第95話 コンパニオン・モンスター

─プニョン……

「うぷ」



 部室内へ入ろうとしたロゼの身体を、プニョプニョの柔らかな素材が受け止める。


 少し戻って開けたドアの中にスライム状のカーテンを確認した。 触ってみると、身体には着かないが、適度に密着して受け止めてくれる半透明の素材だ。

 それにしても、この素材が入口いっぱいを塞いでいて、どの様に入れば良いのか解らない。

 入口で三人が戸惑っていると、奥から人が現れた。


「あらあらまあまあ、見ない生徒さんね? 見学かなあ?」


「サークル見学に来たのですが、どうすれば中に入れますか?」


「そのままグッと体重をかけてみて?」



 ロゼが興味津々と言った感じでプニョプニョにもたれかかった!!

 すると先ず顔が突き抜けて、次に手が抜けて、あれよあれよという間に中に入っていた。 顔から行って勢いでバランスを崩し、腕をクルクル回したが、けっきょく倒れてしまった。



「おもしろい!」


「ロゼたん大丈夫? 僕も行くよ!」


「ピコタ、あたくしも行きますわ!」



 ピコとエカチェリーナが続け様にプニュ〜ッと中に入った。 二人は身体にプニョプニョが付いていないか確認するが、特に何も付いてはいない。



「「不思議!!」」


「これはね、魔法生物が逃げてしまわない様に特殊な加工を施したスライムカーテンなの。 グッと継続的に力をかけると抜けることが出来るけど、突発的に抜け出る事はできない、そう言う仕様よ?

 スライムを使っているけど、核は抜いてある。 ドロリと溶けてしまわない様、性質維持の為にこの魔石に定期的に魔力を供給しなければならないわ」


「へ〜! おもしろ〜い♪」


「そんなことより、どうぞ中を見ていってちょうだい?」



 中には五人のサークルメンバーが居て、各々のパートナーを愛でている。 他にも九人ほど部員が居るらしいが、サークルは掛け持ちも可能なので、皆気まぐれで参加するらしい。


 入口まで来てくれた部長のカメリアさんが、簡単に愛玩魔法生物について説明してくれた。


「どうも、伴侶魔法生物コンパニオン・モンスター研究会の部長、カメリアです。 

 これから簡単に伴侶魔法生物コンパニオン・モンスターの説明をしますね?

 先ず、私たちが何故愛玩ペットではなく、伴侶コンパニオンまたはパートナーと呼んでいるかと言う点について理解してもらいたいです。

 魔法生物モンスターは愛玩つまり、おもちゃではありません! 相棒であり、家族です。 ちゃんと愛情をかけて育ててあげないと死んでしまいます!

 魔法生物を愛玩ペットと呼ぶ人はうちの部員に必要ありませんので、お引き取りいただきます。

 さて、その伴侶魔法生物コンパニオン・モンスターは普通の動物と違って、法的に規制が厳しく設けられております。

 先ず、手のひらサイズであること。

 次にひとつの魔法生物につき一体しか飼育してはならないこと。 これは繁殖行為の禁止に準ずるもので、仮にオス同士だったとしても、オスがメスに変態する魔法生物も居るので例外はありません。

 そして、魔法生物の魔石と飼い主の魔晶石の登録が必要になります。 近くの役所に行って登録します。

 手のひらサイズを超える魔法生物は、その魔法生物に応じた資格とタグが必要となりますので、このサークルでは扱っておりません。

 さあ、今日来ているサークルの皆さんにそれぞれの伴侶魔法生物コンパニオン・モンスターを紹介していただきましょう」


 一人ずつ自己紹介を兼ねて、伴侶魔法生物コンパニオン・モンスターを紹介してくれる。



「先ず私、部長のカメリアよ。私が飼っているのは、クリスタルスライム。

 キラキラして綺麗けど、触り心地はプニョプニョしていて気持ち良い。 スライムは懐かないと思われるかも知れないけど、そんな訳でも無いわね。

 基本的に魔法生物は生命体として、マテリアル体よりもアストラル体の色合いが強いので、魂の繋がりが出来るのよ。 自分の魔力を与える事でそれが深まるの。 もちろん相性はあるけどね」


「うちは副部長のフラウですぅ。 こん子は小型に品種改良されたマンイーター。 フラフラ踊ってるみたいで可愛いっしょ♪

 口パクパクさせて餌を強請ねだってるけど、名前と違って人口飼料で餌付けしてるから安心して飼えるんよ」


「リタはフラッフィーモスと言う、手のひらサイズのモッフモフのおカイコさんだよお♪

 とっても可愛い容姿なんたけどお、モンスターとしては幻覚作用のある神経毒が鱗粉に含まれてるから危険なのお。

 でもでも、これは改良品種されてるから毒はないんだあ♪

 ただねえ、はねがあるから、飛んで逃げてしまわない様に注意が必要かなあ」


「自分はミリーっす。 自分のはエージェント・スパイダーと呼ばれる蜘蛛のモンスターっす。

 容姿はハエトリグモに似てるけど、八つの目で空間認識能力が高いから、別名マッピング・スパイダーと呼ばれてるっす。 魔石から送られる情報をリンクすることで、簡単にマッピング出来るから、冒険者にも人気があるっすよ」(※ちなみに、以前スミスが放った小型工作ドローンの【アラネアちゃん】はこの蜘蛛がモデルとなっている)


「最後はモリーだね! あ、モリーとミリーは双子の姉妹でモリーは妹。 そして、この子はピグミードラゴン。

 ヤモリの様に少し頭がでっかくて、目がパッチリしていてるの! 小さな翼をパタパタ動かしているけど、この子はまだ飛べない。

 指にとまるくらいの大きさで飼いやすいし、意思疎通もドラゴン種の特性で比較的しやすいのがニジュウマル! 

