第135話 キング・オブ・ゴーレム2

─『一回戦・後半』第二競技場


リリーズ魔導学園

    ✕

バベル建塔師魔導専門学校


 リリーズ魔導学園はアタッカー✕2・ガーディアンで構成されており、バベル建塔師専門学校はアタッカー・ジャマー・スナイパーの構成だ。



「あちらさんはガーディアンを外した速攻パーティ編成だ。 ガーディアン・ロザリアのガードが要になりそうだな?」


「ボルトン先生、何を言ってるんです?」


「ん、何だ? 何か別の攻略でもあるのか?」


「まあ先生、見ててくださいよ!!」


「おう、そうか……」



[一回戦後半、試合開始!!]


 試合開始のアナウンスが流れる。


─ワアアアアアアアア!!


 同時に凄い声援が観覧席から聞こえて来る。



─ready!! キュイーン…


 ゴーレム・ボックスの継ぎ目に光の筋が走り、四方向に開放されていく。


─fight!! シュウウゥゥ…


 それぞれのゴーレムが起動し、身体強化や魔法陣展開など予備動作を始める。


─ギンッ!


─ピ──ッ!!


 試合終了のホイッスルだ。 審判がリリーズ側の旗を上げている。


─ザワザワ……


 場内がざわめき、審判員が審議に入るが、すぐにアナウンスが流れる。



「ただ今の試合ですが、リリーズ側のガーディアン・ロザリアにより、バベル側の旗をナイフの投擲で落とした事による勝利となります!

 スローモーションによるVTRをモニターに流しますので、皆さんご確認ください!」



 会場の各モニターに試合開始からのVTRが流れる。


 各ゴーレムが予備動作に入っている。 ロザリアはと言うと、目に光が宿っており、どうやら敵旗を捕捉しているようだ。


 次の瞬間右手を前方に突き出し隠しナイフが投擲され、真っ直ぐに相手の旗を突っ切った。


 それだけだ。



[勝者、リリーズ魔導学園!!]


─ワアアアアアアアア!!


 試合時間一・五秒。

 リリーズ魔導学園はキンゴレ史上最短記録を叩き出した。


─ワアアアアアアアア!!


 間もなくAブロックの方でも歓声があがる。 決着がついたようだ。



「Aブロックも終わったみてぇだな」


「おいお前ら、何かイカサマしてんじゃねぇだろうな?」


「ボルトン先生、そいつは酷くないですか? 僕たちはちゃんとゲートをくぐってるし、何もやましい事なんてしていません!!」


「ヘンリックの言うとおりだ。 ちゃんとVTRだって見たんでしょう? ナイフを投げて旗を落とした。 それのどこがイカサマなんです!?」


「いやすまん……つい疑ってしまったが……確かに魔法でもなんでもねぇ、物理での勝利だ。 疑う余地もねえな。 これなら次のヨトゥンも余裕か?」 


「まあ先生、見ていてくださいよ!!」


「お、おい……やべぇぞ……」



─一斉にパウルの視線の先を見る。

 本日の一回戦が終了して、各校次の二回戦の準備をしていて、リリーズ魔導学園の生徒も多分に漏れずに準備をしていたところ、先程対戦したバベル建塔師魔導専門学校の面々が揃っていた。


 じっとこちらの様子を窺っている。



「何だ、うちに何か用か?」



 部長のフランクが前に出る。


 バベル建塔師魔導専門学校の一人が前に出てきて言う。



「二回戦進出おめでとう!! 手も足も出ないとはまさにこの事だ!!」 



 続いて他の二名も前に出た。



「おめでとう! 悔しいけど、本当にお手上げだったよ!!」


「おめでとう! 次の二回戦もエントリーフラッグ決めてくれよな!!」



 ……少し沈黙するが。



「あ、ありがとう!! そう言ってもらえると、こちらも嬉しいよ!」


「個人戦ではフラッグ関係ないので、当たったら宜しくお願いします!!」



 お互いに握手を交わす。 そして、バベル側の部長は言う。



「しかし、良ければ教えて欲しいのだが……スナイパーより速く正確に撃ち抜けるナイフの投擲……あれはどう言う……いや、普通は教えてくれんよなぁ、すまん! 忘れてくれ!!」


「いや、構いませんよ? 普通に目標を捕捉して普通に投擲しただけなので、特別に何か仕掛けがあるわけではありませんからね」


「おいおいおい、そんなわけ無いだろう? あんな正確で残酷なまでに無慈悲な投擲なんて見たこともないぜ?」


「何ですかそれ? だってVTR観たんでしょう?」


「観るには観たが……俺のゴーレムで同じ芸当が出来るかって聞かれたら、出来ないって答えるぜ?」


「ゴーレムの性能の差だと言うのならば、それはそうかも知れません。 しかし、それを教える義理はないですよね? 僕たちは創意工夫をして、今に至っているわけですから……ゲートを潜っている以上、反則はあり得ませんからね?」


「そう……だな。 悪かった。 無駄に時間まで使わせちまってすまねえ。 次の試合、俺は応援してるから、是非とも勝ってくれ! そして帝国軍の奴らも倒してくれると有り難え!!」


