第136話 キング・オブ・ゴーレム3

─『決勝戦』


帝国軍魔導予備校

    ✕

リリーズ魔導学園


 帝国軍はアタッカー・ジャマー・スナイパーと、ガーディアンが存在しない、攻めの編成である。 

 対してリリーズはアタッカー✕2とガーディアンと変わらない。 しかし、ロザリアの存在はすでに周知されていて、スナイパーとガーディアンの両刀使いのイメージが先行している。


 そして最も異質なのが、今までのゴーレムと違いビスクドールの様に美しいと言う事だ。 注目度が異常に高い。

 当然マリオンは悪い気はしていないが、今は試合に集中している。


 Aブロックでは、やはり帝国軍魔導予備校が他を圧倒していたのは言うまでもないが、そんな彼らもリリーズ魔導学園には一目置かざるを得ない状況だ。



「おい……どう思う?」


「ああ、油断ならねぇな?」


「個人戦の前に潰しておくか?」


「それが良いかもな?」


「しかしあいつら……こないだボコボコにした奴らだよな? よく試合に出れたよな?」


「まあ、データをとって分析すれば分かんだろ?」


「それもそうか! クックック……」



 怪しげな笑みを浮かべつつそれぞれのボックスを設置してゆく帝国軍魔導予備校の面々。

 敵陣であるリリーズ魔導学園の方に視線をやりつつニヤニヤとしている。


 リリーズ魔導学園のメンバーはそんな帝国軍魔導予備校の視線をどこ吹く風と無視して作業を終了し、操縦席ラビ・ブースへと移動する。



「あいつら許さねえ……」


「ああ……アポロの仇は必ず……」


「お前ら、もしあいつらが攻撃して来たら……良いよな?」


「「「ああ!」」」


「目にモノ見せてやろうぜ!!」


「あいつらならやりかねねえからな……」


「お前ら、何か悪そうな顔してるが、ヤバい事はするんじゃねえぞ? 来年の出場が、危うくなるからな?」


「ボルトン先生、分かってますって!! 僕らを信じてください!!」


「お、おう……がんばれよ?」


「「「「「「はい(は~い)!」」」」」」



[決勝戦、試合開始!!]


 試合開始のアナウンスが流れる。


─ワアアアアアアアア!!


 同時にものすごい声援が観覧席からあがり、この試合への期待値を物語る。



─ready!! キュイーン…


 ゴーレム・ボックスの継ぎ目に光の筋が走り、四方向に開放されていく。


─fight!! シュウウゥゥ…


 それぞれのゴーレムが起動し、身体強化や魔法陣展開など予備動作を始める。


─タタン!……キキン!


 初めに動いたのは帝国軍のスナイパー・ジュバだ! 『狙撃王ロード・オブ・スナイパー』や『赤い死神』の異名を持つジュバは真紅のマントで全身を覆っていてその全容は見えない。

 ジュバは初手でエントリーフラッグを狙って来たが、ロザリアの防壁展開の方が断然早かった。

 ちなみに前回は砦に魔法陣を展開していたが、今回は違う。 砦に手を広げて瞬時に防壁を作り出していた。


─ザワザワ…


 会場がざわつく。



「ふふ……帝国軍の奴ら焦ってるだろうな?」


「魔法陣の展開無しに防壁築かれちゃあビビるだろう?」


「ああ、それを可能にしたのは魔導具バリア・リングだ。 魔法陣展開の必要がないとかお前の師匠は天才過ぎんじゃねえか?」


「ああ、変態ピーだがな!!」


「違いねぇ!」


─ワハハハハハハハ!!



 次に動いたのはロザリアだ。 投擲によるフラッグ狙いだが、


─シュッ! タン! ギン!


 ナイフが撃ち落とされた!



「あちらさんもとんでもねえな……まあ、むざむざと負けてやる気はねえがな!」


 マリオンがジュバを睨む。



─ボウフッ!


 と、音がしてステージが霧に包まれる。

 帝国軍のジャマー・クリムゾンクラウンはそのまま『真紅の道化師』の異名を冠するゴーレムで、トリックスターの役割が大きい。

 ジオラマに設置された池を瞬時に蒸発させて霧に変え、ステージの視界がほぼゼロになる。



─ガイン! グォン! ディーン!


