第119話 オーディション予選2
どうして彼女から目が離せないのだろう?
確かに可愛い。
しかし飛び抜けて光るモノがあるわけでもない。
事実、事前人気投票も最下位だ。
コレを恋だとか呼べるほど、彼は彼女の事を知らない。
もし、これが恋ならばオーディションになんか受かって欲しい訳が無いのだから。
彼は舞台の上で輝く彼女を見たい。
見てみたい。
そう切望するのみだった。
彼女の名はリル。
名前の通りとても小さい。 そして可愛い。 可愛い。 めちゃくちゃ可愛い。
しかし、表情はパッとしない。 少しおどおどして、不安そうに周囲を気にしているようだ。
投票サイトに載せられていた写真は家族が撮った写真なのだとか。 とても自然で優しい微笑みが、他の美少女の笑顔をあざといものに感じさせるほどだ。
そんな感じも含めてマグヌスは、彼女を守ってあげたい、支えてあげたい、アイドルにしてあげたいと、そう思えた。
オーディションは精鋭揃いだ。 皆とても可愛く、ハツラツとして、パッと花が咲いたような明るい笑顔を持っている。
正直、あのリオと言う娘はヤバい。 事前投票で人気だった三人とは比較にならないくらいに輝いている。 それも、あざとくない!! とてもナチュラルにキラキラと輝いている!!
リルがいなければ、彼もきっと
あれ? これってもうリルとリオで良くね??
と、良く分からない結論を導き出したマグヌスは、何故か満足気にオーディションの成り行きを見守っている。
オーディションは次の選考に入っている。 自己紹介と特技の披露だ。
「さ〜て! 次は事前人気投票二位のマリーベルさんです! それでは、自己紹介と特技、披露してもらいましょう!! どうぞ!!」
マリーベルは舞台袖から静々と歩いてくる。
舞台の真ん中、マイクの位置まで来ると、クルッと回ってピタッと止まった。
マリーベルはサキュバスの魔族だが、角や羽は小さく、髪の毛はツインテールにして頭を振る度に揺れている。
「あの、あの、あの、マリーベルと言います!! 事前人気投票では沢山の票を入れてくれてありがとうございますっ!!」
マリーベルは大きくペコリとお辞儀をすると、最高の笑顔で上体を起こす。
それを見ていた観客にもフワフワッと笑顔が咲き乱れて行く。
「それでわっ!! 特技を披露しますねっ!!」
舞台の中央に大きなモニターが用意される。
観客は何が行われるのか分からず、ザワザワし始めている。
「私がこれから披露するのわっ!! フラッシュ暗算でっす!! ……どう? 嘘だと思う? まあ、見ててくださいっ!! このモニターにランダムに十桁の数字が十個表示されるので、それを全部足して行きま〜す!!」
─ワアアアアアアアアア!!
─ブーッ
4793832167
9743752796
6468543267
5426897640
7584286576
8795952754
9417428084
5793928548
2754870743
1753708538
しばしの沈黙のあと。
「62533201113」
─ピンポンピンポーン♪
─ワアアアアアアアアア!!
─パチパチパチパチパチ!!
「どう!? ビビったぁ!? えっ!? アイドルに関係ないでしょって? そりゃそうだね!! アハハハハハハ!!」
─ワハハハハハハハハハ!!
マリーベルは大きくお辞儀をして、また笑顔を振り撒くと、ブンブンと手を振って退場した。
拍手と歓声が凄い!
マグヌスは少し焦った。 が、まあ成るようにしか成らないだろうと、思う他なかった。
─別室
「どうですか?」
「我々三姉妹に聞くのは愚問であろう? 結果は見えておる」
「じゃあ、何故ここに?」
「退屈なのよ〜〜〜!!」
「……。 で、ロゼとマキナさんは?」
「「「ひどい!?」」」
「私はリルたん♪」
「ロゼ、彼女はまだ何もやってないだろう?」
「ふむ、しかし、あの娘はスタッフにもちゃんと挨拶しておったぞ? スタッフと全く関係のない、トイレに行ったボクにも挨拶して来たくらいだ」
「へぇ〜? で、そのマキナさんは今の娘どうですか?」
「どうも何も、凡人だろう? フラッシュ暗算が何だと言うのだ? ボクなら桁が那由多でも計算出来るが?」
「姉さんに聞いたのは間違いでしたね?」
─会場
それから何人か自己紹介と特技を披露するが、皆それぞれ可愛らしく、おおよそが歌やダンスを演じてみせた。
皆横並びならまだ可能性はある、と、マグヌスは考える。
「さあ! 次は事前人気投票、三番人気だったリーゼロッテさんです!! 今度は何を披露してくれるのでしょうか!?」
舞台袖からマイクを持って現れたリーゼロッテは、自己紹介をしながら軽くボイスパーカッションをしながら、リズムに乗って歩き出した。
「ブンツクブンツクブンツクブンツクブンツクブンツクブンツクブンツク……
パッパーッダパッパーッダパッパーッダパー
パッパーッダパッパーッダパッパーッダパー……
ブクチーパーチーブクチーパーチーブクチーパーチー
ブクチーパーチーブクチーパーチーブクチーパーチー……」
─ダン!
