第138話 キング・オブ・ゴーレム5

ゴーレム王決定戦キング・オブ・ゴーレム当日


 Aブロック十六名、Bブロック十六名、全三十二名による勝ち抜き線トーナメントバトルだ。


 ブロックや対戦相手はランダムに決められており、ロゼのマロカと二年生チームのキメラはAブロック、マリオン先輩のロザリアはBブロックに分かれた。


 Aブロックのロゼの一回戦はなんと初戦であり、相手はしくも帝国軍魔導予備校だ。

 同じAブロックの二年生チームの相手は、ガンドアルヴ国立魔導学園で、Bブロックのマリオン先輩の相手は帝都教会魔導学院となっている。


 観覧席には大きなモニターも設けられており、AブロックはBブロックの、BブロックはAブロックの対戦模様が映し出される仕様となっている。



「ノワール君、昨日の試合でゴーレムを見ていて思ったのだが、アレはヤバい代物だな?」



 ピコ君は皆が行くからと何となくついてきたクチだが、昨日の試合を観てからと言うもの、めちゃくちゃ興味を持ち始めている。



「そうですね。 帝国軍が軍事利用目的にこの試合をモニタリングしている様にしか思えません」


「おいおい、あまり過激な発言は小声でしてくれよ?」


「あ、すみません。 つい過去の記憶が思い出されてしまいまして……」


「過去の……記憶?」


「ええ、以前アスガルド皇国でアスラと言うオートマタですかね?見たことがあるのですが、とても危険な存在だと感じました」


「ちょっ!? ちょいちょい!! 待った待った待った────っ!!」


「え? どうしたんですか?」


「ちょっと待って!」



 ピコ君が指輪を取り出して何かしらの魔法をかけた。 おそらくは防音系の魔法だろう。 そうか……この話はヤバいのか? いや、ヤバいか。 迂闊にも喋ってしまったが……防音魔法をかけてくれたみたいだし、このメンバーなら……。

 少し信用し過ぎか?いや……帝国と繋がっていなければ、信用に足るか。 ヨトゥン、ガンドアルヴは帝国と冷戦状態の筈だし、マーナガルムにあっては植民地支配される対象だしな。



「ノワール君、エカチェリーナさん、ノラさん、マキナさん、話す時は口元を隠して話してくれますか?」


「「「「はい」」」」


「あたくし、あまり聴きたくありませんけど、聴いておかないとイケないようね?」


「私は是非とも聴きたいです!」


「弟はアホだ」


「姉さん!? まあ、口が滑った事は反省してますが、姉さんだってあまり人の事言えませんからね?」


「ボクは知らん!」


「ノワール君?そもそも論だが、アスガルド皇国は今鎖国中で一般人は入れない筈だが?」


「あれ? ピコ君はハイモスさんのお知り合いでは?」


「ああ、確かに学友で古い友達だ。

 アスガルド開放運動で捕まったが、何とか逃げおおせたとしか、……君の話は聴いてないな?」


「ハイモスさん、もしかしたら僕の手前黙っていてくれたのだろうか?」


「ボクの弟子は優秀だな」 


「師匠はポンコツで変態ですがね!?」


「ノワール? いつも言っておるが、そんなに褒めても──」


「──それでですね……」


「おいっ!?」


「ハイモスってあのアスガルド開放運動の悲劇の英雄の!? てか、マキナさんの弟子!?」


「チェリーさん、ハイモスさんて、そんな二つ名持ってるんですか?」


「ええ、アスガルドの開放運動家としてはそのトップに名を連てますわよ?」


「そうなんですね……僕の中ではヴァルカンさんの友達くらいのイメージしかありませんでした」


「ヴァルカン!? ヴァルカンって建塔師のヴァルカンか!? 君は何もんだ!?」


「へ?」


「ヴァルカンと言えば我が国最高峰の魔導建築士だ、ヨトゥンの至宝とも呼べる巨匠だぞ!?」


「へ? いやいや、何故ヨトゥンの至宝と呼ばれる巨匠がわざわざ帝国領のシン・バベルに!?」


「シン・バベルは建築界の最前線とも呼べる現代建築技術の結晶の様な建物だからね。 勉強もあるけど、建塔師として出向いている他の巨人族の様子を見に行ってるんだよ……正直、国から出て欲しくはないんだけどね?」


