


「何だオメェ、カッケーな!?」


「任せた、副部長!!」


「おう!!」



─バリッ!!


 クレイのマギアグラムに電気が走る。



「おいおい、副部長、大丈夫か!?」


け、キメラ!! 次に相手が仕掛けてきたらカラミティを使うぞ!?」


「え!? 動けるのか? いや、キメラの目が赤いってことは操作が効いてる」


「ああ、魔力じゃねえからな?」



─リ…リリ……リ…


 エアルは翅を擦りながら、その長い両腕の刃で地表を駆る!!


 今度は全身で錐揉みする様にキメラに突っ込んでくる!!


 キメラのオートディフェンサーはオフになっていて、微動だにしない!!


 キメラの目前……いや、キメラの上半身が両刃に抉られたその時。


 ピタリとエアルの動きが止まった。


─バリバリバリリリッ!!


─シュウウウゥゥゥ……


「……」


[……]


─ピ──ッ!!


 試合終了のホイッスルだ。

 しかし、審判員は両旗を水平に振っている。 ドローゲーム、引き分けだ。


 どうやら、どちらのゴーレムもメインの魔晶石が破壊された様だ。


 エアルの両刃はキメラの上体を半分以上抉りつつ、魔晶石を切り裂いている。

 キメラの無駄に長い尻尾が、頭上からエアルの胴体に突き刺さって、まるで魔晶石を狙ったかのように貫いている。 



「何故だ? 不発だった……?」



 本来ならばキメラの攻撃はエアルの魔晶石を貫いて、キメラ諸共爆発する仕様であったのだが、不発に終わっていた。

 と言うのは、エアルの攻撃がキメラの魔晶石を壊してしまった地点で、全てのプログラムが停止してしまったのだ。


 結果どちらも不完全燃焼のまはま終わってしまったと言える。


[ドロー! ノーサイド!]


─ワアアアアアアアアア!!

─パチパチパチパチパチ!!


 両者がゴーレムを回収する為にステージの中に入る。


 ゴーレム同士絡み合っている為に、両者が並び立つ。


 しばし睨み合い。


─ガシッ!


 しっかりと握手を交わした。



「悪い、正直舐めてた!」


「こちらこそ、大きな口を叩いておいて大した事が出来なかった!!」


「いや、あの魔力妨害……あれはヤバかった。 あのまま攻め続けられたら負けていただろう」


「しかし、君たちはこちらの仕掛けを見破って対抗策を練って来たじゃないか! まさか電力まで使っているとは思わなかった!!」


「「良い試合だった!ありがとう!!」」



 ガンドアルヴ王立魔導学園のアスランと、リリーズ魔導学園の四人は、それぞれかたい握手を交わすと、お互いのゴーレムを回収してその場を離れた。


 キメラとエアルは棄権となる為に二回戦の相手は勝ち越しとなる。


 しかし、それぞれの選手はお互いにやりきった、清々しい笑顔でそれぞれの待機室へと戻った。


 本来のキング・オブ・ゴーレムはかくあるべきだと、それぞれの選手たちは思ったのだが……。


 帝国軍魔導予備校の顔付きはそれではなかった。 誰一人くすりとも笑おうともしないのだ。

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