第110話 メリアス=マグノリア

─学生寮・ノワールの部屋


 僕は寝不足解消の為に、ロゼがしつこくちちんぷいぷいするって言うのを断って、自分のベッドで睡眠に就いていた。


 ロゼは残念そうだったが、僕だってちゃんと睡眠はとりたいのだ。


 とは言え、昼くらいまで熟睡していたおかげで、昼からはまるで眠れそうになかった。


─コンコン⌒☆



「メリアスでつ。 ノワール君起きてまつか?」


「はい、どうぞ?」



─ガチャ……

 扉を開けてちょこんと顔を覗かせるメリアスさん。

 メリアスさんは魔族の中でもドライアド族と言う植物系の種族らしく、体や体毛まで緑っぽい色合いをしている。

 このニヴルヘルでは別に珍しくもないのだが、余所者だった僕には少し新鮮な感じを覚える。



「どうでつか☘身体の具合は?」


「どうって、メリアスさんからいただいた解毒剤はちゃんと効いていますよ? もう動けるのですが、今日は講義を休もうと思いましてね?」


「……とうでつか。 ぁたちのニド君がご迷惑かけてごめんなたい! もう❀こんな事が無いように気をつけまつ!!」



 メリアスさんは深々と頭を下げた。 僕は手をひらひらとさせて、「大丈夫だから」と言うがなかなか頭を上げてくれない。



「メリアスさん?」


「は☘はぃっ!?」


「メリアスさんは講義は無かったんですか?」


「えっと……とのお……ぁたちも休んぢゃいまちた!! てへっ✿」



 なんだ、メリアスさんもおサボりか……ん、僕のせい?



「メリアスさん、それじゃあ少しお話しましょうか。 あ、何か用事があるなら構いませんが……」


「ぁりまてんが……つこちはづかちぃでつ」


「ん? 恥ずかしい?」


「はぃ。 ぁまりぉとこの子と話つ事なんてぁりまてんから……」


「そうなんですね、なら構いませんよ? 無理なさらないでください」


「で☘でも! つこちだけなら!!」


「……はい、では少しだけ♪」


「はぃ✿」



 僕はメリアスさんに椅子を勧めると、メリアスさんは少しモジモジしてから、えぃっと勢いよく座った。 どうやら椅子に座るのに勇気が要った様だ。


 メリアスさんの薄い黄緑色の頬が、ほんのりピンクに染まる。 メリアスさんはそれを隠すように頬に手を当てた。


 本当に恥ずかしいみたいだな……。



「メリアスさんはキャロライン教授の元で、魔法植物の研究をしているらしいですね?」


「はぃ! キャロライン教授はとても素敵なぉひとでつぉ! ぁたちも教授のようになりたくてお手伝ぃをちてぃるでつ!」


「キャロライン教授は今はどんな研究をなされておられるんですか?」


「教授は今❀魔法植物による魔法生物の完全蘇生を試みてぉられまつ」


「魔法植物による魔法生物の……完全蘇生っ!? それはまたとんでもない研究をされているんですね!?」


「はぃ☘教授はつごぃんでつ!!」


「しかしそれは、いったいどう言った原理で完全蘇生とか出来るのですか?」


「はぃ✿話つと長くなるので簡単に説明いたちまつね?」


「あ、なんかすみません。 簡単にお願いします。 とても興味深いです」


「植物の中には生き物に寄生つる植物がぁるのでつ。 生き物に取り憑き❀魔力を補給つるのでつが☘逆にとの生き物が負傷などつると植物が光合成や大気中の魔素の供給によって✿その生き物を再生つるのでつぉ」


「つまり、その寄生植物を利用して蘇生させるのですね? しかし、いったいどうやって……?」


「はぃ☘ との寄生植物は宿主の遺伝子情報を読み取り❀何か合った場合☘との情報から復元ちてぃくのでつが✿との宿主の魔石と遺伝子情報がぁりたえつれば❀生命反応が途切れたとちても☘再生出来るのではないかと言ぅのが教授の仮説でつ」


「なるほど。 つまり、その基礎となる魔石と遺伝子情報をその寄生植物に与えてやれば、光合成と魔素を与え続ける事で蘇生も可能となる、というわけですね!!」


「ノワール君は飲み込みが早くて話がはやぃでつね?」


「いやいや、とても興味深い話だったので!!」


「もち興味がぁるなら☘ぁたちから教授に話ちてぉくので❀見学に来ると良ぃでつぉ」


「え!? 良いんでつか!? っあ!? す、すみません!!」


「ゥフフ✿ 良ぃでつょ♪」


「あ、ありがとうございます!!」



─ガタン!



「!? 玄関ですね? 誰か来たんですかね?」


「ぇ……ぁたち☘ぁの玄関ぁけられなぃでつ……」


「まあ、寮長が開けてくれるだろう?」


「でつね♪」



─学生寮・玄関



「ピコたん開けられる?」


「……自信ないけどやってみるよ!」



─ガッ……ザン!!



「……割と簡単に開いたね?」


「あたくしではびくともしませんでしたわよ?」


「私も……凄いです!」


「ロゼたん、大丈夫?」


「…………………うん」


「とりあえず入ろう!」



─ドン!!