「へえ。 ヴァルカンさんって凄い人なんですねぇ」


「人ごとっ!?」


「え? だってガン鉄で弁当食べて話しただけの仲ですから?」


「人族の弁当なんかで腹の足しにもならんだろ? ……あ、失礼」


「いえ、でもまあ、喜んで食べてましたから……」


「ちょっと君の話は情報量が多過ぎる。 ハイモスとヴァルカンの話は置いておこう。 それよりもその後の話だが……?」


「アスラ、ですか? あれはヤバいですね、三面六臂四脚とかアホなんですかって、言いたくなります」


「三面六臂四脚……」


「ノラさん? ……顔色が……あ」


「………………あのバケモノはアスラと言うのですね」


「そうか、マーナガルム侵攻にも使われていたのか……嫌な事を思い出させてゴメン!」


「いえ、これは向き合わなければならない事実、私は逃げない!」



 ノラさんは強い決意を感じ取れる面持ちで語る。



「帝都教会の奴らが殺戮兵器アスラと呼んでたので、作られた目的が既にヤバいんだ。 もしかするとだが、マーナガルムはその実験対象にされたのかも知れない……」


「うっ……」


 ノラさんが口元に手を当てて、押し上げてくるモノを抑え込む。


「三面六臂四脚の殺戮兵器アスラ……」


「機動力、戦闘力はもちろん凄かったのですが、持っていた武器はアダマンタイトすら切断します」


「まるで戦った事があるみたいな口ぶりですわね?」


「まあ……」


「「「ええっ!?」」」


「いやまあ、負けましたけどね?」


「でも生きてますわよ?」


「それはその……すぐにてん……移動しましたからね?」


「……普通逃げることなんか出来なさそうですよね?」


「じゃあ、運が良かったんですね?」


「……そう言うことにしておこうか」


「きっとアレだけじゃないんじゃないですかね? ゴーレム?オートマタ?」


「他にも鳥の悪魔と獅子の悪魔がいます……うぷっ」


「ノラたん!?」


「チェリーさん、大丈夫です。 そのアスラの事は我々獣人族は異形の悪魔と呼んでおりました。 鳥の悪魔は鳥の顔・羽・脚を持つ一見魔物のガーゴイルを思わせる風貌で、獅子の悪魔は獅子を被りシタールと呼ばれる楽器を持つ魔術師だと聴いています。

 どれも強力かつ自立型の兵器だと聴きました」


「自立型?……帝国の奴ら……」


「ピコ君はそれを聴いてどうしようって言うのさ?」


「ん? いやまあ……悪いけどそれは言えない」


「あら、ピコたん? 皆さん言い難い事を言ってくださったのは、貴方を信用しての事ではなくて?」


「チェリたん……そう、だな。 しかし、やはり言えない。

 でもね、誓って言うけど、ボクは決してキミたちに敵対するモノではないし、本当に大切な仲間だと思っている事は疑わないで欲しいんだ……わがままなのは分かっているけど、今は言えないんだ。 ごめんなさい」



 ピコ君は皆に深く頭を下げた。 仮にも王族が頭を下げるのだから、よほどの事情だと思って良いのだろう。



「僕はピコ君を信じるよ。 だから話したんだ。 なので頭を上げて欲しい」


「私も皆さんを信用しています」


「ふふ、良かったわねピコたん。 もちろんあたくしも皆様方を信用信頼しておりますわよ? 何かあったら頼って欲しいわ?」


「皆、ありがとう!」


「……さあ、始まりますわよ!?」




─『Aブロック・一回戦』


帝国軍魔導予備校

   ✕

リリーズ魔導学園


 帝国軍魔導予備校は前回対戦したジョンが操縦する『真紅の道化師』クリムゾンクラウンだ。 ジャマーの時とは風体が違い、道化の衣装の上に怪しげなローブを着込んでいる。 武器は無駄に厳つい巨大な杖を両手で持っている。 少し重いのかも知れない。

 対するロゼのマロカは通常の魔法少女の衣装をマキナさんが修繕してくれたモノだ。 勿論武器は魔法少女の杖である。 ロゼはマロカのダメージで少し頭にきていて、帝国軍に対してお怒りモードだ。


 個人戦はどちらかが降参、戦闘不能になるまで、或いは判定、どちらかが反則負けとなるまで戦う。 十五分の時間以内に勝敗がつかない場合は判定、即ち、AIモニターと四人の審判が判定することとなっている。



「よく聴け、帝国のウジムシども! オレはオメェらを許さねぇ!! 首を洗って待っておれ!! ぬわははははははは!!」


[ロゼちゃ〜ん、スイッチ入れてないから向こうさんには聞こえないよ〜]


「─なぬっ!? やりおるな、帝国め……ぐぬぬ」


[─頑張れよロゼッタ!!]


