第120話 オーディション予選3

「アルミラージを倒します!!」



─ザワザワ……




「はい、リオさんの特技はその圧倒的な戦闘能力と言うことで、このたび特別に運営本部にてアルミラージを捕獲して用意いたしました。

 お!? 運ばれてきましたねぇ。

 皆さん獰猛なアルミラージと聴いて不安に思われているかも知れませんが、心配ありません。

 この十メートル四方の結界ケージの中で戦ってもらいますが、これはオーディションです。

 リオさんには流血は無しで、このアルミラージを倒していただく事を約束していただいております!!」



 舞台中央へアルミラージが入った結界ケージが運び込まれて、被せてあった大きな布が取り払われた。


─オオォォ…


 中では、あの頭に角が生えた白いうさぎ型の魔物、アルミラージが元気よく跳ね回っている。

 運営本部としては最大限の安全対策として、アルミラージに首輪を着けている。 危ないと判断した場合は直ぐに対処出来るのだ。


 リオは臆することもなく、両手を挙げて小さな身体を大きく見せている。



「じゃあ行くよ!? みんな、一瞬なんでよく見ててね!?」



 と、観客に手を振るとケージの中へと入った。


 アルミラージは少し警戒してケージの端で威嚇している。


 リオは大きく股を開いて、挙げていた両手を体の前に下ろすと戦闘ポーズをとった。


─キン!


 どちらが放ったのか強烈な威嚇音が空気をつんざく。


 しかし、どちらもひるむ様子もなく対峙している。


 リオはニヤリとひとつ笑うと、上体をゆっくりと落としていった。


 そして、リオの片手が地面に──触れたかどうか!


 リオの身体がその場から消え。


 アルミラージが残像を残して、何かしらのアクションを起こした次の瞬間──!?


 ケージの真ん中で立ち尽くしたリオと、足元に横たわるアルミラージの姿が確認された。



「だ────!!」



 リオは両手を挙げてガッツポーズをとった!!


─ワアアアアアアアアア!!

─パチパチパチパチパチ!!



「凄い!! 本当に目にも止まらぬ早業でした!! 何が起こったのか解らなかったので、超スローモーションで観てみましょう!!」



 舞台後ろの大きなスクリーンに映像が映写される。


 映像はいくつものカメラで撮られていて、すぐにプロの手によって編集されたみたいだ。


 リオのアップからアルミラージのアップまでパーン(水平移動)されて映像が流れる。


 警戒して毛を逆立てているアルミラージ。


 余裕の表情で身体を大きく見せているリオ。


 キンと言う音とともに一瞬画像が揺れてチリチリとした空気の音がスピーカーから聴こえる。


 リオのアップになり、小さな口の端が吊り上がる。


 リオの体制が少しずつ落とされて、片手が地面を引っ掻くように殴りつけ、リオの身体が弾丸の様にアルミラージへと跳ねた。


 一方、アルミラージは両足を交互に地面に叩きつけて、右に左にと大きくステップを踏んで一直線に突き進んで来るリオを牽制しようとした。


 次の瞬間リオの身体が一気に旋回して起動がアルミラージへと向かい、片手を真っ直ぐにアルミラージの額へと伸ばすと。


 パチコ──ン!!


 と音が聴こえたかどうかは判らないが、アルミラージの額にコンパチを決めた!!


 アルミラージの頭は後に仰け反りながら既に失神しているのか、白目を剥いて口元が軽く開いている。


 リオが身体をひるがえしてその場に降り立つと同時に、どさりとアルミラージは力なく倒れた。



 紛れもなくリオがアルミラージを倒した映像であるが、まさかコンパチでアルミラージが倒せるとか、誰も理解が及ばず息を呑んでいる。


 念の為に運営本部から特別審査員として、万が一の場合も想定して呼んでおいたネモが査定に入る。


 リオはレッドウルフ・狼人種の獣人族ネモを見て少しギョッとしたが、オーディション中なので何も言葉を発しなかった。


 ネモはアルミラージを拾い上げると、クタクタのアルミラージとリオの片手をとって持ち上げ、リオの勝利を宣言した。


─ワアアアアアアアアア!!

─パチパチパチパチパチ!!


 同時に歓声と拍手で会場が震える。


 リオは満足げにぴょんぴょん跳ねて一頻ひとしきり喜んだ後、ズンズンと舞台袖へ歩いて行き……。


(リオサンアイサツワスレテマス!)


