第98話 合成魔法

─次の日二限目

 講師:ボルトン

 科目:応用魔導学科

 場所:屋外魔導演習場


「さて、課題に出しておいた応用魔導で学んだ合成魔法はみんな出来ておるかな? 自分で考えた魔法であれば、過去に既出のモノであっても構わん。 

 要は二つ以上の属性を組み合わせたモノであれば良い。 予め使う属性とどんな魔法であるかはこの紙に書いてもらうので、人のを見て真似る事は出来んが、たまたま被ってしまったモノは目を瞑る

 そしてその魔法を使ってあの的を壊すこと。 それが課題だ

 まだ出来ておらんモノは手を挙げろ!?」



 ボルトン先生は生徒たちを見回すと、ひとつ手を打って口を開く。



─パン!

「よし! おらぬようじゃな? では用紙をココに用意しておるから、それぞれ課題の魔法について書き込むように!」



─はい!


 ボルトン先生は屋外魔導演習場に設置された台に、用意しておいた用紙に書き込むように生徒を促して行く。



「書き終わった者から提出して、実演してもらうぞ? ……おう、ロゼ君早いな?」



 ロゼはやる気満々と言った感じで鼻息を荒くして、記入した用紙をボルトン先生のところへ持って来た。



「……使用魔法は土・風・火・光。 ……発動魔法はウラヌスが色々やる? どう言うことだ、ロゼ君? まあ、とにかくやってみろ!」


「は〜い!」



 ロゼは的に向かって対峙するや否や、タクトを構えて呪文?を唱えた!!



「けんげんせよ! ウラヌス!」



─ボッコオオオオ!!

 地面よりデフォルメされたドラゴン様の土人形が形成される。



「て────っ!!」



─ブフォオオオオオオオオ!!

 大きく開けられたウラヌス?の口から火炎砲が発射される!!

 しかし的はまだ残っている。



「け────っ!!」



 火炎放射をめたウラヌス?は風魔法によりゆっくりと身体を宙に浮かせ……掛け声と共に的に突進した!!



─バキィイイイ!

 的を壊したウラヌスはゆっくりと着地してこちらを向く。



「勝利のポーズ!!」



─ウラヌスは両手を挙げて、目がキラリと光る!!


 ロゼはやりきった感じで、ドヤ顔をしてボルトン先生の方を向いた!!



「ロゼ君……面白い。 面白いが課題のソレとは違うな! 課題は二つ以上の属性を用いた合成魔法の事を言っておる。 二つ以上の属性を使えば良いと言うわけではないのだ。

 いや、火炎放射は火と風属性か、意図した魔法ではないが……まあ、良しとするか」


「やたっ♪」


「さあ、次々行こうか! モーリス君!」


「はい!」



 意気揚々とした感じで的と向かい合う。

 モーリスはタクトを構えると呪文を唱えた!



火炎爆発フランマ・エクスプロージョン!!」



─ボムッ!

 的が爆発を起こして粉微塵と化した。



「風魔法で空気を圧縮したモノに火魔法を合わせて爆発を引き起こした。 まあ、定番の魔法ではあるが、良しとしよう!

 次、アリス君!」


「はいっ!」



 彼女はタクトを構えると、すぐさま詠唱を始めた。



水竜巻アクア・ターボ!」



─ビュルルン…バキィ!

 水の竜巻が的を薙ぎ倒す!



「よし、どんどん行こうか、ピコ君!」


「はい!」



 ピコは少し離れてタクトを的に向けた!



石礫ラピス・グラレア!」



─ダダダダダッ!!パララ…

 石鏃が空気の流れに乗って的を蜂の巣の様にに射抜く。 的は粉微塵だ。



「よし、上手くいった!」


「うむ、良いぞ! 次、エカチェリーナ君!!」


「はい!」



 エカチェリーナは既にタクトを構えている!



超旋風塵スーパー・タービュランス!」



─ビュオオオオオオ!!バキッ!

 粉塵を纏わせた重みのある超速つむじ風が、的を杭ごと圧し折って巻き上げた!



「ふふ。 他愛もないわね!」


「おお!? 風の重ね掛け✕土属性とは三属性とも言えるか。 やりおるな。 では次! ノワール君!」


「はい」



 タクトの先を的に正確に向ける。 しっかりと狙いを定めて……。



超電磁銃レールガン!」



─バリリッ!パッカーン!ビキッ!

 土魔法で弾丸の形に金属のみで生成し、電磁波で帯電した弾丸を射出した。 的の後ろの超防護結界に食い込んで止まった。 的は分解されて跡形もなくなっている。

 ボルトン先生は驚きの形相を隠せないでいる。 僕的にはやってみたかったんだよね、コレ。



「雷と土属性……いったい……いや、確かに風属性ではないな。 ノワール君、君はいったい何をしたのかね? まさか概念魔法と言うわけでは……」


「え? 電磁力で弾丸を飛ばしただけですが?」


「何だと!? 応用魔導までは粒子魔法、再現魔法と言ってあくまでも物理に干渉する魔法だ。 言うなれば、物理的に想像出来る事象は大抵再現出来ると言える。

 つまり、君は今の事象をイメージ出来たと言うことになるが、そうなのか?」


「え?……はい。 出来ました」


「そう……なのか……」


「何か、まずかったですか?」


「いや、何でもない。 ……次、アレクセイ君!」


「は、はい!」



 こちらの異世界は近代的で所謂いわゆる異世界と違って文明が進んでいる。 当然教育も進んでいる訳だが、おそらく魔法の存在が認識の邪魔をしているのだ。 つまり、物理や化学と言った事となると少しズレがある。

