第131話 ココの召喚魔法

─放課後・学園入口の池の畔


 学園入口、池の畔の遊歩道のベンチに移動した一同は、ココの指示でココとピコの二人を残して離れることになった。



「この池、名前があるのは知っているかな?」


「えと……すみません、存じ上げません」


「うん、そうだよね。 ルクス・ラクナって言うんだって」


「へえ、光の池ですか、なにか由来があるのかな?」


「うん、当然池なんで水の精霊さんがたくさんいるんだけど、他にも光の精霊さんがたくさんいるんだじょ」


えるんですか?」


「ああ、えるし、実際にたくさんいるじょ? 池に設置された精霊灯のせいだけど、精霊灯に供給される魔力に集まって来るんだじょ」


「え、あれ精霊灯なの? 初めて知ったよ!」


「うん、こうして精霊はとても身近にたくさん存在しているんだじょ」


「はい、そうですね」


「その精霊にぼきゅたちは様々な恩恵を授かっているのは感じるかな?」


「何となく?」


「では、きみはそんな精霊をどうしようと言うんだい?」


「召喚して使役……いや、利用……。


………………。


そうか!! ボクはなんて愚かなんだ!!」


「ぼきゅは召喚魔法を教える事は出来ないし、精霊門エレメンタルゲートについても詳しくは話せないじょ。 だけど、特別に紹介してあげようか、ぼきゅの友達を!」


「友達? ですか?」


「うん、ぼきゅの一番の友達だじょ!!」


「分かりました! お願いします!!」


「ふっ……ふふふふ……。

ふははははははははは!!

よかろう!! とくと見よ!!」


「こ、ココさん!?」



 ココ=ベアトリクスはダークエルフだ。 褐色の肌にプラチナブロンドの髪、身体のところどころに入れ墨が入っていて、ムチムチの豊満ボディ……とは程遠い寸胴……もとい、スレンダーな体型だ。


 やたら大袈裟な身振り手振りで、無駄にくるくる回り、右手に嵌めた精霊の指輪エレメンタルリングに魔力を流し始めるココ。

 精霊の指輪には精霊門エレメンタルゲートの幾つかの魔法陣が予め刻み込まれているのだ。



「顕現せよ精霊門エレメンタルゲート!」



 エレメンタルリングが煌めきを強くして、幾つかの魔法陣が展開されると、精霊門(エレメンタルゲート)が出現する。



「クーちゃん、ご飯だじょ!!」


─っ!?



 精霊門のから発せられる光の中に、薄っすらと影が差す。 影が少しずつ大きくなり光が弱まると、呼び出された精霊の色形が少しずつ露わになる。



「わん!」



 ココの足元に仔犬が一匹、尻尾を千切れそうなくらいに振りまくっている。



「犬!?」


「犬とは聞き捨てならんな!! 失礼極まりないじょ!!」


「えっ!? だって……え? 精霊? 精霊なのっ!?」


「わん!」


「ほら、クーちゃんもそう言っておるではないか!! そもそも犬ころが精霊門から出て来る理由わけがあるまい!?」


「わん!!」


「もしかすると……クー・シー……なの…なんですか? もっと大きな精霊をイメージしておりましたが……?」



 クー・シー、すなわちクーちゃんは手のひらサイズの小犬の様な出で立ちで、毛色は薄緑色で少し長めの尻尾はくるりと丸まっている。 ピンと立てた耳は長めで体毛より毛色は深め、脚部の毛色は浅めである。



「クーちゃんは幼少の頃よりのお友達なのだ! 失礼は許さないじょ!?」


「わん!!」


「なんか、ごめんなさい!」


「分かればよいのだじょ、ピコ君!」


「わんわん!!」


「それにしても凄いですね、ココさん! こんな仔い……せ、精霊を召喚出来るなんて、僕がいる召喚魔法のクラスの生徒にもまだ居ませんよ!? ゲートを開ける事だってままならないのに……て言うか、ココさん召喚魔法クラスですよね?」


「クラスを専攻しておるのは、召喚魔法の現状を確認するためじゃ。 自分の精霊を見せる為に選んだ訳ではないじょ!

