第109話 小人

─学生寮・深夜


 ………………。


 ………………。


─トテテテテテテ…


 ………………。


─トテテテテテテ…ポテッ


 ………………。


─トテテテテテテ…


 ………………。


─カチャッ…キィ……パタン…


 ………………。


─ゴソゴソ……


 ………………。


─カチャッ…キィ……パタン…


 ………………。


─ゴソゴソ……


─モゾモゾ……


「……おい」


─モゾモゾ……モニュッ


「おいっ!?」


 僕は掛け布団を持ち上げて一気に立ち上がった!!



「んん……何だ騒がしいのお……?」


「何やってんですか、マキナ姉さん!?」


「んん? 上は何やら物音がうるさくて眠れんのだ」


「だからって僕の布団に入る理由にはならんでしょ?」


「ケチ臭い事言うでないわ、減るもんでも無しに」


「ドサクサに紛れて変なトコ触ったでしょ!?」


「ケチ臭い事言うでないわ、減るもんでも無しに」


「それから、ロゼ?」


「んにゃ?」


「お前もか!?」


「んにゅ? ここ、どこ?」


「何寝惚けてやがる!? ここは僕の部屋だ。 お前の部屋はトイレの横だろ? 間違えたにしては遠すぎるわ!」


「ん? おトイレからもどったら、私のへやに小人さんがいたの。 だから、にぃにのへやにきたんだよ〜えへへ♪」


「小人?? そう言えばマキナ姉さんも物音がどうのって……」


「ボクはもう寝るぞ……くぅ~」


「私も〜……スヤ〜」



 いったい何だってんだ……小人? まあ、何か物音はしていた気もする……。


 仕方ない、様子でも見てくるか……。



─カチャ……


 僕はそっと部屋を出た。


 僕の部屋は寮の一階の奥から二つ目の部屋だ。 食堂リビングの前を通り、寮長の部屋の前を……ムニュ……


 …………………。


 何で寮長この人は廊下で寝てるんだ? 幸い起きなかったのは良かったが。 


 僕は寮長を跨ぎ、とにかく足音をたてずに入口前の階段に差し掛かった。


─ギィ……


 少しきしむが、仕方ない。 なるべく音を立てないように二階へ向かう。


─トテテテテテテ…… 


 確かに音がする。 慎重に行こう。


─トテテテテテテ…コテンッ


 音が可愛い。 なるほど、小人が歩いている音に聞こえなくもない。


 僕はあと少しで階段を登り切る手前で足を止めた。 当然、二階の様子を見るためだ。


─トテテテテテテ…



 ……何だアレ? 小人? いや、モンスター? それより野菜か何かに見えるが……?


 短い二股の葉付人参の様な出で立ち。 顔も形もとても可愛らしい。 妖精か何かだろうか? そして何とか捕まえられないだろうか……?


─トテテテテテテ…ポテッ


 今だ!!


─ガタン!!

 しまった! 足が滑った!?


─ドタタタタタタ…ピョン…スタスタスタッ!!


 ……しかし、正体は解った。


 僕は二階に上がりきり、廊下を忍び足である──


──ドン!!


 何者かに後ろから押し倒されて片腕を捻られて廊下に押さえつけられた!!



「イテテテテテテテテ!!」


「ついに本性を現しおったな、助平め! オレを襲わずに踏み越えて行くとは良い度胸だよ!」


「寮長!? あんなところで寝てたのにはそんな理由があったんですか!?」


─ガチャ! ガチャ!


「どぅしたんでつかぁ〜?」


「ん、寮長? あれ、ノワール君? こんな夜中に二人で何やってんですか??」


「見て分からんか? こいつはお前たちを襲おうとしてだな……」


「違います!! 物音がするから見に来ただけですって!!」


「オレは物音がするから来てみたらお前ノワールがいたんじゃないか!? しょうもない言い訳するんじゃない!!」


「言い訳じゃありませんよ!? ついに突き止めたんですから!! 小人の正体を!!」


「小人? 何だそれは?」


「メリアスさん、そこの鉢植えに何かモンスターを飼ってますよね?」


「ぁぃ。 飼ってまつけど☘みんな知ってまつよ?」


「そうだ、マンドラゴラとカクタスマンだろう? オレが許可しているのだから別に問題ない。 誰かに迷惑かけたのか?」


「マンドラゴラとカクタスマン? ソレって大丈夫なモンスターなんですか?」


「彼女は学生ではあるが、魔法植物学においてはキャロライン教授の助手をしておるのだ。 その研究を彼女の部屋でも行っておるのだが、このマンドラゴラとカクタスマンは言わば番犬ならぬ番植物だ。

 怪しい人が彼女の部屋の取っ手に手をかけた瞬間、とても危険な事が起こる」


「やっぱり危険なんじゃないですか!?」



 メリアスさんがマンドラゴラとカクタスマンを一つずつ持って来て見せてくれる。


 うっ……何だ、この愛らしさ!? 想像していたマンドラゴラの十倍は可愛いのでは? そしてこのカクタスマン……コイツも突出して可愛い。 頭に花が咲いてるぞ?