「えっ……? 同じ帝国じゃないですか!?」


「あいつらと同じ風に見られるのは嫌だな。 俺たちもあいつらには酷い目にあってるからな。 親善試合と称して俺たちのゴーレムは……くそう!!」



 バベルのメンバーは皆俯うつむいて悔しそうに地団駄踏んだ。



「そ、それじゃあ、まるで僕たちと一緒じゃないですか!?」


「知らねえが、そう言うならそんなんだろうな? 俺たちゃあいつらと同じ帝国だとは思われたくはねえんだよ」


「そう……ですか。 分かりました! きっと期待に応えてみせます!!」


「おう! オレっちにまかせとけいっ!!」


「誰ですか?」


「あ、うちのマスコット部員です。 お気に障りましたらすみません……」


「いえいえ、女子部員がいるとか羨ましい限りですね、それもこんなとびきりの美少女!!」


「はい、ありがとうございます……」


「てやんでぃべらんぼうめぃ! やめろい、てれるじゃねぇか!?」



 ロゼは鼻の下を左手で擦りながら、右手をひらひらさせて顔をそっぽ向けた。



「この娘、何を言ってるんです?」


「いやまあ、僕にもよく分かりませんね……」


「そうなんですね?」


「はい……」



─『二回戦』


ヨトゥン王立魔導学校

     ✕

リリーズ魔導学園


 ヨトゥンは先程の試合を見て、フォーメーションを変えてきた。 アタッカー・ガーディアン✕2となっている。 リリーズは変わらずアタッカー✕2・ガーディアンとなっている。



「やはりガードを固めて来たが、何か対抗策はあるのか? それともまたエントリーフラッグ狙いか?」


「ボルトン先生……俺たちの敵は帝国軍魔導予備校のみですよ。 他の学校は物の数ではありません」


「まあ、目ん玉おっぴろげてよぉ〜く見とけぃっ!!」


「お前ら……別にいいが、ロゼが感染してないか?」


「旦那ぁ、それは褒め言葉ですかぃ?」


「……いいから集中しろ!」



[二回戦、試合開始!!]


 試合開始のアナウンスが流れる。


─ワアアアアアアアア!!


─ready!! キュイーン…


─fight!! シュウウゥゥ…


 それぞれのゴーレムが起動し、身体強化や魔法陣展開など予備動作を始めるかと思われたが、ヨトゥンのガーディアンはすぐさまフラッグの前で肉壁を形成したのだ。


 そして。


 リリーズのガーディアン・ロゼリアは砦に魔法陣を展開して、防壁を作り上げた。


 防壁はつるりと光沢があって実に美しい。


 その間にズンズンとヨトゥンのアタッカーが、リリーズの陣内へと踏み込んで来ていた。


 防壁を作り終えたロザリアは砦を後にしてアタッカー二人と合流し、ヨトゥンのアタッカーの横を通り過ぎる。

 その間にもヨトゥンのアタッカーは真っ直ぐにリリーズの砦にへと向かい、防壁への攻撃を繰り出そうとしている。


 リリーズの三体のゴーレムはそれぞれ魔法陣を、敵陣目掛けて展開した。

 ヨトゥンのガーディアン二体は微動だにせず砦を強固に守っていて、全く入り込む余地はない。


─ガキン!! ギンッ!!


 ヨトゥンのアタッカーゴーレムが巨大なハンマーを振りかざして防壁を攻撃するが、とても硬質な音が鳴るだけで、まるで刃が立たない。


─ガイン!! ゴンッ!!


 しかし諦めずに何度も叩きつける。 それこそどんな防壁だろうと壊れてしまいそうな、強烈な打撃が繰り出される。


 リリーズのゴーレムが魔法陣の広域展開を終えて魔力を流した次の瞬間!


─ドゴンッ! ……ゴゴゴゴゴ……


 大きな爆発音のような物音の後、地鳴りのような音が鳴り、ヨトゥン側の地盤が崩れ始めて地滑りを起こす。

 ヨトゥンのガーディアン諸共地面が砦を飲み込んでゆき、肉壁が崩れた。



─ギンッ!


─ピ──ッ!!



 フラッグがあらわになった瞬間に、試合終了のホイッスルが鳴る。


 ヨトゥンのフラッグは見事な断面を呈して切り落とされている。 そうだ、ロザリアのナイフの投擲によって穿たれたのだ。



[勝者、リリーズ魔導学園!!]


─ワアアアアアアアア!!



 圧倒的な攻守の差を見せつけて、リリーズ魔導学園はヨトゥン王立魔導学校を下した。



「へん、どんなもんでぇ!」



 副部長のクレイがピョンと飛び跳ねて両手を打った。



「なあ、クレイ……お前まで毒されるとは思ってなかったぞ?」


「……私、今に何か言ってました?」


「まあ……気持ちはわかる。 分かるが、まさかお前が……な?」


「そうか、言ってましたか……」



 と、別に落ち込む様子はなく、むしろ口角がつり上がって怪しげな笑みになっている。


 そう、リリーズのサークルメンバーは今、自分たちの実力を実感して、その感動に打ち震えていたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る