第137話 キング・オブ・ゴーレム4
一日目、CTFはリリーズ魔導学園の優勝に終わった。 帝国軍魔導予備校には遺恨を残した形ではあるが、おおよそ想定内である。
「お前たち、よくやったな! お疲れ様!!」
ボルトン先生が生徒たちに労いの言葉をかける。
リリーズ魔導学園の生徒たちは、大会出場の為に帝都の二番目に大きな都市『ギガロポリス』に来ていた。 ニヴルヘルからフレースベルグ航空を使って二時間ほどで着く都市だ。
この世界はパスポートは無いが、
ギガロポリスはとても大きな都市だが、会場は空港から直ぐにある「ギガロポリス国際魔導ドーム」で行われている。
国際魔導ドームはギガロポリスの南区に位置しており、現在居るのは宿泊先の『ギガロ空港前ホテル』の一室である。
「ボルトン先生もお疲れ様っす。 帝国軍、ヤバかったな。 あんな奴らと親善試合とか、俺たちが考えなしだったよ……マリオン、お前まで巻き込んでしまってすまねえな……」
「いや、いいんだ。 むしろ感謝している。 ぼくとロザリアが日の目を見れたのは君たちのお陰だ!」
「だがあいつら、次はどんな非道な手段を使ってくるか分かんねぇぞ?」
「ああ、分かってる。 帝国軍が相手だろうと、俺と師匠は負けない!! ロザリアが最強でサイカワだって事を世界中に知らしめるんだ!!」
「おいおい、そいつぁ、マロカちゃんも倒す自信があるってことか?」
「さあな? ぼくが師匠を今すぐ超えられるとは思っちゃあいないけど、やれるだけやってみたいと思っているんだ!!」
「そうか、よく言ったぞ我が弟子よ! 師匠なんてもんは超えるためにあるのだ! かく言うボクもGちゃんを超えるのに必死なのだ!!」
「え……師匠に師匠がおられるんですか? Gちゃん?」
「ん? ああ、Gちゃんはボクの祖父でデウス=プロメットだ。 もう肉体は死んだがな!」
「デウス……………」
「おい、デウス=プロメットってあのプロメテウス事件の!?」
「さあな、そんな事よりもキメラは明日出場させるのか?」
「そんな事って……ぼくたちにとっては神にも等しい人ですよ!? そのお孫さんとか、ほぼ神じゃないですか!?」
「ボクはどこからどう見ても可愛いドワーフであろう? 神なんて可愛げないモノと一緒にするでないわ」
「そりゃあもう!! マキナさんは可愛いですが!!」
「そ! そそそ! そんなに褒めても何も出んからなっ!?」
「師匠、いい加減褒められ慣れてくださいよ!?」
「いやしかし……」
マキナはくねくねもじもじと身体を
「女神!」
「はうっ!」
「いや、天使?」
「ひぎっ!」
「先輩、僕の姉さんを
「ノワール!! せっかく良い気分だったのに!!」
「姉さん、よだれを拭いてちゃんとしてください……」
「おう、そうか……まぐっ」
僕は姉さんの口元をハンカチで拭くと、マロカの様子を見るロゼのそばへと近付いた。
「どうだ? 楽しかったか?」
「うん! でも、私……あいつらキライ!!」
「……ロゼが怒るなんて珍しいな?」
「私のマロカちゃんを
「そうだな……マロカの強化服がこんなになるだなんて、相当の攻撃を受けてしまったな?」
「私たちのキメラにも攻撃していたようだ? ほら、イージスの盾がこんなに……」
イージスの盾と呼ばれたキメラの側面に設けられた盾は、いくつも穴が穿たれており、とても大きなエグリ傷もある。 おそらくはあのランスで乱暴に突かれたり斬りつけられたりしたのだろう。
「とても学生がしたものとは思えませんね? 帝国軍魔導予備校って……軍直属と言う事でしょう? どんな機関なのか怪しいもんだな……」
「そうだな。 あそこにはボクの知人もいるがろくな奴じゃないし、ろくな機関でもない。 殺人マシーンを作り出す為の機関だからな?」
「え、マキナ姉さんの知人?」
「おっと、余計なことを口走ってしまったか……まあ、良かろう、少しだけ話してやる」
少しきな臭い話になって来たが、どんな相手なのか知るには有用な情報だろう。 マキナさんは少し考えて、言葉を選ぶようにしてこぼしていく。
「キミたちは、ヨルムンガンド鉄道を作った人物が誰か知っておるか?」
「たしか……オズマ。 オズマ=エピメット」
「左様。 ヤツはGちゃんの右腕だった男だ。 先程キミたちが言った『プロメテウス事件』だが、アレはヤツが内部告発を起こしたことがキッカケなのだ」
─っ!?