足を踏み鳴らす大きな音が一つ。
「HEY! アーッシがリーゼロッテDEATH!!」
─ワアアアアアアアアア!!
─パチパチパチパチパチ!!
「アリガトー!! じゃぁね、アーッシの特技見せちゃうZE!! え? もう観た? ンーン!! まだこれからDA―YO!!」
─ワアアアアアアアアア!!
〜♪(音楽)
トントントントン…
ツッタクタクタクツッタクタクタク…
ツクタカツクタカツクタカツクタカダッダッダッダ…
ドンッ!
……
ツッツクタッタカツッツクタッタカツッツクタッタカツッツクタッタカツクタカツクタカツクタカツクツクツクツクツクツクツクタカタカタカタカタカタカタンタタンタンタタントタトトチテトタチテトタチテトタンタタンタンタタンタカタカタカタカ…
ダダン!!
─ワアアアアアアアアア!!
─パチパチパチパチパチ!!
彼女はちょこんとスカートの端をつまみ上げてお辞儀を済ませると、満足気な顔付きで颯爽と舞台袖へと消えた。
「はい、リーゼロッテさんありがとうございました!! ボイパからのタップダンスとか、何だか盛りだくさんのアピールポイントかありましたね!? とても期待値高そうです!!」
─別室
「駄目、ですね……」
「そうなの?」
「うん、アイドルは多才に越したことはないのだけれど、大前提として可愛くなくっちゃ……彼女の場合、格好良いが先に立っちゃって……カッコ可愛いならまだ良かったんだけどね?」
「そう言うもんなのねぇ、良く分からないけど?」
「そう言うもんなんです」
「あと、ああ言うタイプは他のメンバー蹴落としてでも前に出るタイプです。 前に出るタイプではなく、推し出されるタイプを探していますからね?」
「「「へえ?…モグモグ…」」」
「ラケシスさんたち、審査に興味ないでしょう? スフレタイプのチーズケーキばかり食べてるじゃないですか!!」
「だってフワフワでしっとりしていて美味しいんだから仕方ないでしょう!?」
今回審査員の皆さんにお茶請けとして振る舞ったのは、ケットシー洋菓子店で好評のスフレタイプのチーズケーキだ。 底にレーズンが敷いてあって、アクセントになっている。
「貴方が用意したんじゃありませんこと?」
「そうですわ!? こんなに美味しくって、太ったら責任とってくれますの!?」
「……仕事しないなら帰ってくれます??」
「「「断固として拒否します!!」」」
「モグモグモグモグ……モグ?」
「ロゼ? ……まあ、いっか」
ロゼの頬袋はパンパンで喋ることが出来なかったらしい。
「おあーう、あえいえ!?」
「ロゼ、飲み込んでから言おうな?」
「ん! モグモグモグモグモグモグモグモグ……ごきゅん! げふぉ! ノワール、あれ見て!! ノラたんがいるよ!?」
「え!? 出場者名簿には……いや、付添人の方か!? 誰か知り合いでも、出るのかな??」
「ん〜?」
「これか……獣人族のリオ? ホワイトライオン種……へえ? ちょっと面白そうな娘だね?」
「そうなのか? あ、本当であるな!! この写真、目が半開きだ!! モグモグモグモグ…」
「マキナ姉さんも、ちゃんと飲み込んでから喋ってくださいよ? ロゼが真似するんですから」
「次、出ますわよその娘」
「え、そうなの? あ、ほんとだ……」
─会場
「さあ、どんどん行きましょう!! お次は可愛らしい小さなライオンちゃんのリオさんです! どうぞ!!」
タッタカタッタッター…
(ア、リオチャンハシッチャダメ…ア…)
─ビターンッ!!
「………………」
舞台上のマイクまでたどり着く前に、盛大に足を滑らして顔から倒れたリオ。
一瞬の静寂。
リオはのそりと立ち上がってセンターマイクの前にたどり着く。
「ん……リオです!! 地面に喧嘩売ってしまいました…ちょっと痛い…です!」
おでこが真っ赤に腫れているが、隠すこともなく仁王立ちしている。
─ワハハハハハハハハハ!!
「特技やります!!」
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