 確かにこれなら油断するが、いざと言う時は恐ろしいまでの実力を発揮するのだとか……。



「この子はマンドラゴラのドラちゃん。 ほら✿ドラちゃんぁぃさつは?」



─ホニャ☘

 片手を挙げてニッコリ笑いかけてくる!?



「ドラちゃんたちは怪しぃ人が来ると☘精神系のダメージを与えてくれるでつ。 でもうるさくはないのでつ。 鳴き声はとても可愛らしいのでつょ♡」


「可愛いの!?」


「聴ぃてみるでつか?」


「いや!? 全力でお断りさせていただきます!!」


「残念でつねぇ。 そしてこの子は✿カクタスマンのニド君。 怪しぃ人が来ると麻痺作用のぁる毒針を飛ばすのでつ♡」


「毒針!? 穏やかじゃないですね!?」


「でも☘ほら見てっ!? この何を考えてぃるのか解らなぃところがめたくた可愛いのでつよ♡」


─…✿

 何も言わないが、本当に何を考えているのか分からない。 しかし、破壊的な可愛さを持っているのは確かだ。 思わず触ってしまいそうになるが、それは危険だ。



「わ、分かりました。 そして、こんな夜分に女子部屋の前でお騒がせして、申し訳ありませんでした!」


「ノワールもオレの部屋なら遠慮なく入って良いのだぞ?」


「全力でお断りさせていただきます!」


「そう言えば……ロゼとお姉さんの姿がないが?」


「……ね、寝起きが悪い二人ですから、部屋で寝てるのでは?」


「そうか? こんなに騒がしいのに寝ていられるとは……開けてみるか!」


「いやいやいや、寮長!? 寝てる人を起こすのはどうかと……」


「うむ、それもそうか? ではもう、解散だ!! 明日は講義もあるだろう? 早く寝ろ!!」


「「「は〜い」」」


「本当に一緒に寝なくて良いのか?」


「良いです!!」


「つれないな〜」



 各々、それぞれの部屋に帰って行く。 僕はと言えば……。


─キィ……パタン…


 どうするよ? これ!?


 僕のベッドに二人仲良く寝ている。 そして寝相悪いな……僕のスペースがない。


 ………………。


 ………………。


 ………………可愛い。


 めちゃくちゃ可愛いなおい!?


 そして尊い!!


 こんな……


 こんなあられもないお姿に……


 興奮しないわきゃねーだろっ!?


 いかん!


 これはいかん!


 理性がぶっ飛ぶわっ!!


─キィ…パタン!


 僕は……後ろ髪魅かれながら……少し立ち尽くし、意を決して食堂リビングへと歩を進めた。


 ………ムニュン


 何故僕の部屋寄りに近付いて寝てんだ寮長この人!?


 僕は二つの山を超えて、ようやくリビングのソファへと辿り着いた。


 もう寝よう。 


 と、ソファに横になろうとしたら。



「痛っ!? 何!?」



 食堂リビングの照明を点けると何故かソファの上に……ニド君!?


 やべぇ……腕が痺れて来た……。 これ、どうしたら良いんだ??


 い、意識まで…薄れて……き……。


─バタン!



◆◆◆



─魔導学園・昼休み・食堂


 食堂にはロゼ、エカチェリーナ、ノラ、ピコの面子で机を囲んでいた。

 ノワールは毒が抜けるまで安静にしなければならず、寮の自室で休養をとっている。



「ねえ、ロゼたん?」


「………………」


「ロゼたん?」


「………………」


「ちょっ!? ロゼたんっ!?」



 エカチェリーナがロゼの方を掴み、グングンと前後に揺らす。



「んっ!? ん、な〜に? どしたの、チェリたん?」


「どうしたのはこっちのセリフよ? 今日は一日ボーっとしっぱなしだわよ?」


「………………」


「ロゼたん、ノワール君の容態はそんなに悪いのかい?」



 珍しく食堂で食事をとっていたピコがロゼに尋ねる。

 


「ん〜……メリアスたんはだいじょ〜ぶだって言ってた……」


「そっか、なら大丈夫なんだろうね?」


「あの……私、今日下校時に寮に寄って、ノワールさんのお見舞いして行こうかと思っていますが、ロゼさん宜しかったでしょうか?」


「……ん? うん……」


「じゃあ、ボクも寄ってくよ」


「当然、あたくしも行きますわよ!?」


「学校帰りだから、何も持って行けないけど、お愛想なしかなあ?」


「あ、あの、私一度帰って、バイト先のケーキを買って来ます!」


「ノラたん、あたくしに任せてちょうだい!? 先日お世話になったお返しよ。 スチュアートに買って来てもらいますわ!!」


「じゃあ、ケーキはチェリたんに任せようか!」


「あ、ありがとうございます!」


「それじゃ、放課後皆で行くわよ!」


「「は〜い」」


「………………」



 落ち込んでいるロゼを皆でなだめるも、あまり効果がない模様である。 もうシオシオなのだ。 

 

 かくして、放課後はノワールのお見舞いのために、学生寮に集まることとなった。

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