「マキナ先生! それ、ここで話しても大丈夫な
「別に構わんだろう? 事実は何も変わらんのだ。 ヤツはGちゃんが当時研究していたあるモノをどうしても自分のモノにしたかったが為に帝国と取引したのだ」
「身売り……」
「うむ。 まあ、Gちゃんはヤツのことも全てひっくるめて『身から出た錆』だと言って出頭したが、それきり帰って来ることはなかった……」
「あのプロメテウス事件にそんな背景が……」
「そのオズマが研究所の若い研究員五人を連れて出て行ったのだが、その中の一人にフリッツと言うヤツがおってのぉ……ヤツもろくでもなかったが……」
「フリッツって……たしか帝国軍魔導予備校の顧問の先生……?」
「ああ、たしかそんな名前だったような?」
「そうか。 ヤツは今帝国軍魔導予備校に居ると言う情報は入ってはいたが、まさか会場に来ておるとは!? まあ、会いたいとは全く思わんがな!!」
「マキナ先生!! ぼく、絶対に勝ちます!! 少なくとも帝国軍魔導予備校には負けません!!」
「当たり前だ!! 負けたら脱いでもらうからな!?」
「いっ!? ぬ……脱ぐの? わ、わかりました!!」
「おお? 潔いの。 そう言うヤツは好きだぞ?」
「へへっ。 必ず勝って先生を脱がせてみせます!!」
「なっ!? ボクはそんな約束しとらん!!」
「ぼくが負けたら脱ぐんですから、勝ったら先生が脱ぐのでは??」
「か……勝ったら……ぐぬぬ……」
「先生、冗談ですよ!? 先生から頂いた恩恵は計り知れません!! その恩に報います!!」
「マリオン、キミと言うヤツは……また覚悟してしまったではないか!? ノワール!! カレーだ! ボクは帰ったらカレーを所望する!!」
「ええ、良いですよ? 祝勝会しましょうね!!」
「よし! ロゼたん、メンテナンスするから見せてみろ! こんな変態どもは相手してられん!!」
「マキナたん、かおがニヤけてうれしそう♪」
「うっ!? う〜っ、うるさいっ、うるさいっ!! ほれっ! 早く見せろ!!」
「は〜いっ♪ ねぇねぇ、マキナたん? ビームって撃てる?」
「ビームと言うことは光線か……物理的に攻撃力の高いレーザーを撃つには弓ではのぉ……」
「しゅん……」
「そんなにあからさまに落ち込まれると、こっちも傷つくのだ」
「マキナ姉さん? ……ごにょごにょ……」
僕はマキナ姉さんに耳打ちすると、姉さんはぽんと手を打って人差し指を立てた。
「ほむ、それなら直ぐにでも出来そうだ!! 魔法陣さえ組み上がればいける!! ノワール、学園に来た甲斐があったと言うものだな!?」
「ええ、僕だって伊達に勉強している訳じゃありませんからね?」
「え、マキナたん、ビームうてそう?」
「まあ、正直ビームと呼べるのかどうかは微妙であるが、似たような見た目と効果は保証しよう!」
「やっふ〜い♪」
ロゼがいつものお尻ふりふりをして喜んでいる。 うん、可愛い。
「おい、またヤベェもん仕込む気だぜ? マリオン、勝てそうか?」
「ぬぅ……ぼくが約束したのは優勝ではなく、帝国軍魔導予備校に勝つと言う条件だからねっ!? 皆、そこんとこ間違えないで欲しい!!」
サークルのメンバーは特に何も語らずニヤニヤしてマリオンを見ている。
「そ、そんな事より、キメラは、出場するのかよっ!?」
「ウィングの換えが無くて、機動力に問題があるんだよな……まだもう一つのカラミティがあるのだが……あ、これは搦手じゃないけどな? しかし……」
「そう、それを使う時は道連れになるので、結局引き分けと言う事になる。 そしてそれが相手に効かなければその地点で詰みとなる」
「何その両刃の剣的な攻撃!?」
「そうだよな……勝ちを狙えないなら辞退するべきかも知れん。 しかし、相手が帝国軍なら道連れても倒したい気持ちもある!!」
「その意気やヨシ! やってみろ!! 骨はボクが拾ってやる!!」
「おう、マキナ先生のGOが出たぜ!?」
「
「じゃあ、ボルトン先生は反対なんですか!?」
「いんや、かまわねぇ! やってみろぃ!! 若いうちは何度失敗しても良いんだぜ!? とにかく我武者羅に打ち込むことでぃ!!」
「「「「はいっ!」」」」
マリオンの瞳は既に明日を見ている。 他の皆もそれは変わりない。
しかし…
ロゼとマキナは、明日のカレーを夢見ていた。
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