第94話 図書館とサークル見学

─放課後


 僕はひとり図書館棟へ来ていた。

 リリーズ・マジカルアカデミーの図書館の所有する蔵書は世界的に見ても有数の品揃えだと言う。 きっとマダムの資金力のおかげだろう。 これは利用しない手はないと思わないか?

 先程のエルサリオン教授の講義に衝撃を受けた僕は、ガッツリと魔法の魅力に取り憑かれていた。

 きっとこの図書館ならば魔術書など、山のようにあるのだろう、などと考えながら足を運んだものの……巨大過ぎるわっ!? 何、このマンモス図書館!?

 それに、プラハにある国立図書館くらいに大きく美しい。

 見応えのある天井画を始めとする美麗な絵画や彫刻、本棚そのものが意匠を凝らした美術品だと言える。

 何ならここに住み込みたいくらいに居心地も良い。 完全管理された空調と、予約制ではあるが個室も用意されている。 カフェスペースも併設されており、珈琲の香りが本の匂いと合わさって、読書心をくすぐるのだ。


 それにしても蔵書の数が多過ぎて、見て回るだけで一日を費やしてしまいそうだ。 にもかかわらず、図書館お抱えの司書は一人だけだ。 しかし、図書の案内は全てシステム化されており、希望の棚までドローンが案内してくれる。

 ドローンにはAIが搭載されており、希望の図書の場所を伝えるだけで所定の場所まで連れて行ってくれるのだ。 なるほど、司書は一人で事足りると言う訳か。


 僕が図書館棟ここに来たのはほかでもない、使える魔導書を探しに来たのだ。 学園に居る間に何とか魔法を熟知したいと思っている。

 魔導学園には、けっして……決してアオハルのリベンジだとか、学園生活を満喫しに来たのだとかではない! 断じて!!


 そして、半個室になっている読書スペースがズラリと並んでいるが、席はそこそこ空いている。

 あれ……どこかで見たようなモノが目に入る。 半個室を作っているパーテーションの上からひょっこり見える帽子。 そう、この学園で帽子なんて被っているのはあの娘だけだろう。

 しかしまあ、読書をしているし、特に声を掛けるような用事もないので、僕は自分の読みたい本を再び探し始めた。


 特殊魔法に興味をごっそり持って行かれた僕は、関係書籍をいくつかピックアップして半個室へと運びん込んだ。


・概念魔法のその先へ


・使える概念百選


・時空魔法の実際


・空間魔法の落とし穴


・危険な時間魔法



 先ず全ての本をパラパラとめくってどんな感じなのか見てみる。

 ……これは一朝一夕では読めんな。 どうやら、しばらくは通う事になりそうだ。



 その頃ロゼは、ピコやエカチェリーナとサークルの見学に来ていた。

 先ず、学生寮の先輩のいるサークルから見てみる事になった。 しかし、オカルト同好会は正式なサークルではない為に却下となった。 つまり来ているのはゴーレム研究会だ。


 学園の片隅にサークル棟はある。 その一室にゴーレム研究会の看板がかかっているのだが、中からは特に物音はしない。



「ピコたん、あんた男でしょ? ちょっとドア開け──」


─ガチャッ!


