第101話 へんしん

─学生寮


 エカチェリーナは暴漢二人を不問として諮問機関しもんきかんへと提訴する事を取りやめた。

 学校側はむしろ納得が行かず、彼らを校則違反で一週間の停学処分としたのだ。

 しかし彼らは自ら退学届を提出して学園を去った。


 学園内は彼らが退学した事を受けて、幾つかの噂が広がっていた。 勿論根も葉もない噂である。

 

 エカチェリーナが彼らを追いやった。


 エカチェリーナがノラの暴行を隠蔽した。


 エカチェリーナとノラはデキている。


 など、きっと彼らが流した噂だろうが、噂というモノは尾ビレ尻ビレを増やして独り歩きするものだ。

 以前より冷ややかな視線が彼女らを蚊帳の外へと追いやる。


 ノラさんは責任を感じて以前より萎縮している。

 

 エカチェリーナさんは人間不信をこじらせてしばらく学園を休んでいる。


 良くない流れだ。


 ……………。



「なあ、ロゼ……いったい何をやってるんだ?」


「ん? へんしんしたいんだけど、いくらやってもぜんぜんできないんだよ!?」


「そうか……何に変身したいんだ?」


「まほ〜しょ〜じょだよ?」


「そうか……ここの腕の角度が違うんじゃないか?」


「そっか!! もっかいやってみる!!」


「お、おう」


「む〜んぷりぷりぱわ〜!! ロ〜ゼ〜む〜ん!」


「おう、ロゼは何をやってるんだ!?」


「あ、りょ〜ちょ〜! つきにかわって〜いたずらよ〜!」


「よく分からんが、楽しそうだな!」


「うん、でもね、でもね、へんしんできないの〜!!」


「変身するのか!?」


「うん! かぁい〜ふくにねぇ、きがえるんだよ!!」


「可愛い服……そうなのか?」


「ほら、コレ見て!」



 ロゼがタブレットを寮長に見せている。 魔法少女……寮長に分かるのだろうか?



「これは………可愛い……なんならオレも変身したいな!?」



 まぢか!? 寮長のツボがまったく分からん!!



「そんな事より、最近マリオンを見ないが知ってるか?」


「そう言えば晩御飯になっても出て来ませんね? 何かあったのでしょうか?」


「さあな? 少し前にゴーレムが出来るってはしゃいでいたからなぁ……失敗したのか?」


「あ〜、なんかね〜サークルでもめてたよ〜?」


「ロゼ、そうなのか?」


「あ! マリオンさんだ!」



───っ!?