 例えば今の磁力についてもその存在こそは認識されているが、その作用や特性についてはまだ研究途中といった感じなのだ。

 とは言え、文明そのものは僕のもと居た世界より、数歩先に進んでいるとも言える。

 それは魔導と言う力が大きく関わっているからだろう。

 イメージ出来る事は再現出来る。 出来るが故にイメージする事を阻害しているのだ。 



 それからとくにこれと言って目立った魔法もなく演習が終わって、僕的にはロゼの魔法が一番衝撃的だったと思えた。

 最後のウラノスの目が光るあたり、心の奥の何かをくすぐられている気がしていた。



─昼休み・食堂



「あのお……」



 ノラさんは約束通り食堂の券売機の前で僕たちを待っていた。 今日は僕とロゼ、エカチェリーナさん、そして今日はピコ君も昨日のうちから誘っておいたのだ。

 ピコ君は普段メイドさんが作るお弁当なのだが、今日は学食を一緒に食べてもらう。



「あのお……すみません、私、本当に一緒に居ても良いのでしょうか?」


「いいよ〜♪ ノラたん♪」


「ノラたん……!?」


「約束したじゃないですか、それとも別に、ノラさんが嫌だと言うなら……」


「す、すみません! すみません! そんなつもりで聴いたわけじゃないんです! すみません!」


「も〜、ノラさん?」


「あ、は、はい!? え? エカチェリーナさん!?」


「あら、あたくしが一緒じゃ不服かしら?」


「いえ、その……私なんかが、エカチェリーナさんと一緒の席だなんて、畏れ多いと言うか……す、すみません!」


「何を仰っておられるのか分かりませんわ! いったいあたくしが何様だとお思いになって?」


「え……その……ガンドアルヴの……」


「この学園において身分なんてモノは関係ないわ!! 皆等しく一生徒、そうではなくって!?」


「す、すみません! すみません!」


「それから、ソレ! あなた、さっきから謝ってばかりじゃない!? まるでこちらが謝罪を強要している気分になるからおよしになってくださるかしら?」


「す、すみま……すみません、あ、はい。 そ、そうします……」


「ノラさんはどこの出身ですか?」


「ピコさん!?」


「いえ、エカチェリーナさん、いいんです。 ピコさん、私は……今は帝国領の植民地と、なっております、マーナガルム獣王国にございます」


「そうですか、それは大変な思いをされた事でしょう。 今はどこにお住まいなのですか?」


「ちょっ! ピコタさん!?」


「はい……帝国領の養護施設で育てられまして、今はナーストレンドの街に部屋を借りています。 こちらのマダム・ヘンリエッタ様に格安の部屋を紹介していただきました。

 こちらを卒業出来ましたら、住み込みで働けるところを探す予定です」


「なるほど。 とてもしっかりとした人格をお持ちのお方とお見受けいたしました。

 ボクはヨトゥン王国のピコ=クエタと申します。 とても失礼な質問と分かってはおりましたが、お友達として相手の素性を知りたいと言う事も察していただければ幸いです」


「いえいえ、過分のお気遣いをありがとうございます!」


「ねえ〜? ごはんたべよ〜よ?」


「こら、ロゼ? 挨拶してるだろう?」


「いえいえ、ロゼたんおまたせ〜! 食堂は何が美味しいのかな?」


「んとね〜、こないだ食べたおじゃまんぺのオムレツプレートは美味しかったよ〜!」


「お? おじゃまんぺ? 何です?ソレ……」


「さあ……なんだろう?」


「ピコ君、マダムの日替わりプレートならいつでも美味しいですよ?」


「へえ〜! マダムの!?」


「日替わりで三種類くらいのおかずが乗ったプレートなんだけど、どれも美味しいんだよ」


「じゃあ、それにしようかな!」


「あたくしはいつもの食堂のおばちゃんスペシャルですわ!」


「チェリーさん……なんですか、それ?」


「わ……わ、私もいつもそれにするんですけど、ボリュームがあって味も良いんですよ?」


「じゃあ、ロゼもそれにするよ〜!」


「僕は……オジャマンペのオムレツプレート……にしようかな」


「オジャマンペ……」



 各々食事を取って席を探し始めるが、早めに来たにもかかわらず、既に埋まり始めている。



「これは……二手に分かれるか……」


「皆さん、こちらの席が空いておりま──っ!?」


「おい! ねこ娘、邪魔だ! どけよ、獣臭え!!」


─ガシャン!!

「あっ……」


「あ〜あ……テメェが悪りぃんだかんなっ!!」


「うわっ!? 制服が汚れたじゃねえか!? いってぇ、どうしてくれんだ!? あ゙っ!?」


「すみません、すみません!!」


「謝って済むなら魔警隊は要らねぇんだよ!?」


「ひぃっ……す、すみません、すみません!!」


「チッ! ……!?」

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