「たのも───っ!!」


「「ロゼたんっ!?」」


「…………………」


「返事がないわね? ピコタが入ってみ──あっ、ロゼたん?」



 部室内にズケズケと入って行くロゼ。 中に入ると……マリオン先輩をサークルの人たちが囲んでいた。



「マリオン、もうお前しかいねぇんだ!」


「頼む! 出場してくれねえか!?」


「嫌だ!! 僕はそんなことの為にロザリアを作ったんじゃない!!」


「しかし、お前が出場してくれなかったら、このサークルも廃部になってしまうだろう!?」


「そ、そんなこと……知るかよ!!」


「あ! マリオン!!」



 マリオンはサークルの人たちを掻き分け、ロゼたちの顔を一瞬見ると室外へと飛び出して行った。



「行っちまいやがった……」


「くそぅ……このままじゃあ、このゴーレム研究会も終わりだな……」


「ねえ、どうしたの? マリオンせんぱいはど〜してでていっちゃったの?」



 サークルの人たち……と言ってもサークルメンバーはロザリオ含めて五人しかおらず、残った四人はいずれも二年生だ。

 部長のフランク始め、クレイ、パウル、ヘンリックは呆然としている。



「お前らはアイツの知り合いか?」


「おなじがくせ〜りょ~のじゅ〜にんで、こ〜はいだよ? 私はロゼ」


「僕は編入生のピコと申します」


「あたくしは一年生のエカチェリーナよ」


「そうか、俺は部長のフランク、副部長のクレイ、部員のパウルとヘンリックだ。 

 せっかく見学に来てくれたのにこんな状態で悪いな?」


「いや、別に……」


 「俺たちはゴーレム王決定戦キング・オブ・ゴーレム出場権を持っているんだが、今回出場する予定だった俺たちのゴーレムが他校との親善試合でボロボロ壊されちまって、今大会に修復が間に合わねえんだ。

 そこで、今使えるゴーレム持ってるのがマリオン、あいつだけなんだよ……せめて個人戦だけでもと思ったんだが……」


「なのにアイツってば、自分のゴーレムは戦闘用に作ったんじゃないから試合には出せないって言うんだぜ?」


「大会に出なければ、サークルの存続自体が危ういんだ。 今でも最低部員数ギリギリの五人で、二年生ばかりだ。 今年は一年生は入部して来ねえし、何も実績が無ければ廃部確定なんだよ……」


「その壊れたゴーレムは直らないのかしら?」


「ああ……せっかく見学に来たんだし、見てみるか? こっちだ……」


 部室は手前と奥に二部屋あって、手前はミーティングルーム、奥は作業場となっている様だ。

 ロゼたちは奥の作業場へと足を踏み入れた。 作業場は所狭したゴーレムのものと見られるパーツが散らばっていて、テーブルには四人のモノと見られるゴーレム?が置いてある。



「これが俺のゴーレム、ヘラクレスだ……まあ、見るも無惨な有り様だが……」



 見るとゴツゴツとした鉱物で作られた身体だが、首や片腕がもげて無くなっている。



「私のはこれだ……史上最速を誇る私のゴーレム、アポロだ。 その最速を作り出すウィングが折れてしまっているが……」



 アポロは流線型の身体に肩口から腕ごとポッキリ折れてしまっている。 



「僕のはコレ……どんな攻撃でも耐える防御型のゴーレム、イージス……もう溶けて関節まで流れ込んでガチガチだよ……」



 イージスは体躯がもともとしっかりしていたのであろうが、ドロドロに溶かされて見るに絶えない姿となっている。 もはや何かの塊でしかない。



「おれのは……攻撃特化型の……うう……」



 テーブルの上に広げられたソレは、賽の目状に斬り刻まれたブロックの山だ。 イージス同様、原型がない。

 どれも修復にそれなりの時間を要するだろうし、イージスともう一つのゴーレムは廃棄せざるを得ない感じだろう。



「これは……しかし、先日完成したばかりのマリオン先輩のゴーレムが、大会に出てこんな惨状になるかもと考えると、さすがに気が引けるのも納得ですね」


「それはそうなのだが、このままではサークル活動そのものが出来なくなってしまうんだ……勿論出場さえすれば良い訳だから、直ぐに棄権、降参しても構わないんだよ……」


「けれど、おれのゴーレムは試合開始二秒でこれだぜ……うぅ……」


「そうですか……これは出直した方が良さそうですね……」


「ああ、せっかく来てくれたのにすまねぇな。 マリオンには無理を言ったと思ってる。 このまま廃部も致し方ないとも思ってはいるが、何だか諦めるのが悔しくってよ……キツく当たってしまったよ。

 悪いが寮で顔を合わせるなら、俺たちが謝っていたと伝えてくれねぇか? 勿論MEMEミームでも謝っておくがな」


「わかった!! そういっとく!」


「ありがとよ……」


「「「お邪魔しました!」」」



 ロゼたち三人はゴーレム研究会を出ると、次のサークルへと足を運んだ。

 サークル見学なので、込み入った事情は知った事ではない。 自分好みの楽しそうなサークルを探すだけの見学なのだ。

 そして、不意にエカチェリーナが足を止める。



伴侶魔法生物コンパニオン・モンスター研究部?」


「つまり、魔法生物をパートナーにしているって事……かな? でも、そんな事が可能なのかな?」


「面白そうね? 入ってみれば判るんじゃないかしら?」


「そうだね!」


─ガチャッ!


「たのも───っ!!」


「「ロゼたん!?」」

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