 そしてピコ君、ゲートは開けるものではない、精霊さんに開けてもらうのだじょ。 賤しきダークエルフ風情に開けられると思うではない!」


「う〜わん!!」


「なんか……とても腑に落ちるお言葉です。 そして精霊さんともちゃんと意思疎通出来ていらっしゃる。 お友達と言われるのも本当だったのですね!?」


「ぬわはははは!! そうだ! クーちゃんとても凄いのだじょ!」


「わんわわん!!」


「………………」


「ほれ、クーちゃん、これを食べるのだ」



 ココは昼飯の残りの『オジャマンペ』を包み紙から取り出して、クーちゃんに食べさせた。



「どうだクーちゃん、オジャマンペは好物であろう!?」


「わん!!」



 クーちゃんはひとくちでオジャマンペを食べ終えると、ココへと向き直った。

 クーちゃんは尻尾をブンブン振り回して、口を大きく開けて舌を出し、息を荒くしてヨダレを垂らしている。



「すまんクーちゃん、今日はこれだけなのだじょ……」


「くぅ〜ん……」


「何か、ボクの為に申し訳ないです。 クーちゃんさん、今度はボクもオジャマンペをお持ちしますので、今日のところはお許しください!」


「う〜……わんっ!!」


「了解したって言っておるじょ」


「えっ!? ココさんは精霊の言葉を理解出来るのですか?」


「言葉は知らん。 ここで感じるのだ」



 と言ってココは無い胸をトンッと叩いて言う。



「心……ですか。 おそらくはチェリたんとグラトニーがチャネリングしているようなものだろうか……。 きっと思念のようなもので対話しているのですね!?」


「知らん!」


「わん!」


「……ココさん、クーちゃんさん! 今日はとても勉強になりました!! ボクは精霊召喚のことを根本から思い違いをしていたようです! ボクはもっと精霊の勉強をして、明確なイメージをもって交渉してみようと思います!!」


「それが良いじょ」


「わん!!」


「それではせっかくクーちゃんを呼んだので、ぼきゅは一緒に遊んでくるじょ!!」


「わんわん!!」


「そうですか。 ココさん、クーちゃんさん、貴重な時間をありがとうございました!!」



 ピコはココとクーちゃんに深く頭を下げると、二人が見えなくなるまで見送った。


 その一連のやり取りを確認した僕たちは、ピコ君の元に集まって興奮気味に語るその話を聞いた。



「キミたちもありがとう!! ココさんとクーちゃんさんに会わなければ、ボクは一生精霊召喚なんて出来なかったと思うよ!! まだ、出来ると決まった訳ではないけれど、以前よりはずっと自信が持てるんだ!!」


「ピコたん、良かったわね♪」


「ロゼもクーちゃんと友達になりたーい!」


『おまっ!? オレサマと言う相棒がいるのに浮気性だな!?』


『おやおや? フェルったらやいてるのかなぁ??』


『そ! そんなこと……あるわけねぇだろ……シロのばか』


『……シロ?』


『おっと、クルクル女! テメェにはカンケーねぇよ!』


『く、クルクル……ちょっと酷くありませんこと!?』


『うっせ!』


『あはは〜、クルクル〜』


『ぐぬぬぬ……』


『珍しく押されてますね、チェリーさん』


『あたくし、こんな屈辱は初めてですわ!!』



 チェリーさんはデバイスを取り出して、おそらくはスチュアートさんに連絡をとるのだろう。



「スチュアート! このあと美容室を予約しておいてくださいな!! ……ふん、問答無用です!!」


「え!? チェリーさん、髪をお切りになるんですか!?」


「ノラたん、止めないで!! あたくし一度決めると一以貫之いついかんしいたしますの!!」


「そんな!! お綺麗ですのに勿体ないです!!」


「いいえ! 縦巻きロールがオシャレだと思っていた自分の思い込みだったかも知れません。 一度リセットしますわ!!」


「まあ、チェリーさんならどんな髪型でもお似合いになりそうですが……私なんかは耳が邪魔で髪型なんてそんなに選べませんからね……」


「あら、ノラたん? 自分の可能性に蓋をするのは宜しくなくってよ?? 縦巻きロールになさるかしら?」


「ひっ!? いえいえいえいえ、私なんかはとてもとても!! 今のままで大丈夫です!!」


「スチュアート!? あと一人予約とってくれます?? あ、獣人族の娘だから耳まで切らない様にちゃんと伝えておいてちょうだい? ……そう、私の大切なお友達なので丁重に扱っていただきますわ!」


「エカチェリーナ様っ!?」


「お金の心配なら不要よ? 私のわがままを聞いてもらうのですもの?」


「ちょっ……チェリーさん……わ、わわわ、分かりました!! お、お付き合いいたします!!」


「よし! ロゼッタもいく!!」


「あらあら、では皆でいきましょうね!!」


「ぼ、僕は晩御飯の準備があるから──」


「ボクは召喚魔法のれん──」


「─スチュアート!! あと二人メンズの方も予約入れておいて!! それからレディースもあと一人追加で!! そう!! よろしくね!!」



 と言うわけで、揃って美容室へ行くことになった一行は校門を出ると、一路ナーストレンドの街の駅前にある『ビューティーサロン・アマデウス』へと向かうのであった。

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