第118話 オーディション予選

 ムジカレーベルが主催する『新グループアイドルオーディション』の会場は全国に五箇所設けられている。


・ミッドガルド帝国首都ミッドガルドとシン・バベルに二箇所・計六名

・ニヴルヘル冥国首都ナーストレンドに一箇所・三名

・ガンドアルヴ精霊国首都ブレイザブリクに一箇所・三名

・マーナガルム獣王国(帝国植民地)に一箇所・三名

 

 ヨトゥン王国、ドヴェルグ王国は体格差の為に開催されず、メア=スヴァルト辺郷国は鎖国中の為に開催されていない。

 また、アスガルド皇国は帝国の占領下にあり、天界ヴァナトピア輝国は帝国と交戦中の為に開催されていない。

 ヘルン亡国(魔大陸)は魔王・テュポーンの占領下にある為に開催されてない。


 各国の情勢や種族的な問題から、開催される国は限られるものの、これほど大規模なオーディションはかつて類を見ない。


 各会場には各国の多数の放送局が入り、世界中の注目を集めている。


 募集要項として挙げられているのは次の通り


・身長150センチ〜170センチ

・年齢・体重は不問(種族的に少女であること・肥満ではないことを基準とする)

・歌って踊れること(言語はユグドラシル標準語)

・協調性と節度を持って仲間と切磋琢磨出来ること

・秘密を守れること


 以上の五つだ。


 体格差で、ヨトゥンやドヴェルグでは予選こそは開催されなかったが、体格が見合う者ならば資格があるために、他国の予選へと応募する巨人族やドワーフ族もいるのだとか。


 ナーストレンドでの予選前人気投票の結果は上位三名がダントツで票を稼いでいる。


一位・アンネローゼ

   …5675万票

二位・マリーベル

   …3458万票

三位・リーゼロッテ

   …3197万票


 四位以下は一千万票を切っている為に表示されない。


 本日見学者の大半も彼女らのファンが多い。


 ナーストレンド会場の審査員は五名。

 

大会運営本部:ローレン


スポンサー:マダム・ヘンリエッタ


アーティスト:ベノム


アーティスト:ヘレン


特別ゲスト:ルキナ


 ルキナが何者なのかの問い合わせが多数寄せられているが、運営本部がひと蹴りにしている。 噂が噂を呼んで、冥王関係者だと噂されている。 が、あながち外れではない。


 取材は受けないものの、写真等は沢山拡散されて、ウェブニュースを賑わせている。



 司会進行役はパーティーでも好評だった【ベラドンナ】のマリアさんだ。 当然、その横でスケジュールをみて進行のチェックを行っているのはダフネさんである。



「さて、ついにやって来ました『新グループアイドルオーディション』!!

 全国各地から選りすぐりの美少女たちが各予選会場へと集まっております!!」



─ワアアアアアアアアアア!!


 リリーズキャッスル会場での見学者は男女合わせて百名ほどである。 いずれも抽選で当たった者たちで、凄まじい熱気を発している。



「予選は先ず、課題曲のビデオを参加者に送っておりますが、各自歌とダンスを練習して来てくれていると思いますので、それを披露していただきます。

 全員一緒に行いますので、なるべく周りをよく見て、合わせるように踊ってください。

 歌にあってはそれぞれマイクで音を拾いってデジタル審査が行われます。 歌ってなければすぐに分かるのでご注意を!!」




─ワハハハハハハハハハ!!


 マリアは会場を見回して、横に置いていた水を一口飲むと続ける。



「課題曲を終えると順番に自己紹介と特技を披露していただきます。 披露される内容にあっては、予めこちらに通達していただいている内容でお願いします。

 選考内容は以上となります。


 さあ!


  本日予選に選ばれた二十名の美少女の登場です!!


 皆さん、拍手でお迎えください!!」



─パチパチパチパチパチパチ!!



 ステージの緞帳が上げられ、舞台ステージが現れる。

 ステージにはとても大きなスピーカーが左右に二台設けられていて、他にも大小多数のスピーカーがぐるりを囲っている。


 降り注ぐ照明が舞台ステージを煌々と照らし、二十名の参加者が胸を高鳴らせて並んでいる。 衣装は特に指定はなく、動きやすい服を着ているわけだが、皆ステージ衣装を意識しているのか、全体的に華やかだ。


 審査員のルキナはもちろんルキナである。 その目を通して、冥王関係者が全て見ている訳だ。 もちろん、ルキナ自身も見ている訳だが、他の審査員の耳にはワイヤレスイヤホンマイクが装着されていて、別室で観ているノワールと通信している。 リリーズキャッスルの別室にはノワール以外にもマキナとロゼ、モイラ三姉妹も控えている。