「おうよ! そこで目ん玉ひんむいて見てやがれ!!」


[─わははははは!!]



[一回戦、試合開始!!]


 試合開始のアナウンスが流れる。


─ワアアアアアアアア!!


 同時に声援が観覧席から聞こえて来る。


─ready!! キュイーン…


 ゴーレム・ボックスの継ぎ目に光の筋が走り、四方向に開放されていく。


─fight!! シュウウゥゥ…


 クリムゾンクラウンの真紅のローブの奥で不気味に目が光る。

 マロカは左手を上にかざして魔力を込め、右手の杖を身体の前に構えた。


 先に動いたのはクリムゾンクラウンだ。 お得意の目眩ましに池を蒸発させる。 場内が濃霧に包まれて中の様子が覗えない。


─チュドン!

─チュドン!

─チュドン!

─チュドン!


 大きな爆裂音が四度響き渡り、濃霧が爆風に煽られて霧散して行く。


 クリムゾンクラウンは巨大な杖を構えて動いていない。


 マロカのいた場所は巨大なクレーターが出来上がっていた。 姿が確認出来ないが、ホイッスルは鳴らない。 魔力感知機がまだゴーレム二体の生存を確認出来ているからだろう。


 つまり。


 マロカはクレーターの中で無傷で立っている。 左手は上に杖は前に構えたまま動かない。


 動いてはいないが尋常ではない光が指輪から発せられて、おそらくはその光がマロカを守ったと思われ、そらとは別に杖の先から謎の輝きを放っている。


 クリムゾンクラウンは巨大杖を上に掲げて即時結界を張った。


─ツッ……


 マロカの掲げた杖の先から一条のそれはそれは細い、蜘蛛の糸の様な光が伸びた。


 その一条の光はレーザーポインターのようにクリムゾンクラウンの額を差している。


 マロカがゆっくりと杖を下ろす。


─ツッ……


 杖から放たれていた一条の光は静かに消えた。


─ドサリ……


─ピ──ッ!!


 試合終了のホイッスルだ。 審判がリリーズ側の旗を上げている。


─ザワザワザワザワ……


 会場内がざわついている中、審判と選手が確認と回収に向かう。


 クリムゾンクラウンは真っ二つになって左右それぞれ崩れ落ちている。 身体の中心にあるメインの魔晶石も綺麗に二つに割れた為に試合終了となったようだ。


 回収に来た帝国軍魔導予備校のジョンは煮立ちを覚えた顔でロゼを睨みつけた。



「テメェ……いったいどんな卑怯な手を使った!? このローブは大抵の魔法や物理は効かない筈だ!! 特殊魔法を使ったんじゃねえのか!?」


「……まけ犬のわめき声がきこえる」


「くっそ! てめぇっ!?」


 ジョンはロゼに掴みかかろうとしたが、審判員に制止された。


 ロゼは振り返りもさずにマロカの入った箱を持って帰った。


 ジョンは諦めてクリムゾンクラウンの回収を始めた。

 クリムゾンクラウンの断面はとても鮮やかな断面で、焼き付いた跡もない事から熱線などではない。 そしてよく見ると僅かに濡れている。



「水?」



 ジョンは考えても答えが出そうにもないので、持ち帰って解析する事にした。


 審判員による確認が終了した。


[勝者、リリーズ魔導学園ロゼ&マロカ!!]


─ワアアアアアアアア!!



「よし!! よ──っし!!」


「やったな、ロゼ!!」


「うぇ〜い♪」



 ロゼが舌を出して、人差し指、小指を立てて、メロイックサインを作った。 いやホント、どこで覚えてくるんだ?

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