 少し引き返してペコリとお辞儀をすると、恥ずかしげにそそくさと隠れた。


 会場はリオの話題で一色になる。


 マグヌスは少しキュンとしながらも、やはり彼女リルが出て来るのを待ち侘びている。


─別室


「凄い……アルミラージが瞬殺!?」


「お、一人ゲットか!?」


「さすがノラちゃんのお友達だね〜♪」


「どっちに組み込むかは兎も角、彼女は良いと思いますね」


「ねえ、ノワールさん?」


「クロートーさん、どうかしましたか? 彼女に問題でも?」


「いえ、そんな事よりおかわりはございませんの?」


「……仕事しないなら帰っても良いんですよ?」


「アトロポス? ちょっと厨房見て来てくださいな?」


「わかりましたわ!」


「……………」


「ロゼも欲しい」


「おいっ!?」



─会場



「さて、会場がリオちゃん一色になったところで、今回の事前人気投票一位のアンネローゼさんの登場です!! 少しタイミングが悪かったでしょうか、しかし、順番なので頑張ってもらいましょう!!」



 一度舞台が暗転して結界ケージが回収され、センターマイクが再度設置されていく。


 再び舞台に照明が灯り、舞台袖からアンネローゼが手を振りながら出て来た。


 出て来ると同時に会場から割れんばかりの歓声が浴びせられ、リオ一色の空気が一瞬で入れ替わった。 それもそのはず、実際に会場に来ている見学者の半数近くは彼女の投票者なのだ。


 アンネローゼはセンターマイクにたどり着くと、一度会場と各カメラを見回してニコリと笑った。 その瞬間、会場からため息が漏れて更に空気が変わる。



「これは……」



 審査員席のマダムがひとつ呟いたが、その後の言葉を続けなかった。



「皆さんこんにちは〜♪ 今日は遠いところ、わざわざ足を運んでいただいてありがとうございます!!」



 アンネローゼはペコリとお辞儀をすると、長いピンクブロンドの髪を大きく揺らして上体を上げた。 目を細めて軽く頷くと。



「私の名前はアンネローゼと言います♪ もう知ってる方も、まだ知らない方も宜しくお願いします!!」



─ワアアアアアアアアア!!



「じゃあ、特技を披露しますね♪ 私の特技は変身です♪ これからこの舞台で七変化しますので、皆さんお付き合いくださいね♪」



─ワアアアアアアアアア!!


 すぐに舞台中央にパーテーションが用意された。


 現在の彼女は甘ロリを意識したコーデで、白いフリルの付いたブラウスに大きなリボン、ワインゴールドのショート丈のスカートを履いている。 足元もスカートに合わせたワインゴールドのショートブーツだ。

 髪はピンクブロンドのぱっつんストレートロングで、どこかモモを思わせるコーディネートだ。


 彼女は少し前に出てひらりとスカートをひらめかせて回るとパーテーションを向かって右から入った。


 すぐに左から出て来ると、髪はベージュブロンドでハーフアップにしている。

 全身ゆるふわコーデでフリルがたっぷりのベージュのワンピースに白い花リボンをあしらっている。

 よく見るとメイクのせいか、顔付きも変わっていて、少し垂れ目でおっとりとした雰囲気になっている。



─オオオオオオオォ…


 会場から感嘆の声が上がる。


 そのまま舞台中央の前まで来ると、ふんわりと回って元の位置に戻るとひとつお辞儀をしてパーテーションへ。

 どうやら、これを繰り返すらしい。


 最前列のわりといい席に座っているマグヌスも、口を開けて呆けた顔でうっとりとしている。


 そして流れる様に進む七変化。


 次はタイトな青いマーメイドドレスでコバルトブルーの髪、キリッと吊り目で凛々しい顔付き。


 黒いゴシックメイドの服装で、黒髪で編み上げてアップにしてヘッドドレスを着け、メイクはパッチリお目々の清潔感のある雰囲気だ。


 かと思えばアッシュブラウンのショートカットでボーイッシュに白いブラウスと半パンにサスペンダーを付けて、メイクは薄めに少しヤンチャな感じを出している。


 次は純白のウェディングドレスの様なコーデだ。 たっぷりとしたスカートだが、ショート丈にしてカジュアルに手を加えている。 短めのヴェールを舞台中央で上げて投げキッスをする。

 場内から歓声が上がりキュン死者が数名。


 最後は薄紫のセクシーなゴスロリで、背中に小さなコウモリ様の翼をあしらったモモキッスのキッスを連想させる出で立ちで現れた。 

 アンネローゼは舞台中央で最高の笑顔でキメて、センターマイクまで戻り一礼をした。


─ワアアアアアアアアア!!

─パチパチパチパチパチ!!


 モモからキッスまでの見事な七変化に会場の盛り上がりも最高潮だ。


 マグヌスはフワフワとした気分で相変わらず呆けた顔で舞台を見ている。

 ハッと夢から醒めたような顔をして、頭を振り舞台を見直すと我に返った。


 

「皆さん、お目汚しになるのではないかと、些か不安もありましたが、お楽しみいただけたみたいで良かったです♪ 長い時間、お付き合いありがとうございました!」



 アンネローゼは今一度お辞儀をして、楚々とした歩みで舞台袖へと消えて行く。


─パチパチパチパチパチ…


 鳴り止まぬ拍手が彼女を見送った。


 それでもマグヌスの推しに揺るぎはなかったが、少し不安が過ぎって来た。 リオとアンネローゼは確定ではなかろうか? 

 となると残りは一枠だ。 その枠に滑り込めたなら御の字だが、そうでなければ……。


 マグヌスは心の動揺に目を泳がせながらも、彼女の出場を待つ。

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