 一同が玄関に入ると、スクルド寮長が長剣を片手に、仁王立ちに構えて待っていた。



「よよい!! よく来たな、道場破りども!! ここを通りたくば、このオレを倒して征くがよい!!」


「あ、寮長! お久しぶりです!」


「なんだ、つまらんのぉ! ノワールの友達ではないか……奴なら寝込んでおるぞ?」


「はい、お見舞いに参りました!!」


「ほほう……して、手土産なぞはあるのか?」


「勿論ですわ! スチュアート!!」


「はい、エカチェリーナ樣! ここに」


「例のものを出しなさい」


「は! ここに……」


「おお!? これはケーキか!? た、た、食べても良いのか!?」


「それはノワール君のお見舞いで持って来たものですわ。 皆さんの分もございますので取り分けてもらえると助かります」


「ふむ、相わかった! ゆるりとしてゆくが良い!」



 寮長は長剣を地面に突き立てて、食堂へと消えて行った。


─コンコン⌒☆



「どうぞ〜」



─ガチャ……



「「「おじゃまします」」」


「おお!? 皆来てくれたんだ?」


「どうなの?」


「うん、もう毒も抜けたんで大丈夫だよ」


「あ、メリアスさん?」


「はぃ❀こんにちゎでつ」


「ノワたん、メリアスさん部屋に連れ込んで何やってたの?」


「えっ!?」


「今日、ロゼたん落ち込んでたのに! ここでメリアスさんと何をやってたのっていってんの!!」


「ロゼ?? そう言えばお前、そこで何隠れてんだ?」


「……………グス…」


「あんた!? ロゼたんに何を言ったの!?」


「えっ!? いや、僕は何も言ってないし、何もやってないぞ!?」


「ロゼ?? いったいどうしたんだ? 言ってくれないと分かんないぞ?」


「ロゼは……いらないこ?」


「ノワール!? あんた、本当にロゼたんに何を言ったの!?」


「違う!! 何かの誤解だ!! 僕はロゼの治癒魔法を断っただけだぞ!?」


「どうして断ったのよ!? こうして、ズル休みして、メリアスさんと過ごすため!?」


「ノワールさん酷いです……」


「ノワたん、ボクは今回は助けてあげられないなぁ……」


「え? いや……しかし、だから誤解だって!! ロゼ??」


「だって……だって……ロゼは、すごくしんぱいしてたのに……ノワールがいらないっていって……」


「それは違う!! 違うくないけど違う!!」


「あんた、最低ね!?」


「ん〜ん、にぃにはいつも最高。 きっとロゼがダメなの……」


「ロゼ!? ああああ、もう!! そうだ、僕が悪かった!! ロゼ、許してくれ!! 僕は講義を休んでゆっくりしたかっただけなんだ……悪気があったわけじゃないし、メリアスさんとも話していただけだ!!」


「………………お休みしたかったの? なんで?」


「お前と姉さんが僕のベッドを占拠して眠れなかったからだろ? 僕は朝までリビングの床で気絶してたんだ。 すぐに治せたからって学園に行く気にはなれなかったんだよ。 悪かったけど、理解して欲しいな……」


「じゃあ、ロゼはいらない子じゃない?」


「当たり前だろう? お前の居ない人生なんて……ゲフンゲフン!」


「ロゼのいない人生なんて、なあに?」


「いや……その……何だ……アレだ!」


「どれ?」


「お前がいないと淋しい。 お前が笑ってないと……僕も笑えない。 だから、笑ってくれないかな? ……僕には君の笑顔が必要だ」


「ほんと?」


「ああ、本当だ。 だから笑ってくれよ、な?」


「そうだぞ? ノワール君はシスコン確定だ! ロゼたんの笑顔があれば毒だって消える!」


「あらまあ、ノワールたんはシスコンでしたのね!?」


「ノワールさんはシスコン……」


「そうですか❀ノワールたんはシスコンでつか」 



 当然、僕に視線が集まる。 しかし、ロゼの顔には花が咲き始めているのだ。 その顔を見て僕は覚悟を決めた。



「ああ、僕はシスコンだ!! 誰が何と言ってもシスコンだ!! ロゼ、こっちにおいで!」


「うん♪」


「よ〜しよしよし、兄さんが悪かったな、機嫌直してくれよ?」



 僕はロゼの頭をくしゃくしゃに撫で回した。



「うん、わかった♪」


「なあ、弟よ! 姐さんもよしよししてくれまいか!?」



 マキナがベッドの下から顔を出して言う。



「マキナ姉さん!? ずっとベッドの下にいたんですか!? 全力でお断りさせていただきます!」


「何故だ!? シスコンなのだろう? ロゼだけ依怙贔屓えこひいきではないか!?」


「ああ、そうとも。 僕はロゼだけに甘い。 これも確定事項だ」


「えへへ〜♪」


「とにかく二人が元気で良かったよ!」


「本当にそうね、あははははははは!」


「うふふふ♪」



 僕はロゼの頭をグリグリ撫で回す。 もう、大丈夫そうだな。

 皆には心配かけたみたいだし、またお礼もしなきゃ……。

 今日はロゼには悪い事をしたが、おかげで収穫もあった。 明日、早速キャロライン教授に会えるだろうか。

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