 硬質なモノがぶつかる様な音はするが、霧の中の様子はまるで分からない。


─シュルル……


 と言う音とともに霧の中で薄緑色の光が発せられて、霧が霧散する。 キメラが翼に風魔法を展開して気流を起こしたのだ。


 霧が晴れて現れたのは巨大なランスを突き出したまま止まっている帝国軍のゴーレム・レッドバトラーだ。 レッドバトラーにも異名があり、『真紅血染めの厄災』つまり相手にしてはならない災いそのものである、と言う意味でつけられた二つ名だ。


 そして。


 ランスの先に小さな人影がもう一つ。


 何とも可憐な魔法少女マロカだ。 マロカはゴーレムボックスに直立で入っているので、当然体長が50センチ程なのに対して、レッドバトラーはかがんで入っており、ランスそのものもが50センチあるのだから、体躯の差は歴然だ。


 が!


 そのランスを片手で受け止めて、平然と立っているマロカは、さながら猛進してくる闘牛を片手で制した幼気いたいけな少女に見えて、異様な光景なのである。 


─ザワザワザワザワ


 会場がいっそうざわつく。 その異様な光景にも驚きを隠せないが、本来傷つけてはいけない対象にレッドバトラーは武器を向けているのだから物議を醸す。


 しかし、過去にも同じ事があったが、霧で視界がないので不可抗力が認められて不問となった事例があるのだ。 その時の相手のゴーレムは再起不能であったが、今回は違う。


 マロカは無傷なのだ!


 当然試合は続行であり、中断されることもない。



「何だあのゴーレム……」


「本当にゴーレムなのか?」


「関係ない。 どのみち残られては困る対象だと言うことが解った。 この体格差の攻撃で無傷とか脅威でしかない。

 脅威の芽は早めに潰しておくべきだろう?」


「そう……すね、部長? 顔つきが怖いっす!」


「ふふっ……ふはははははは!! 本気で潰したくなってきたぜ!!」


「あまり過剰な反則行為はチーム自体のペナルティ、引いては学校そのものが出場禁止になるかも知れないので、ほどほどにしてくださいよ?」


「ふわははははははは!!」


「駄目だこの人……イッちゃってるよ…」


「……………」



─ドゴン!! ボフウ……


 帝国軍のジャマー・クリムゾンクラウンが今度は土魔法で土壌を緩くして風魔法を叩き込んで土煙を巻き上げた。 しかも凄い量だ。



─ガイン! ズガガガガガッ! ズドン!!


─シュルル……


 キメラが風魔法で視界を回復させようと試みるが、巻き上がった土煙は重たく、すぐには晴れそうにない。


─ババン!! ジャギギギギギッ!! ズガン!!


 やがて少しずつ視界が戻り始めた頃、攻撃音と思われる音は止んでいた。



「なっ!?」



 土煙が無くなると帝国軍のジャマー・クリムゾンクラウンが土の中に埋もれて身動きがとれなくなっていた。 見ると埋もれている部分の地表に光沢があり、いかにも硬そうな質感を出している。


 そして、帝国軍のアタッカー・レッドバトラーの武器であるランスが、何故か傷付いて若干歪形に見える。


 あとは、マロカの衣装に少し穴や切れ込みがあるだけで特に外傷は無い様だ。


─ザワザワザワザワザワザワ


 ますます会場がザワつくが、審判は沈黙を保っている。



「くっそ! 全く動かねえ!!」


「仮に掘り出すと傷つきそうだな、諦めろ」


「そんな……シモン!! お前フラッグはまだか!?」


「さっきから霧や土煙に紛れて撃ってはいるが、あの防壁が硬すぎてまるで通じねぇ。 威力が高すぎて使ってなかった徹甲弾も試したが、見ての通りお手上げだ」


「チキショ、どーなってやがんだ!?」


「ギリギリギリギリ……」


「おいジョン、やべぇぞ?」


「部長、クラークが……もう止められねえみてぇだな?」


「部長、ちょっと待ってくれ! 試合に負けちゃ話にならねえ、俺がピンクのとケモノをヤるから、アンタはフラッグを頼みたいんだが!?」


「ギリギリギリギリ……………チッ、早くヤれ!」


「じゃあ部長、危ないんで少し離れてください!」


「………………」



 帝国軍アタッカー・レッドバトラーが少し下がって距離を取る。

 そして帝国軍スナイパー・ジュバが銃口をマロカに向け……。



─ドンッ!!!