 しっかーし! ピグミードラゴンは飼い主を選ぶから、誰でも飼える訳では無いんだよ!!」


「い……いい!」



 エカチェリーナが少し興奮気味に目の瞳孔が開いている。



「ちぇりたん!?」


「ロゼも飼いたいなぁ……でも、ウラノスたんがいるから無理かなぁ?」


「ウラノス?」


「うん。 ロゼの大っきなおともだちなの!! か〜い〜んだよ〜♪」


「お、大きいの?」


「うん! こ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜んなに大っきい!!」



 ロゼが軽くジャンプして手を上から横にいっぱいに広げてウラノスの大きさを表現する。 今は完全に大の字だ。



「え…………ええっ!?」


「それって……普通のモンスターじゃないの?」


「ウラノスたんはドラゴンだよ!?」


「「「「「「「ドラゴン!?」」」」」」」


「手乗りサイズじゃなかった!?」


「ドラゴンって……それって特殊免許が要るでしょ?」


「私は持ってないんだけど、おにぃたんが持ってるんだぁ〜♪」


「お兄様!? 竜騎手ドラゴンライダーなの!?」


「どらごんらいだ〜って何?」


「競ドラのジョッキーだよ?」


「じょっき〜? 知らな〜い」


「おにぃたんってノワール君だよね?」


「そだよ〜? ウラノスたんはのわ〜るのドラゴンなんだよ?」


「「「「「凄い!ドラゴン!」」」」」


「ウラノスたんはね、真っ黒ではねを広げるともっと大っきいの!!」


「そんな…真っ黒のドラゴンってそんなにいないわよね?」


「私は聴いたことないな。 レッド、ブルー、グリーン、イエロー、パープルまでは知ってる。 たまにアルビノ種でホワイトが見られるくらいかな?」


「へぇ、くわしいんだねぇ〜」


「モリーの夢はドラゴン・トレーナーだからね!」


「そうかぁ、モデナさんと同じだねぇ〜」


「え!? モデナって言った? それってもしかして、ファーヴニル競ドラ場の専属トレーナーのモデナさん!?」


「うん、そだよ?」


「ええ〜っ!? モリーの憧れの人だよ〜! モデナさんと知り合い!? 知り合いなの!?」


「ん〜……のわ〜るにぃたんのお師匠さん?」


「ええ〜っ!? 紹介してもらえないかなぁ??」


「ちょっとモリー!? いきなり失礼じゃない?」


「えっ? あぁ、ごめんなさい! つい興奮しちゃってた!! ドラゴンが好き過ぎて!!」


「わかるっ!!」


「チェリたん!?」


「あたくしもドラゴンが大好きなんですのよ? うちの国にたった二体、竜騎士ドラゴンナイトのドラゴンがいるのだけれど、ずっと見ていられるもの。 ドラゴンには他にはない魅力があるのよ、きっと」


「そう! あなた、チェリーさんだっけ?」


「あら、自己紹介まだでしたわね、ごめんなさい? あたくし、エカチェリーナ、エカチェリーナ=ヴィクトリアと申します」


「ボクはピコ=クエタ」


「ロゼはロゼだよ!」


「まあ、サークル活動としては名前の通り、伴侶パートナーになれる魔法生物の研究を主にしているけど、こうやって自分のパートナーを見せ合って、話をしたりして情報交換している事が多いかなぁ。

 専ら生態よりも飼育方法に特化して資料をつくっているわねぇ」


「集めた情報はネットで公開して、更に情報交換の場をひろげているの。 ほら、見て?」



 部長のカメリアがパソコンのモニターを指して言う。

 見ると可愛らしいモンスターの写真がいっぱいのホームページのトップ画面があって、【伴侶魔法生物大全】と書いている。


 伴侶魔法生物の紹介や詳しい飼い方が載せてあって、アクセス数もかなりのものだ。

 中でもピグミードラゴンの人気は凄い。 ずっと掲示板のスレッドが伸びている。



「あ、あ、あたくしも入りたいですわ! 伴侶魔法生物コンパニオン・モンスター研究会!」


「チェリたん、他のサークルは見てみなくて良いの?」


「あたくし、ココに決めましたわ!」


「そっか。 ボクはもう少し見て行くけど、ロゼたんはどうする?」


「ん〜〜……そろそろおにぃたんのとこにもどるね!」


「そうだね、もうこんなに時間が経ってたか……」


 ピコがデバイスの時間を見て言った。


「じゃあ、今日はこれで解散だね、また明日教室で!」


「ありがとう、楽しかったわ!」


「うん、またね〜♪」



 二人はエカチェリーナを残して、プニュ〜っとスライムカーテンを抜けて出て行った。




──────────────


コンパニオンモンスター挿絵


https://kakuyomu.jp/users/dark-unknown/news/16818093074991312370

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