[どうも、ノワールです。 皆さん返事をせずに聞いてください。

 今回のオーディションはアイドルの原石を探すオーディションであって、既にカットを施されたダイヤを見つけるオーディションでは無い事を、今一度お伝えしておきます。

 それから、人となりはとても大事で、誰からも愛されるような、そんなキャラクターの持ち主を選んでもらいたい。

 仮にそんな人物がいないのならば、合格者ゼロでも構いません。

 逆に合格者が多くても構いません。 今回の選考ではふるいにかけますが、しっかりと拾って行きましょう]


[[[[……………]]]]


[それから、予め話しておいたについては別です。

 ルキナやマッキーナ、各会場の隠しカメラを通して関係者に観てもらっているので、そちらで審査いたします。

 当事者には選考後通達いたしますが、合格しても本人が受けるかどうかは別となりますので、受けてもらえなければ再選考となります]



 ノワールの意図は予め全員に周知されているが、今一度確認している。

 

 主催者のローレンはその目をギラつかせて、新しい事業に全力で取り掛かっている。

 これはまだ皮切りに過ぎないのだ。 今後も増え続けるであろうグループアイドル、ユニットアイドルの先駆けとしてきっちりと向き合わねばならない。

 先日デビューしたヘレンは連日テレビやイベントにひっきりなしにオファーが来ており、近いうちにコンサートがいくつも予定されている。

 モカマタリやサマエルの人気もうなぎのぼりで、コンサートや小さなツアーも企画として上がっている。


─タンッ!


 ローレンは本日五本目の栄養ドリンクを飲み干した。

 横に座っているヘレンが少し心配そうな顔で見ているが、当人はやる気満々なのだ。 既に誰にも止められない勢いで走ってい──


─パン!!


 マダムがローレンの頭を叩いた!


「何をなされるんですか、マダム!?」


「ヘレンはアナタの何?」


「私の部下で会社うちの大切な従業員です」


「アナタ、部下や従業員が不安そうな顔でアナタを見ているのに何とも思わないのかしら?」


「はあ、私が何か悪い事でもしましたか?」


「アナタが不健康な生活をしてるから、ヘレンが心配してるのは目に見えているじゃない!! そんな事も判らないのかしら?」


「はあ……しかし、私の代わりなんていませんからね!?」


「それが解っていて、どうして判らないのかしら? アナタ、賢そうに見えて馬鹿なのね?」


「はあ……?」



 さすがのローレンも少し苛立ちを覚えたようだ。 しかし。



「働き過ぎだって言ってるのよ!? そんなに栄養ドリンクばっかり何本も飲んで、いったい何人分働いているのかしら?? そんな自分に酔っているのではなくって!? でなければ、本当に馬鹿なだけだわ!?」


「しかし……さっきも言いましたが、私の代わりなんていませんので……」


「だから言っているのが判らないの!? アナタの代わりなんて何処にも居ないのよ!? アナタが倒れたら誰が後を引き継ぐの!? 誰もいないんでしょう!?」


「それは……!?」


「アナタの開けた大穴を埋められる人材が育たないうちは、アナタはちゃんと休養を取るべきなのよ!! 解るわよね!? それが今のアナタの最優先の仕事かしら!!」


「はい……面目ない」


「……解ったなら良いわ。 このオーディションが終わったら先ず一週間、休みなさい?」


「い、一週間も!?」


「休みなさい!!」


「はい!!」


「ヘレンさんやベノム君も休みなさいね!?」


「「はい!」」



 誰にも止められないと思っていたローレンさんの勢いを、マダムは一発で止めてしまった!!


 本当にマダムこの人には頭が上がらないな。 しかし、ローレンさん、このオーディションは頑張ってもらうとしましょう!!



〜♪♫♬♪♫♬♪♫♬


 軽快に会場に音楽が流れ始めて、舞台が震えだす。 


─ダンッ!!ダダン!!キュッ!!ダダン!!


 曲目は何と言ってもMOMO&KISSモモキッスの『あなたはどっち?』だ。 皆が慣れ親しんで歌も振り付けも、年端もいかぬ子供たちがこぞってが真似しているくらいなのだ。


 モモパートとキッスパートに分かれて、歌とダンスを披露する。 ちゃんと練習してきた者なら簡単に出来て、周りとも合わせやすい。



アナタはどっちを

恋人にしたいの?


「天使なあたし」

『小悪魔なぼく』


どつちか決めて!

どっちもはダメ!


「小悪魔な天使」

『天使な小悪魔』


「さあ」

『さあ』

「『さあさあ!』」


「『ねえ…どっち?』」


〜♪♫♬♪♫♬♪♫♬



 歌い終えて、舞台上の二十名の美少女は微動だにせず静寂を保っている。



─パン!



「はい、ありがとうございましたー!! みんな良かったですよー!! もう皆合格で良いんじゃないかなあー?」



─ワアアアアアアアアア!!

─パチパチパチパチパチ!!


 一旦緞帳が降ろされて休憩が入る。


 見学者の人たちは、やれ自分の推しが良かっただの、あの子は駄目だ、とか言っている。


 マグヌスは生で彼女を見られた事に感激して言葉も出ないでいる。 もうキュン死しているのではないかと思えるほどに固まっていた。

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