 ジュバが爆発した。



「な!? 一体どう言う……」


「おい、審判!? 今のは向こうの攻撃じゃねえのか!?」


[リリーズ魔導学園の方は一歩も動いておりません、むしろ銃口を向けたのは貴方ですよね?]


「しかし、事実オレのゴーレム・ジュバが爆発したじゃねえか!?」


[今、画像が入り確認しましたが、貴方の銃が暴発した様です。 この件での設問はこれ以上受け付けません]


「……………後は任せた、クラーク」


「えらくナメられたもんだな!? 俺はフラッグなんか──」


「──おい、クラーク!! 冷静になれ!! 個人戦もあるだろ!? そっちでぶっ潰せば良いんだ!! 今はフラッグに集中しろ!!」


「くっ………ギリギリ………ギリリッ!!」


「そうだ! 抑えろ! そして勝て!!」


「ああ! 身体強化MAXXXXXマーーックス!!」



─ゲイン!! バキキッ!!



「やべ! 防壁にヒビが……!!」


「マリオン、レッドバトラーはまかせとけ!! 後輩、フラッグは頼んだ!!」


「ガッテン!!」


「さあ行くぞキメラ!! カラミティだ!!」


 キメラは翼を目一杯大きく広げて、レッドバトラーの背後から襲いかかった!! 


─ガンッ!! バリン!! バララ…



「……………止まった!?」


「フラッグは大丈夫だ! ロゼ今だ!!」


「オウ!!」



─チュン……ズドン!!


─ピ──ッ!!


 試合終了のホイッスルだ。 審判がリリーズ側の旗を上げている。



[優勝、リリーズ魔導学園!!]


─ゴワアアアアアアアア!!



 場内が大歓声で会場ごと震えているようだ。



「なあフランク部長、あれ……反則じゃねえのな?」


「ああ、まあ……個人戦には出れねえんだがな?」


「帝国軍の奴らの間抜けな顔みたか!?」


「ああ、最高だな!?」


─わははははははは!!



 ステージを見ると、レッドバトラーの背後から襲いかかったキメラだが、その大きく広げた翼がレッドバトラーに巻き付いて固まり動けなくしている。

 しかし、キメラごと固まっているので、どちらも動けない。 レッドバトラーは傷付いているわけではないので、反則行為ではないと認定されたようだ。



「ゴワアアアアアアアア!!」


「クソッ! 完全にやられたな!?」


「奴らのデータは取れているか?」


「はい。 しかし大きな動きもないので大したデータは……」



─ガンッ!! 

 クラークが机を思い切り蹴飛ばした。



「おい、机に当たるな! 器物破損になりかねん」


「……許さねぇ、ぜってぇに許さねぇぞ!! リリーズ魔導学園!!」



 帝国軍魔導予備校のアタッカー・レッドバトラーの操縦者クラーク、ジャマー・クリムゾンクラウンの操縦者ジョン、そしてスナイパー・ジュバの操縦者シモンは悔しさに打ち震えて、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。



「「「潰す!!」」」



 三人はそう心に誓い、自らのゴーレムを回収にあたる。


 キメラのカラミティは翼を燃やすと簡単に軟化して外せた。

 しかし、地中に埋められたクリムゾンクラウンはまるで金属で固められたようで、掘り出しが難航している。

 銃が暴発を起こしたジュバは上半身が木っ端微塵で、下半身と千切れた腕が転がっている。

 調査によると、銃口に金属質な何かが詰まっていたようだ。 しかし、誰がどのようにして入れたのかまでは、映像では確認とれないでいた。


 回収作業で顔を合わせた両校の生徒は、一言も会話を交わす事もなくその場を離れようとしたが、



「おい、お前ら……」


「クラーク!?」


「大丈夫だシオン。 おい、お前ら顔はおぼえたからな? 個人戦では思い知らせてやる!!」



 クラークは目を血走らせてリリーズの面々を睨みつけた。



「「「おととい来やがれ!」」」



 リリーズの三人はそう言い捨てると、ニヤリとひとつ笑ってその場を去った。



「なっ!?」


「あいつら……くそっ!!」


「っざけやがって!!」



─ 一日目、Capture The FlagCTF リリーズ魔導学園、優勝!!

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