 噂をすれば影がさす!? 学生寮のリビングに現れたマリオン先輩は、げっそりと痩せこけていた。



「マリオン!? いったいどうしたんだ!?」


「え、何がですか?」


「鏡をみろ! ホレ!」



 マリオンは寮長が出して来た手鏡をじっと見つめている。 しかし、マリオン先輩の目は虚ろで焦点は定まっていない。



「うわあ……酷い顔ですよ寮長? どうしたんですか?」


「それはお前の顔だバカモン!!」


「あれぇ? そうなんですか?」


「先輩! 僕はいいんで、この朝ご飯食べてください!」


「お? 良いのか? マグヌス、すまんな?」


「先輩、ノワールです!! はい、どうぞ!」


「そうですか、寮長、すみません……」


「おい、本当にどうした、マリオン? 困ったことがあるなら相談に乗るぞ??」


「困ったこと……困ったこと……うっ……」



 マリオン先輩がじわりと涙目になる。 フルフルと唇を震わせて言うには。



「寮長、ぼかぁどうすれば良いんすかねぇえ!? えぐっ……ひっ……」


「何のことか、ちゃんと話さんと解らんぞ!?」


「サークルの皆がですねえ? キング・オブ・ゴーレムに参加しろって言うんですよ!!」


「お前はゴレ研だろう? 参加すれば良いではないか?」


「僕のロザリアたんをあんな試合に参加させるなんて出来ません!!」


「ロザリアたん?」


「はい、僕のゴーレムです!」


「ほう。 それでどうして参加させられんのだ?」


「この画像を見てください……前回の試合に参加した、サークルメンバーのゴーレムですよ……」



 マリオンのデバイスから壁に映写されて、サークルのゴーレムたちの凄惨な画像がムービーで流れる。



「うわあ、これは酷いなあ!?」


「そうでしょう!? ロザリアたんがこんな事になったら、僕は正気ではおられませんよ!?」


「まあ、今も正気とも思えんが?」


「ぼかぁ、ぼかぁ、サークル辞めようかと思っています!!」


「なら辞めれば良いではないか?」


「寮長!? そりゃあんまりですよ? 先輩は本当は辞めたくないから相談してるんじゃないですか!?」


「なら、辞めなければ良いではないか?」


「それだと先輩は試合に参加しないといけないでしょう? 彼は参加させたくないって言ってるんですよ?」


「参加させなければ良いではないか? 君たちは答えが出ておるのに何をいったい言っているんだ?」


「よし! せんぱいのかわりに、ロゼがしゅちゅじょお? しつじょう?しよ〜!」


「ロゼ? お前、ゴーレム持ってないだろう?」


「ゴーレム?……もってない……むぅ……つくる?」


「うはあ! ゴーレム舐めてもらっちゃ困るな! 僕でも組み上げに三ヶ月、仕上げに一ヶ月を要したんだ。

 そんな一朝一夕で出来るわけがないだろう?」


「マキナたんに相談してみる!」


「マキナ? 誰だそれ?」


「へんたい?かがくしゃだよ?」


「変態科学者? ノワール君、そうなのか?」


「まあ、あながち間違いでないところが非常に残念ですが、自称、天才科学者ですね?」


「天才科学者……」


「彼女を模したアンドロイド、マッキーナちゃんを見れば納得出来るかと思いますが……天才であることも間違いではありませんね?」


「あ、マキナたん? ロゼだよ〜! おひさしぶりぶり〜♪ え?うん、元気元気! マキナたんやみんなも? そっか、良かった♪」



 ロゼは自分のデバイスを起動してマキナさんと連絡を取っているようだ。 凄まじい行動力だな!?



「早い……」


「そんでね? マキナたんはゴーレムつくれる? ……おお!? ほんと? どれくらいのお時間かかる? さいて〜三時間はほしい? わかった! え?ずあん? ん〜わかんないから、にぃににそ〜だんしてからかけなおすね? うん! ありがとう♪」


「さん、じかん?……僕の時間は何だったんだ? いや、そんな時間では作れんだろう? そもそも錬成するのにどれほどの魔力を要するか……」


「……おそらく、その辺りも問題ないな。 ロゼ? 図案ってのは、見た目をどんな感じにするかだな?」


「たぶん?」


「ロゼはどんな感じにしたい?」


「まほ〜しょ〜じょマロマギのマロカちゃん?」


「魔法少女マロカ☆マギアのマロカちゃんだな!? ピンクのツインテールの?」


「そう! 私はみんなをなかせたくない! さいごまでわらってほしい! それをオジャマンペが美味しくないだなんて! ゆるせない! ていせいしろ!」


「魔法少女のセリフだろうが、色々間違ってるな?」


「えへへ〜♪」


「よし、画像をスクショして送っといてやる。 ついでにゴーレムの規格も必要だな……。 あ、それからロゼ? 今日、入部届けを出しておけよ? 大会出るんだろ?」


「わかった!」


「え!? おいおい、お前ら本気か? 僕は知らないぞ?」


「ロゼが好きでやってるだけだよ♪ マロカたんがきっと何とかしてくれるよ!?」


「大会は勝ち負け関係なく、参加さえすれば廃部は無いんだな?」


「ま、まあ? そうなるな?」


「よし、ロゼ! 思い切りやってやろうぜ! せっかくの学園生活だ! 楽しまなきゃな!!」


「うん♪」


「……せっかくの学園生活……楽しむ、か。 まあ、頑張れよ? 部長にはMEMEミームで言っといてやるわ! 僕は今日も欠席するから……」


「マリオンたん、ありがとね!!」


「こらこら、マリオン先輩だぞ? 失礼だろ?」


「あははははは、構わないよ! ゴーレム出来たら見せてくれよな!?」


「わかった〜!!」


「ノワール君、朝ご飯をありがとう! 少し元気が出たよ!」


「お粗末様でした〜♪」


「ノワール、おかわりをくれ!」


「寮長……、はいはい……」


「おや? マリオン君じゃないか? 珍しいな?」



 声の主に目をやると、リビングの入口に寝惚ねぼまなこのマグヌス先輩がいた。


「マグヌス君? いやまあ、皆さん心配してくれていたみたいで、すみませんでした!」


「いや、元気そう?でよかったよ。 ところで、魔法少女の話をしていたか?」


「先輩、ロゼが魔法少女マロマギのゴーレムで大会に参加する事になりました」


「……どうしてそうなったか知らんが、ゴーレムが出来たら俺にも見せてくれよな!? ちなみに俺はマミルたん推しだから、よく覚えとけ?」


「先輩、今更ですが……まあまあのオタクです!?」


「まあまあとは失礼ではないか? ガッツリだ!! 良いか? 大事な事だから二回言う! ガッツリだ!!」


「そうだぞ、少年。 こいつをただのオタクと思っていたら大間違いだ。 ぼきゅの知る限り、マグヌスこいつは真正オタクに違いない」


「ぉ、ぉはょぅござぃまっ。 ごはん……なんでつか?」



 少し遅れてココさんとメリアス先輩が入って来た。 二人はまだ寝巻きのままで、食事の匂いに釣られて起きてきた様だ。



「今日はすみません、簡単にサラダとトーストとベーコンエッグ、そしてコーンスープです」


「ぁぃ」


「ココ、先輩をコイツ呼ばわりはやめてくれ……ハァハァ」


「変態め……いっぺん死ねば良いのに」


「グハッ!」



─………………。

 学生寮の朝は遅めだ。 今日は遅刻確定だな……。 もしかして、学生寮の流れに引っ張られている? いや、そんな事はない……はずだ!

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